馬車進む
思う壺。レギンが勝手に命名したんだが、これは大昔に日本で占いブームがあった頃に流行した手品遊びみたいなものだ。よって、ちゃんとした名前もない。
手品師が回答者の答えを完璧に当ててしまうというもの。どちらも人数によって不都合が生じることはないが、1対1の方が成功率は高い。必要な物は中身の見えない箱、筆記用具となんでもいいけど裏表書ける紙。手順は次の通り。
①手品師が一方に何らかの質問をする。
②手品師は質問の答えを紙に書き、中身が見えないように紙を折って回答の番号を書いておく。手品師は箱の中に紙を入れる。
③回答者は答えを変えられないようにその質問の答えを言う。
④上記①~③を複数回繰り返した後、1問目の質問から答え合わせをする。
この遊びの重要なポイントは、質問された後にその答えを聞く事と答え合わせはすべての質問が終了した後であるという事。
つまり、前の質問の答えを次の質問の回答時間に書くことができるということ。
実際に昨晩、俺は1回目の質問の答えを聞いた後に、それをそのまま2回目の質問の回答時間に書いた。そして、2回目の質問の答えも同様に。それでもその答え合わせは最後に行われるから、ばれなかった。
「ちょっと待った、」
トランプは種明かしを聞くと即座に突っ込みを入れる。
「その仕掛けだと、3回目の質問の答えは1回目の回答時間に書かなくてはならない。どうやって答えを知ったの。」
イマイズミは頭の後ろに手をやって、少しもどかしいような口調で話し出す。
「それなんだが。3問目はもちろん予測できない。だから、答えをある程度絞らせる質問をする。例えば、あなたの家には芝刈り機がありますか、とか、赤色が好きですかとか。何とか何処とかは聞かない。答えが絞れる質問だ。」
「答えが…yesかnoかになる質問をね。」
イマイズミの説明にトランプは得心がいった。トランプは再び話し始める。
「つまり、3回目の質問の答えが当たったのはレギンが回答放棄をすることを読んでいたわけでもなく、ただのマグレということね?」
そういうことだ。イマイズミは何でもないように返答するが、その時のことを少し思い出して一滴の汗をかいていた。
「悪運が強いわね。イマイズミ。」
助かったと思ったあの時、実はまだ排除される可能性があったとわかったトランプは、それ以上昨晩の事を思いめぐらそうとは考えなかった。




