コチノクボと思う壺 その6
「サイム、お前はどんな能力を持っているのだ。」
レギンは問いかける。
「私はこの世界に来る前、探偵をしていた。その時に培った推理力をお目に掛けましょう。」
サイムはスラスラと述べる。
「証明代わりにこの建物にいる男の娘の人数を当ててみます。」
ほう、やってみろ。
レギンの返答にコクリと小さく頷くと、サイムは静かに語り始める。
「この建物にいる男の娘、それは5人でございます。」
その内訳は神仔様、レギン様、扉の前の二人、そして、この建物を形作る能力者です。
神仔様はこの試験を執り行う理由を未来からの通信によるお告げと仰り、レギン様は創造主候補を気絶させた際、通信という言葉をお使いになりました。“未来を変えるための助言”、神聖視されることは自然でありますが、それを神託だとか予言だとか相応の言葉で表現しないことは神仔様の勃象能力の特性が関係していると考えられます。
扉の前の兵士は男の首をひねり、命を奪った。しかし、その男の脈はしっかりと拍動しておられました。触った時間が、レギン様が創造主候補を気絶させるのに使った3秒。拍動はその間に10回以上。あまりに早く数え切れませんでしたが、この拍動を1分間の脈拍に換算すれば、脈拍値は200を優に超えます。首を折られ、生死をさまよう者の脈拍が低下することはあれども、正常値の上限である100を超えることは有り得ません。したがって、首をひねった兵士に特殊な能力があるものと推定できます。そしてその兵士と肩を並べる兵士も同じく特殊な能力があるはずだと考えます。
この建物は勃象能力による建築に間違いございません。町の建築はほとんどが木造であるのに対し、この部屋は石が混ざった土壁に4方を囲まれています。そのままの草やゴロゴロとした石が土壁に混入していた場合、その強度は大きく低下します。さらに、柱があるわけでもない。こんなものはすぐにでも倒れてしまいます、勃象能力による支えが無ければ。
サイムはとうとうと己の推理を話す。深い思考と落ち着いた雰囲気、探偵だったと言っていたが、その力量はすさまじいのだろう。
「ふふふ、残念だなぁ。」
レギンは手を叩きながら言う。その表情には笑みもみえる。
「1つ聞くが、建物が勃象能力だということの根拠が乏しいとは思わんか?理に合ってなくとも、なぜか潰れたり、倒れたりしない建物などいくらでもあろう。」
「根拠というより証拠ならございます。」
そう言うとサイムは手を前に出す。そして、規則書を呼び戻すようにブックと唱える。
しかし、手元には一向に規則書が届く気配がない。
「規則書は、持ち主との直線距離上を最短で移動します。そこに発生する物理的な障害は規則書自体が透過することで対応しています。」
「しかし、透過できない例外として男の娘の勃象能力と能力の影響を受けた物があります。転移後に確認いたしました。」
「したがって、現在手元に規則書が飛んでこないのはこの建物が勃象能力の影響を受けているということです。」
サイムの理を目の当たりにし、イマイズミたちは思わず唾をのむ。
「その男の娘はどこにいる。」
レギンはまた問いかける。
「おそらく、屋根の上にでもいるのでしょう。この部屋にいる必要はありませんからね。」
レギンは大きく息を吸った。そうして、また、大げさに手を叩く。これは降参のポーズか?
「サイムと言ったな。君の推理は素晴らしかった。」
レギンはそういうと彼女の頭を掴む。
「だが、不正解だ。」
チャポン…
サイムは床の中に沈んだ。水滴が水面に落ちるような音が響く。なんなんだ、あの勃象能力は。




