前夜 その2
…。
……。
………。
何もない。意識がはっきりとしているが、何も感じない。俺は今夢を見ているのか?
まぶたを開く。
「ここは知らない天井だ…」
埋め込み型のエアコンと清潔感を感じる白いタイルが見える。どうやらここは…
「おぉ、起きたか。じゃあ、早めに起き上がってよ。あンちゃん。」
年を取った男が俺の寝転がってるベッドの横に座っている。顔は少し面長で、パーツは整っている方だ。だが、昔によくちやほやされすぎたのだろう。あごにたくわえた髭と強めのワックスで整えられた髪が見た目の年齢と微妙に合わない。
その男に言われた通りに体を起こしてみる。おぉ、身体が軽い。特に傷は見当たらない。関節も問題なく動く。言葉遣いは軽いが、名医というわけか。
「助かりました。一体何が起こったんです?」
あれほどの事態、ただ事ではなかろう。早めに聞いてみた。
「隕石が落ちてきてね。無くなっちゃったんだよ、地球。」
一度停止する。ちょっと待て。こういうタイプの人か、このおっさんは。荒唐無稽にシュールな事いう系の。いやいや、落ち着け。イカれてる奴っていうのは大体つかみを意識してくるだけだから。スルーすればOK。
「そ、そうなんですか。本当のところはどうなってるんです?」
変に動揺する。この目の前の男が、頭のおかしい腕利きの医者であることを願うばかりである。
「いや、嘘じゃないよ(笑)。」
バッサリと言われる。まぁ、だよね…。
俺の記憶が、今泉洋前が経験した死に際の記憶が、『隕石が落ちた。そして、死んだ。』という事実を受け入れるに足る根拠になっている。
「え、じゃあここは?」
当然の疑問にたどり着く。まぁ、半分わかってるようなもんだけど。
「俗に言う『死後の世界』ってやつだね。とりあえず、生きてると思わせるために病室風にしてみた。そんで、死後の世界ですっていうの。そっちのが死んだ感あるしね。」
こりゃずいぶんと紛らわしいことをするもんだ。…イカれてるっていうのは合ってたな。
「おっと、申し遅れたね。私は第68代目の男性創造主、プルアって名前。」
得体のしれない男。こいつが神か何かと言うのか?
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