ルドカハの街 その2
過ぎていく店店はザルいっぱいの木の実や植物を軒に乗せている。軒は軒柱一本で支えられている。
この軒柱は簡単に引き抜くことができるようで、閉店時は軒の商品を降ろして軒を下げるのだ。
つまりは軒に乗った物は売り買いをするものを示す看板であり、その店が営業しているということを示す表示であるのだ。
イマイズミは大通りから離れ、路地を深く入った危険物街を目指していく。
「話によれば、この辺にヤクデドープを買ってくれる店があるのだな。」
「お、あそこじゃないか。」イマイズミは軒にヤクデドープのある店を見つける。その店先に立ってイマイズミは強い違和感を覚える。
営業中だというのに客どころか店員もいない。店内は真昼間だというのに奥が見えないほど光が届かない。軒が日を遮っていることはわかるが、夜のように暗いのだ。
「おっと、っと。いらっしゃいまし。」
その店の奥から男が顔を出してきた。
ゆったりとした話し方をする男は若かった。顔はしわを刻むことなくキリッとその若さを主張している。身長は目方150cmで、オールバックの髪の後ろで少し長めの襟足を右肩に流している。
「すまんね、兄ちゃん。俺、ここの商売人じゃないんだよ。」
二度目だ。背筋に氷水を流されたような感覚。やばい、これはやばい!
「!!…逃げよう、てか。」
わかる。あいつは男の娘だ。刃物の先端を見た時、もし何かの間違いで自分を切ってしまったら絶対に血が出るだろうなって少しドキッとしてしまうように、男の娘の殺気を垣間見た時、本能的な警告が体中を駆け巡る。
男の娘との会敵を経験してわかった。まともに戦えば勝ち目などない。逃げるんだ。遠くへ。
イマイズミは踵を返す。全力で右足を踏み込む。ダッシュだ、ダッシュだ。走る、全力疾走だ。
だが、知覚する。足がつかない。転倒したのか、いや違う。
イマイズミの身体は浮いている。右足を踏み込んだ瞬間、足が地から離れ体が浮いた。
「逃げられない、よ。“狭く浅く不確定”、の、術中だ、からさ。」




