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Ⅰ プロローグ
「へ、異動ですか?」
俺は、苦虫を噛み潰したような顔で座る部長の前で、素っ頓狂な声を上げた。
今は6月で人事異動の時期は過ぎているはず。
そんな時期に何故なんだろう。
「うん。実は総務部の方で新しい課が立ち上がることになってね。それで佐和君に白羽の矢が立ったんだよ」
「げっ、総務部ですか」
俺は部長のその顔の意味を理解する。
俺が務めるこの会社の総務部は、数ある部署の中で一番激務と言われている。
一度そこに放り込まれれば廃人待ったなしともっぱらの噂なのだ。
また一体どんな仕事をしているのかというのも謎に包まれた部署で、全社員から忌避されているのである。
どおり部長の表情が固い訳だ。
「分かりました。それでいつからでしょうか」
とはいえ、会社からの命令上逆らう訳にもいくまい。
社畜魂舐めんなよ。
「ごめんね。今日からなんだ」
「はい?」
俺は思わず自分の耳を疑った。
えっ、この人今日って言った?
準備は?引継ぎとかは?
「君のデスク、もう総務部の方に移動させておいたから。辛くなったらいつでも飲みに行こうな」
「えーーーーーーー!」