ルドカハの街 その6
窮地を逃れたかと思ったが、男の娘はそんな必死さをあざ笑うように再び俺の目の前に現れた。「勃象能力」のレベルアップの為に俺を殺そうとしているのだ。
刃物を持つ手元がギラッと光ったとき、人生全ての時間が目の前を横切った。
ここにいるのはなんでだっけ。そうだ、助けが呼べるかもしれないからだった。ヤクデドープを使った時あの女がここから出ていくのを見た。もし、俺のこと知っている奴であれば何か協力してくれると思ったんだ。
そうだ、ということはこの店は恐らく…間違いない。ある!細く短く不安定だが、死路を往かずにすむ道が!
「やるぜ…やってやるよ!」
決意を口に出し、己を鼓舞する。大きくナイフを振り上げた男の娘は驚きで体を強ばらせる。
「やる、って、何をだ、よ。」
「“お前を倒し”、“ここから逃げる”!」
右手は軒柱を持ち、左手は規則書を持つ。そして、再びヤクデドープに触れる。
先ほどの威力よろしく、イマイズミの身体は弾丸のような速度で吹き飛ぶ。
「なあ、逃げて、何の意味、が、ある?」
あッっ!
と思ったが、イマイズミの意図を知ったところで手遅れだった。
「俺が吹っ飛ばしたかったのは自分じゃなくこの柱だよ!」
店の軒に乗っていた物はゲキアツライム。衝撃が加えられると発火、炎上する。イマイズミはこの時知らなかったが、複数個同時に果肉が炸裂するとその威力はより大きなものとなる。
「ああアアアアアアアアアアアアああアアアァああぁァ!!!!!!!!!」
命を感じる断末魔が響く。柱を地面に突き立て、吹き飛ばされる勢いを殺しながら、その声を聞いた。完全に体を停止できた時、自分の身体にようやく重さを感じた。
「風があっても体が飛ばない。能力が解けたか?なんでもいい、とにかく逃げる。」
突如上がった火の手にルドカハの街が混乱している。野次馬、通行者、消火隊。道行く者の間を縫って、イマイズミはトランプとの待ち合わせ場所へと急いだ。
イオサイ(イマイズミを襲った男の娘)勃象名:狭く浅く不確定 勃象能力:対象(4名まで)の重さを極限まで軽くする
火事騒動の混乱の中で、魂魄を欲する創造主候補に刺殺される。




