前夜 その1
書き直し版を投稿をします。どんな感じになっているかを教えていただけると嬉しいです。
全世界同時生配信。今日の主役は何といっても俺、今泉洋前だ。
弱冠20歳にして世界ポーカー大会に出場。さらに初出場にして初決勝戦ときた。
日本メディアはこぞって俺のことを取り上げてきた。
「腐敗した教育制度を抜け出した天才」、今朝読んだニュース記事の一節だ。普段、ワイドショーで知識人かぶれに批判させている引きこもりもここまで持ち上げられるのだ。マスコミというのは現金なんだな。
そんなことを考えていた。自分でも驚くほど落ち着いていた。考え込むこともなく、かといって思考をやめることもない。
決勝戦開始2時間前。この時点で出場者は外部の人間との接触を断たれる。独り。しかし、この時間にどれだけ自身の感覚を研ぎ澄ますか、それで勝負が決まる。すでに試合は始まっているのだ。
「それにしても、暑い…。」
置いてあった水入りのペットボトルは3本あったが、2本を空け、最後の1本も半分を切った。おかしい。空調が壊れたか?
こんな暑さは耐えられない。備え付けの電話で本部に連絡しよう。一体何が起こってるんだ。
座っていた椅子から立ち上がろうとした時、唐突な立ちくらみが起こる。今までに経験したことない目まいに狼狽する。頭がくらくらする。視界も曖昧になってきた。見ているものは蜃気楼がかかったようにゆらゆらと揺れる。
かろうじて覚えていること。そのまま床に倒れた。すると、天井がろうそくを溶かしたみたいに、液体状になってどろっと落ちてきた。それには当然驚いた。だが、それ以上に驚いたこと。すっかり穴の開いた天井から太陽が顔を出した。熱い。太陽がこちらに近付いてくる。
ようやくわかった。俺ここで死ぬんだ。強力な光が目を焼く。走馬燈なんて嘘だったのか。未練はあるのに全く何も見えない…。
ここで、意識は途絶えた。眠り込むみたいに。熱さに苦しんだが、その瞬間は妙な心地よさがあった。
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