第8話 カーミラ
ショーンたちが音の正体を見たのは、音を聞いてから数分のことだった。
「うっ…」「きゃっ…」
そこにあったのは二つの死体だった。片方は喰われている。片方は喰っていた。
明らかに死んでいるそれは動いていたのだ。
屍喰鬼
それは死体を喰うことで永遠を本能に従って生きる不死族。彼らは獣だ。そこに人間らしさは全くない。死体を喰うといっても生命を襲わないわけではない。
ショーンたちに気づいたそれは食事をやめて襲いかかってきた。
ショーンは新月を具現させ屍喰鬼を斬り伏せた。
「ショーンさん、これは?」
「明らかにこの迷宮のものではないな」
レイルの怯えた声にショーンが答える。
そもそも不死族はこの世界において迷宮に発生することのない存在だ。迷宮が死体を吸収するためだ。不死族は厳密に言えば魔物ではないため迷宮が生み出すこともない。
「しかし、屍喰鬼では隠蔽などできないはず、なぜ一人も情報を持ち帰れなかったんだ」
不死族は死体が放置され、夜、闇の魔力にさらされることで生まれる。その多くに自我はなく発生した場所を縄張りとするため迷宮に迷い込むことは本来ならありえない。
「知性あるものがいるのか?」
ショーンは警戒を強める。神から授かった常識からだ。不死族を操れるのは不死族のみ。そして、知性のある不死族は明らかな上位存在だからだ。吸血鬼や死霊術師などがその代表だ。地球の小説などで強力に描かれるそれらはこの世界においても強敵だ。
「レイル、いざとなったら俺をおいて逃げろ」
ショーンの普段とは違う真摯な声にレイルは否定の言葉を返せなかった。
ただ、頷くしかなかった。
そして、彼らは奥へと進む。そこにある闇の正体を知らないままに………
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ショーンたちのいる迷宮の10階層そこに彼はいた。
「嗚呼!この気配は我が愛しきものの気配!嗚呼素晴らしい!」
そこは本来なら迷宮が用意したボスがいるべき場所。そこに彼は粗末な椅子を持ち込んで座していた。彼は歓喜に震えている。
「この体となって諦めていたが神は私を見捨てなかった。嗚呼素晴らしい!」
そして彼は愛しきものに迎えを送る。
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ショーンたちは7階層まで進んでいた。
襲い来る魔物を撃退しながらショーンは気づいた。近づいて来る気配が魔物とは異なるものであることに。
ショーンたちが魔物を倒しきったあとそれは現れた。
「やぁ」
それは人間だった。格好からして冒険者であろう彼女は髪は燃えるように赤く、瞳は穏やかな海のように青かった。肌は白く顔立ちはややつり目がちな目や薄く紅い唇と美人であった。レイルとは反対の魅力を持っていた。
「君たちどうやら上級冒険者のようだけどなんでこんな低級迷宮にいるんだい?」
「それはあんたも同じだろうが」
「にゃはは。それもそおだねえ、失敬失敬。あたしはカーミラ。ここにいるのは仕事のためさ。あたしは駆け出し冒険者の指導をやっててね。迷宮内で困ってる駆け出しを見つけては助けてるのさ」
イタズラ好きそうなその口調はしかし、お姉さん的な安心感も内包していた。
ショーンはその印象から警戒を少し緩める。
「じゃああんた、この迷宮で屍喰鬼を見たか?」
「いや見てないねえ。そもそも屍喰鬼はどの迷宮にもいないはずだろ」
「えっと…でも見たんです。一体だけでしたけど」
レイルは発言してその時の気持ちがぶり返したのかショーンの服の裾を掴む。
「へえ。しかし、それは困りもんだ。君たちは協会に調査を依頼されたのかい?」
「まぁそんなところだ」
「あたしもついてっていい?」
問いかけてはいたがカーミラは断ってもついて来そうである。ショーンは仕方なく
「いいけど。報酬の有無はしらんぞ」
「いいよいいよ。さっ行こう!」
ショーンの言葉が終わらないうちからカーミラは歩き出していた。
「ハァ」
ショーンはため息を吐きながらレイルとともに歩き出す。
キャラが増えゆく。レイルはあまり発言しないなあ。カーミラの登場でレイルは出番をまた失うのか。
レイルは常識人すぎてショーンとその周囲についていけなくて喋らないのである。
レイル「わ、わたしホントはとてもおしゃべりなんでしゅよ。う~痛い~~」
噛んじゃてるよ。