前夜 その3
プルアはベッドの下から大きなタブレットを取り出して、人差し指でぽつぽつと画面をいじり始めた。
「まぁ、改めて言いますと、君の住んでる世界に隕石が落ちました。これで、地球は無くなりました。」
プルアがこちらにタブレットを向ける。そこには地球の壊れるさまがファンシーなアニメで表現されている。さらに説明を続けた。
「でも、地球ってぶっちゃけ必要なんよ。詳しくは言えないんだけど、あってほしい場所であるわけだ。でも、壊れちゃったしどうするかって話だよ。そこでやることは一つだよね。」
中指でビュッとスワイプ。アニメの画面から、文字が書いてある画面に切り替わる。
「新しい創造主を決める、選抜大会を開催するよ!!」
『第69回創造主選抜大会‼!』。タブレットにはそう表示されている。
「それで、君は候補者の1人だ。ぜひ創造主となって、新たな世界を創ってくれたまえ!」
奇想天外で正直頭がついていかない。候補の1人?選抜?ということは競争相手がいるということか。何をするか、何があるか分からない。というより、あえて教えないのか?探りを入れるか?
「辞退したい場合はどうすればいいです?」
冷静にかつ慎重に目の前の物事を読み解いていく。ポーカープレイヤーの素質はいかんなく機能する。混沌を前にしても今泉はとても落ち着いていた。
「辞退は自由。ただただ魂がなくなるだけ。何もない。でもねぇ…、創造主になると特典もある。」
特典…。具体的な選抜方法は言わないか。
「創造主には以前の世界について書かれた記録を閲覧できる。それのひとつには、微生物の一匹から無名のヒト一人に至るまで、すべての生き物の生まれてから死ぬまでが記録されている。」
プルアの目つきが鋭いものなる。その鋭さで、俺の目の中を覗き込んだ。
「君、過去について何か知りたいんでしょう。簡単にわかるよ。」
ニヤリと笑みを浮かべる。こいつ、案外隙がない。俺のことを知っているのか。内面に抱えてるものまで。
プルアの目から鋭さは消えた。いや、瞳の奥に隠したんだ。見逃さない。
いやそんなことはいい。どうする、『簡単にわかる』か…。落ち着け、今考えるべきことは…
今泉より早く、プラアが口を開いた。
「まぁ、やる気ないならいいよ。魂になっちゃえば、記憶もなくなる。大切な思い出も、忘れたくない思い出も。」
「逃れたい因縁も。」
心が落ち着く。何かを決めた時、決まって安心感がある。たとえそれが唆されたものであっても。
どうせ一度死んでしまった身。もうなにもないなら、せめて好きなことをしておこう。自分で選んだことを。
「そうですか。では、やります。その選抜大会。」
動揺したこと、少しでも悩んだことを少しでも隠すように、わざといつもと変わらない調子で、余裕があるように返事をした。
それを聞くと、プラアは笑う。
「そうか、そうか、やる気になったね。じゃあ、」
「ルール説明だ。」
タブレットを素早くスワイプする。
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