異世界二日目。
…
窓辺のカーテンがひらひらとなびく。草と土のにおいを乗せて、心地よい風が寝ぼけ眼の少年の頬をなでる。目覚まし時計を5分先回りして捕らえた朝の損した気分にも似た達成感。その気分のまま、窓の外を眺める。そこには、ルンルンと遊ぶ男がいる。そう、あいつの名前は。
…
……
………。
「─夢だったか。」
トランプは独り言を寝る前にも見た天井に向かって吐き捨てる。
昨晩、担ぎ込まれたのはウサギ小屋みたいな部屋。壁に打ち込むタイプの二段ベッドが部屋の左右に5台ずつ設置されていて、真ん中が通路になっている。
昨日は部屋で拘束を解かれるなり、疲労からか倒れるように眠りについた。その姿を見たわけではないが、他の三人も同様なんだろう。
空が白み始めている。夜が明けているのだ。その光を感じながら、トランプは昨日のことを振り返っていた。
また再びうとうととし始めたころ、突然に部屋のドアが開いた。眠りを妨げる騒音だ。
「起床ッッッ!朝だぞ起きろッッ!」
酒焼けたようなシャガれた大声が響く。トランプは自分の下段で寝る者がごそごそとのたうつ様子が分かった。
「起きていますわ。あまり、お声を張り上げませんようにお願いします。」
染み入るような透き通るサイムの声がする。
「クソ…。頭いてー…。」
音量小さく、低く通ったイマイズミの声がする。これはみんな起きるような流れになった感じがする。
「起きるか…。わたし…。」
トランプは二段ベッドの上段から飛び降りる。
昨日見た面々と再び顔を合わせる。昨日、怯えて何もできなかった女の子もいる。名前はわからない。
「うしッッ!起きたなッッ!!!飯食いに行くぞオッッッ!!」
シャガれ声の兵士に導かれるまま、外に連れ出される。そこには大鍋とそれを取り囲むように置かれた切り株の腰掛があった。
トランプたちは切り株に座らされると見たこともない繊維の肉と有り得ない色の野菜が混ざる鍋料理をふるまわれる。
イマイズミとトランプは昨晩何も食べなかった為か、奇妙なものにでも食指が動く。2人が料理を食べ、何も異変がない事を確認するとサイムも料理を口に運んだ。
朝食を済ませると、4人はすぐに王都へ向けて出発することを命じられる。簡単な支度を済ませ、部屋の未完の大器を背負って外に出ると、シャガれ声が軽トラぐらいはある大きさの木の馬車を用意していた。
「ほらッッッ!乗れぃぃッッ!!」
この男も一緒に来るのか…
サイムが一番に馬車に乗り込もうとしたとき、制止される。朝から聞くシャガれ声だ。
「そうだアアア!!この目隠しをしろォッッ!運転場所が分からないようにするゥッッ!!」
トランプとイマイズミは目が合った。そして、お互いに鼻から大きな息を吐き出す。




