コチノクボと思う壺 その8
「おい。おい、おい、おい、おい、おい。今、“未来”と言いましたねえ。」
「神仔様!」
神仔様と呼ばれるローブの人物はイマイズミの言葉に反応する。
「我が国は未来からの通信でその危機を何度も防ぎましたぁ。その通信に支えられ、この国は繁栄した歴史がありますぅ。それを、チャチなハッタリで、茶化そうというならば、安らかに死ぬことはできませんよ。」
語気が強くなっていく。奴は自分が侮辱されているかのように怒っている。
「一創造主候補ごときが。何のつもりだ。」
イマイズミは少し気圧される。しかし、ここで引くことはできない。
「言った通りですよ。未来を読める。」
ほう…。そう言って、ローブの奥から少し目を覗かせた。
「面白い!その言葉、嘘ではないと証明してみなさい!」
売り言葉に買い言葉。とにかく、トランプから関心をそらすことには成功した。トランプは安堵感からか、ペタッと床に膝をついた。
「貴様はどんな風に私の問いを当ててくれるんだ。」
レギンはこちらに向き話しかける。静か、されど確かな殺気を感じさせる。こいつも怒っている。
「その前に、未来を読むのに必要な物がある。ある程度の物は用意してくれるんだよな?」
もちろんだ。レギンはそう答える。
「箱と紙、それに筆記具が欲しい。箱は蓋が付いていて中に物を出し入れできれば、大きさ形状なんでもよい。紙に書いた事を他者が確認したり、改ざんしたりできないようにしたい。」
「だそうだ。用意ができるな。」
レギンはそう聞くと壁に向かって呼びかける。同じ方向にいたラオはその声に少し身構えた。
少し間があってから、ゴゴゴゴと大きな音を立て部屋が強く揺れる。その時、床から、古めかしい壺が生えるように現れた。揺れが収まるとレギンは蓋を取って中に手を突っ込み、黒いクレパスのようなものと繊維の粗そうな紙を取り出した。
「すぐに用意できるのはこれくらいだが。十分だな。」
イマイズミは覚悟を決める。もちろん、イマイズミに未来を読む力なんてない。考えなしでした行動の尻拭いで今から手品を仕掛ける。これを成功させてやるという覚悟を、イマイズミは決めた。
「ああ、結構だ。未来を見る手順を説明する。」
① 俺が質問をする。レギンはその答えを決め、頭の中に思い浮かべてくれ。
② 俺は未来を読み、その答えを紙に書いて壺の中にいれる。これで俺の予言を変える事ができない。
③ レギンはその答えを明かしてくれ。未来は流動的。予言を見てから別の答えに変えられては敵わない。レギンの答えは神仔様を含めた全員が証人だ。
④ ①~③で3回質問する。2回でも、4回でもなく、3回だ。
⑤ すべての質問が終了した時に1問目の問題から答え合わせを行う。
「最後の答え合わせで答えが合っていれば、未来が見えることの証明になる。反対に間違っていればハッタリだと考えてくれていい。」
ローブの人物は手順について疑問を口にする。
「レギンから例の問について聞くには1度の質問で足りるはず。なぜ、3問も行うんですかぁ。」
イマイズミは言葉に詰まる様子を見せる。しかし、思い出したように、言い訳をする。
「3回質問しないと、100%確実な未来が見えない。2回でも4回でもダメっていうのはそういうことだ。そういう…特質だ。」
ふぅん…。ローブの人物は猜疑心を募らせる。疑っているのだ。イマイズミもそのことを分かった。
「まぁ、良いでしょう。レギン、この男が嘘をついているならためらいなく殺しなさい。」
レギンはその言葉に返事をする。
「かしこまりました、神仔様。この男の真意を見抜いて御覧に入れましょう。」
そして、レギンはこちらを向いた。
両者はにらみ合う。開戦の合図を待つばかり。
イマイズミの心臓は張り裂けそうなほどに鼓動する。命のかかった勝負だ。
「この儀式を名づけるならば、思う壺、と言ったところか。貴様の実力をこのレギンに示してみよ。」
「もちろん。やってやるさ。」




