魔王は正義の無力を嘆くようです。
暗黒大陸の北の果て。絶氷と吹雪が支配する完全なる停止の世界。
常人には辿り着くことはおろか、ただ生きるだけでも困難な、生命を拒絶する神域。
何もかもが終わってしまった場所であり、そこに在るのも、終わってしまった物だけだ。
魔王の魔力によって顕現する古代廃城“エルドバースト”。
その荘厳であったであろう場内を埋め尽くすのは、無数の刀剣の類。床も壁も天井も、扉も窓もシャンデリアも、椅子も机も鎧も絨毯も、ありとあらゆる場所に鋭い刃が墓標のように突き刺さっている。見る者が見れば、億千万と並ぶそれら全てが名高い鍛冶師が打った刀剣よりも洗練され、年老いたエルフが付与した以上の魔力に満ちていることに気が付くだろう。
今代の“大魔王”である“異魔刃”は、前代の大魔王を剣一本で斬り伏せた人類史上最強の剣士であった。その剣士が幾星霜を経て大魔王としての力に完全に覚醒したとなれば、この居城の在り方に少しも不思議はない。
「『何故もがき生きるのか?』」
人類の不倶戴天の敵。魔の時代を終わらせた疑う余地のない英雄が、世界に再び魔の時代を起した大魔王が、屍の山を築き血の河を産み出した戦争の化身が、絶望と言う絶望を絶望させた恐怖が、恐怖と言う恐怖を恐怖させた絶望が、自らの前に立つ聖女を視界に納めると呟いた。
――想像以上に人間だ。
廃城のロビーのソファから立ち上がる大魔王に、聖女はそんな印象をまず覚えた。
一九〇セントを優に越える長身は目を剥くが、血色に染まった着流しの下に隠れた体は戦士と言うには細く特筆するような物には見えない。角もなければ翼もなく、尻尾や牙も隠れていない。その身に宿した異常なまでの魔力量を除けば、街角の剣術道場にいる若い男と見た目は変わりない。
だが、それでも彼は大魔王。
齢七〇〇年を超える、最も長く地上に存在し続ける最強の大魔王。
聖女は首に下げた五芒星のアクセサリを強く握り締め、大魔王の問いに応えた。
「それが神の与えた試練であれば」
聖女の自信に満ちた答えに、大魔王は退屈そうに笑う。手にしていた三メートルを超える金属の塊の様な得物を乱雑に投げ捨て、足元に落ちていたハルバードを拾い上げると、それを真っ直ぐに聖女に向かって構えた。
たったそれだけの所作が既に魔法だった。疑似的に大聖堂と同等の処置を施した筈の聖衣の生地の一部が弾け跳び、幾重にも張り巡らせた魔術的な防護が破られ、斧槍の頭が自分の心臓を貫く姿を幻視する。
幾星霜を経た武の極みは既に、遥かな極みへと到達しているようだ。
勝てるだろうか?
聖女は首から吊るす五芒星のシンボルを指の腹で撫でながら考える。
――――勝てる。
過不足なく客観的な判断として、気が遠くなるような僅差ではあるが、聖女は自分の手札の方が勝っていると確信した。
「『滅びこそ我が喜び』」
「神は言いました。『産めや増やせや地に満ちよ』と」
確かに、この大魔王は歴代最強だろう。
人間であった時から既に個人として完成された剣士であり、既に理に達しつつあった怪物だ。大魔王となったことにより、人類に対しての特攻を得、膨大な魔力は地上のあらゆる神剣宝剣を超える魔剣の創造を可能とした。七〇〇年以上に及ぶ鍛錬を経た技量は、二十歳にも満たない聖女に見切れる物ではない。
だが、それでも勝てる。
聖女が――いや、神血教会が用意した切り札は、埒外の魔力にも、気の遠くなる時間すらも超越する。彼女が単身でこのエルドバーストに辿り着くことができたことが、それを証明しているはずだった。
「『死にゆく者こそ美しい』」
「その美学に則って散りなさい」
五芒星から指を放した聖女は、その手の中に光り輝く杖を呼び出す。
星の光の杖。古代の言葉でプリモルクスと呼ばれる聖杖は、聖女の力と意志を組み取り、幾何学的な魔法陣を幾つも空中に産み出し、あらゆる邪悪を許さないと城内を暖かい光で満たした。その輝きは大魔王の持つ魔力と比べても遜色なく、二人の間では邪気と聖気がぶつかりあい、ほんの僅かではあるが空間が歪み、時間にズレが生じる程であった。
「『さあ。我が腕の中で息絶えるが良い!』」
「正義の力、我等に!」
両者の言葉が力を持ち、魔法を産んだ。両者の間にあった空間が捻じれ千切れ、その衝撃に巨大なロビーが悲鳴を上げ、床に突き刺さっていた全ての刀剣が壁まで吹き飛び、その壁も次の瞬間には崩れ落ち、エルドバースト全体が巨大な悲鳴を上げた。
常人では一瞬たりとも存在することが許されない地獄と化したロビーで、大魔王は何事もなくハルバードを突き出した。例え一〇秒前から来る事がわかっていても避けることも不可能な神速の突き。それを迎え撃つのはプリモルクスが創り出した加護の数々。王城守護の結界と同等のモノが、一突きで七つ吹き飛んだ。この攻防で小国の年間魔石使用量と同等の魔力が使用されたが、まだ殺し合いは始まったばかり。迎撃に使われたのは教会秘奥の邪悪滅ぼす硫黄の火焔と金属の嵐。戦略レベルの大魔法の大盤振る舞いを、大魔王は片方を斧槍の柄で弾き、片方を気合の一括で吹き飛ばした
――勝てんよ。貴様は。
崩れ落ちるエルドバーストの中心で必死に魔力の維持と術式の取捨選択を行う聖女の心に、そんな声が響いた。最初は弱気になった自分の心の声かと思ったが、どうやらそうではなかった。
――神も正義も大義も、闘争に不要だ。
如何にも武人然としたその言葉は、大魔王のものであるらしい。涼しい顔でハルバードを振い、時には手足を使った体術で猛攻を仕掛ける度に、大魔王は聖女の心へと直接言葉を投げかけているようだった。念話の類の魔法は決して難しいわけではないが、この激しい闘争中に会話と言う意識を多く裂き、魔力を余計に消費すると言うのは愚策としか言いようがない。
構わずに聖女は戦闘を続行する。繰り出されるのは教会の秘術だけではない。神血教を国教とする大小五十四の国家から半ば強制的に取り上げた三〇〇を超える古代の呪文に、さらにそこから研究された無数の改良魔法。並みの魔法使いであれば発動に二カ月も三カ月もかかるであろう魔法を、聖女は惜しみなく使用して大魔王へと行使する。既に帝国の都を壊滅させられるだけの魔法を使用したが、大魔王の返り血色の着流しは汚れすらしていなかった。
――貴様が正義である以上、決して勝てんよ。
盤外の口三味線を気にする道理はない。これは相手が苦しい証拠だ。聖女は自分に言い聞かせながら魔法を次々に発動させていく。今までにない高揚感は良いように働いている。前哨戦として何体かの魔王を滅した時以上に気分は冴えている。慣れもあるだろうが、それ以上に使命感が彼女を突き動かしていた。プリモルクスはそれに応え、聖女の至らぬ所をサポートし、隙のない攻防を続けてくれている。
勝てる。
そう感じた瞬間、聖女の視界が不意に傾いた。最初は足場にした天井が崩れたのかと思ったが、限界まで研ぎ澄まされた五感はそんな初歩的なミスを許さない。何故? と疑問が頭に浮かぶよりも早く、星の光の杖が現状への対処に再生呪文を起動した。目の前に展開される魔術式を見て、ようやく右足の踝から先がなくなっていたことに聖女は思い至った。十重二十重と重ねられた障壁は全てが壊滅しており、大魔王のハルバードの斧部分には真っ赤な血がべっとりと付着していた。
が、この程度は想定内。この空前絶後を相手に無傷で終わる等とは最初から考えていない。幸いにも教会が最も得意とするのが人体の再生魔法であり、今回に限っては首から上が吹き飛ぼうとも、首から下が消滅しようとも問題はない程の魔力的な蓄えがあった。足首の一つや二つなんの問題にもなりはしない。
実際、続く大魔王の攻撃を防いでいる内に足首の再生は完了し、不毛にも思える魔法戦には何の変化ももたらさなかった。莫大な量の魔力を自在に操る大魔王の放つプレッシャーに衰えは微塵も感じないが、聖女の持つ魔力も同様だ。
――信仰を利用した魔力の経路か。
無尽な聖女の魔力の秘密を大魔王が無感動に呟くと同時、聖女の左耳が吹き飛び、顔面に二本のナイフが突き刺さる。が、耳は瞬間的に再生し、同時にナイフが新しくできた肉に押し出されて体の上を滑るように落ちていった。人体再生魔術は燃費の悪い魔法ではあるが、今の彼女にとっては何の問題にもなりはしない。
天使の転生体。
それが聖人、或いは聖女と呼ばれる人間の正体である。全体の一/八一九二以上天使の魂が混じった人間は、生物としての存在の格が根本から異なっており、複雑な魔法の行使や膨大な量の魔力操作を得意とする性質を持つ。
今代の聖女は三五〇年の教会の歴史上、最も濃い一/五一二の天使の魂の持主であり、彼女の持つ力は他者を圧倒していた。小さな国であれば彼女一人で落とせると言われる程にその力は極まっており、現代の人間としては紛れもなく最強を名乗るに相応しい実力者だ。
そんな聖女であっても、大魔王の魔力には及ばない。彼女を一〇〇とすれば大魔王は億千万に届くであろうし、大魔王を一とすれば聖女は零に等しい。
故に、聖女は他者から魔力を借りる魔法を開発した。それは人々を導く天使としての権能を利用し、同じ信仰を持つ同士達の祈りの力を魔力に変換すると言う物だった。五十四の国々に住まう人々の祈りが彼女の魔力の根源であり、神と平和と正義の為に捧げられた祈りは大魔王を打ち破るに相応しい力を産んだ。
聖女と闘うと言うことは、この大陸に住む神血教の歴史と闘うに等しい。
――弱いな。
だと言うのに、聖女は追い詰められていた。徐々に大魔王へと傾いていく形勢が止まらない。防護魔法と再生魔法のお陰で死ぬことはないが、既に聖女は防戦一方で先程までの攻撃は見る影もない。聖女は必死に集中するが、それでも大魔王の攻撃を見ることも敵わず、身体が再生するのを見てようやく攻撃されたことに気が付く有様であった。
近接格闘で勝てると思ってはいなかったが、人類の限界まで強化された肉体が手も足も出ないなんてことがありえるだろうか?
「っう!」
そして遂に、永遠に思えた防戦が終了した。
大魔王の突き出したハルバートが聖女の鳩尾を捉え、軟肌を切り裂いて内臓を曝け出させ、そのまま背中まで貫いた。強力すぎる再生魔法は、自身を貫くハルバードの柄を含めたまま行使され、モズの速贄のような光景が出来上がる。痛みはなく、細かな傷も再生が行われる為にこれ自体によって聖女が死ぬことはない。だが、斧槍に捉えられた事実が問題であった。大魔王は柄を惹いて刃の部分を聖女の背中に喰い込ませて固定すると、自由な左手の拳を振った。
七〇〇年以上衰えることなく鍛錬され続けた拳の威力等、想像するだけで恐ろしい。咄嗟に聖女は防御姿勢を取るが、大魔王の拳はその右腕を千切り飛ばし、勢いを衰えさせることとなく顔面の右半分を消滅させた。
致命的な一撃にプリモルクスが一層に輝き、瞬間的に失われた顔を再生させるが、その上から更に鋭い手刀が叩き込まれる。首から上が跳ね跳んだ瞬間、聖女は防御を諦めた。この大魔王は長年に渡って人類を脅かして来た最大の脅威だ。滅ぼした国や民族の数は膨大であり、その研鑽は神血教の歴史よりも三〇〇年は長いのだ。
しかし聖女の心にあったのは諦観ではない。
防御を諦め、その全てを攻撃に回すことにした。ここに来ては肉体の強化など塵ほどの意味もない。可能な限りの魔力を開放し、帰り道のことも忘れ、再現するのは神代の魔法。人間ではなく神が行使した、世界に法則を与えた文字通りの魔法。理論上存在するだけで、ただの一度も使われたことのない禁断魔法が一つ。
「ああああああああああぁああああああああああああああ!」
極めて原始的な詠唱が崩壊するエルドバーストに響き渡り――そして正義が顕現した。比喩ではなく、神が定めし絶対の真理、人類の理想の一つである“正義”の概念その物が、エルドバーストにその姿を表しているのだ。信徒の祈りから受け取った魔力だけでなく、大陸中に建てられた無数の教会、小さな五芒星のアクセサリ、大切に扱われた聖書、そう言った神血教に関わる全ての物に残留した魔力の全てを使用した大魔法が今、聖女の右手に美しい剣として現われ、神々しいプリモルクスすら影って見えるほどの輝きを放って周囲を圧倒していた。
その猛々しくも美しい姿をした正義を振り上げ、聖女は振り下ろす。
――無駄だ。
が、刃は大魔王を傷つけることはなかった。正義は大魔王へと触れる皮一枚で静止しており、聖女がどれだけ力を込めようとそれ以上進むことはなかった。
――“正義”では勝てない。
興醒めである。
そんな気配を隠すことなく大魔王が念話で告げた。言葉の意味を聖女は理解するよりも早く、大魔王の一突きが彼女の心臓を抉り取った。全信徒の魔力を借り受けて“正義”を顕現させた以上、彼女の肉体を再生する魔法は働かない。口から血の塊を吐き出して聖女は手にした正義を瓦礫が転がる床に落としてしまう。
「なん、で?」
自身の敗北が信じられないとでも言うように、聖女が漏らす。大魔王は右手に握ったハルバートを一振りすると、内臓器官を巻き込みながら柄が腹を裂き、聖女は三十秒ぶりの自由を得た。大切な物を貫かれた聖女はまともに立つことも出来ず床に倒れ伏せる。どくどくと溢れ出る血液が床と衣類を汚すが、輝く“正義”だけ決して赤く染まることはなかった。
「正義では勝てない」
大魔王が自らの口で同じ台詞を呟く。
それは大魔王としての言葉ではなく、世界を旅した戦士としての言葉だった。
結局の所、正義は正義であるが故に無力だ。愛も平等も、高潔な目標ではあるが、現実するのは不可能な言葉遊びに過ぎない。
誰も傷つけないと言う誇り高い理想。紛れもなくこの意志は正義ではある。しかし正義である以上、この正義では誰も傷つけることが出来ない。相手が人類の不倶戴天である大魔王であれども、傷つけることを正義は許さない。もし、それを認めると言うのならば、それは正義であって正義でなく、大義名分と言う名の言い訳だろう。
万人を平等に愛する慈愛に満ちた理想。その愛は疑う余地なく正義ではある。ならば聖女の傷を癒すことはできない。傷付いているのは彼女だけではないのだ。ここで彼女だけに癒しを施すのは、平等に反する。万人を癒す事は勿論“正義”には可能だが、人それぞれ怪我の容態は異なり、同じだけ直した所で誰もが平等に癒しを感じるわけではない。そもそも癒されない人間が出る以上、慈愛の前提が狂ってしまう。慈愛から見れば個人が持つ愛は差別の別名に過ぎないだろう。
正義や愛や自由や平等は、それを実現しようすれば個人の利益を追求する為だけの手段に成り果てる。例えば政治だったり、例えば哲学だったり、例えば道徳だったり、イデオロギー的なモノであって正義なる概念ではなくなっている。そうであることを知らず、輝かしい理想を信じて先代魔王である憎魔を討ち果した青年は、誰かの正義、誰かの愛、誰かの平等の為に、破滅へと突き進む世界の生贄となって十字架を背負うことになった。二度とあんな間違いを起こさないように、青年は大魔王になったのだ。だと言うのに、もそのことから学ばず、七〇〇年の時を経ても人類は未だに無力なお題目に心血を注いでいると言うのだから大魔王は笑えない。
彼女のような理想家に、大魔王は負けるわけにはいかなかった。
「幕引きだ」
「黙れ」
終わりを告げる言葉に、聖女が自身の右手を心臓のあった場所に突っ込んだ後に応える。信仰によって得られる魔力ではなく、自身の魔力だけで肉体の再生を図っているようだ。個人で成せる魔法の規模としては一級品ではあるのだが、大魔王と戦うには役者が一枚も二枚も足りてはいない。
その事実を自覚しながらも、聖女は口から洩れる血を拭いながら立ち上がった。
「ならば貴様の支配が正しいと言うのか! 民草の瞳の中には常に恐れがある! 聖女である私ですらそうだ! 誰もが人の勇気が失われ、隣人を見捨て、あらゆる絆を断つ日が来ると怯えている! 魔の時代が来たりて、城壁と共に信念は砕け、国家が崩れ落ちるのだと絶望している! 誰も彼もが! 大魔王! お前に怯え、恐怖している! 間違っているのはお前だ! 大魔王!だから! 私はお前を倒す! 神威の代行として正義を下す!」
血を吐き、涙しながら叫ぶ聖女の決意に、大魔王は力強く頷く。
「ああ。私は間違っているとも」
嘗て一人の剣士として大魔王を討った英雄が、大魔王と言う在り方を否定する。今の聖女と同じように、彼は無辜の民の為に闘い、世界の為に命を捧げて平和を望んだ。彼女の気持ちは痛い程に理解が出来る。
「だったら!」
「だが、お前達は私よりもっと間違っている」
だからこそ、聖女の理想の愚かさを知っている。七〇〇年前、大魔王を失った世界は人類同士での戦争を始め、混沌と戦乱は一層極まった。人類は遠からず滅びる運命だった。その滅びを回避する為に、青年は大魔王となって人々を支配することにしたのだ。恐怖で縛り付け、死と絶望で抑えつけなければ、人類は容易く自分達を滅ぼすだろう。
人類は未だによちよち歩きで頼りない存在に過ぎない。魔法の技術が向上しようと、多くの人間の心が一つになろうと、人類の限界とも言える才女が現われようと、大魔王と言う脅威を失えば、途端にその力の使い方を誤ってしまう。歴史がそれを証明していた。大魔王が倒される度に、人類は自ら破滅へと舵を取って来た。ささいな違いによる軋轢。極端な富の偏り。発達し過ぎた魔法学による環境の汚染。大魔王を超える驚異は必ず、世界その物の脅威となって人類を苦しめる。
「『何故もがき生きるのか』」どうして人類は自らを苦しめる様に生きるのか。
「『滅びこそ我が喜び』」どうして人類は自ら破滅の道を突き進むのか。
「『死にゆく者こそ美しい』」どうして人類は過ちを認めないのか。
このままでは、愚かで愛しい人類は新たな答えを見つけるまでに滅びてしまう。だから、大魔王が必要なのだ。絶望を支配して希望を残す大魔王が。恐怖を支配して勇気を灯す大魔王が。
「『さあ。我が腕の中で息絶えるが好い!』」
愚かな人類が死に耐え、新たな地平を望むまで彼等に寄りそう大魔王が世界には必要なのだ。歪な大魔王の愛に聖女は震えながら首に下がる五芒星を握り締める。
「神よ。私に力を」
まだまだ人類は大魔王を必要としているようだ。