ルドカハの街 その4
未知の能力に追い込まれた。規則書に挟んだヤクデドープに触れることでその場を離れることができた。
だが、これは悪手だ。身体を持ってかれるような風が吹いている。そんな状況で空に逃げれば、
「吹き飛ばされる!制御できない。死ぬ!やられる!」
イマイズミは自身の身体が高度を上げているとわかった。比喩じゃなく紙や風船が風に遊ばれるみたいに、イマイズミは吹き飛ばされている。観覧車に乗る時にしか見れない景色を見ていた。
「やるしかない。これ以外逃げ道がない。」
覚悟は決めた。あの男の娘に倒され、奴の歴史の一部になるくらいなら、ここで命を賭けた勝負くらいはする。
「規則書!これに挟んだヤクデドープにもう一度触れる!方向は…地上!」
重力が働いているはずの方向に飛んでいく。ここでさっきみたいに落下地点付近の店の軒を掴む。それができなきゃ死ぬ。
「フんぐ…ァああああああ!!!!!」
イマイズミはぐんぐんと落下していく。近づいてくる建物の像に自分の手を重ねようとする。しかし、どう見ても足りない。あと少しの差で、指も触れられない。
「届けぇぇぇぇぇぇ!!!!」
イマイズミの願い虚しく伸ばした手は空を切る。
体を制御できない。このまま何もできず、何もやれずに。
勢いそのまま地面に叩きつけられる。身体に衝撃が走るが、意外にも痛くはなかった。
「というかよぉ、痛くないどころか、全くの無傷じゃないか?」
背中から落ちたし、頭も打った。普通であれば意識はなくなり、一発でオダブツ。だが、意識を失うどころか、流血すらしない。今は普通にぴんぴんしてるし、あまりの衝撃で驚いた心臓がバクバクと血流を運んでいる。
少しよろめきながらも自らの足で立ち上がった。何事もなかったかのように。
「!…風だ。また吹き飛ばされる。」
先ほどと同じ身体を持ち上げられそうになるほどの強い風だ。イマイズミは膝を曲げ体勢を低く構え、近く店の中へ飛び込もうとする。
店との距離は3mと少し。イマイズミはそれほどの距離を、1足で、簡単に飛んで見せた。
「わかった。何をされていたか。何が起こっているのかが。」
イマイズミは店の軒柱を掴み、強風に耐える。




