開始
さぁ、ゆくぞ
結局、煮詰らなかった……
だが、少し、余裕のあるほうがうまいこと転ぶはず!
「あれで良かったの?」
トーカの言葉にショーンは気怠げに頷く。
「あいつは、もう眷属だからな。逆らえん」
「ふーん」
トーカは内心で、ショーンの優しさを感じながらもそれ以上口を開かなかった。
傲慢の魔王討伐後、ショーンたちはすぐさま後始末に追われた。皇帝の不在は帝国に負担をかけるため、スペルを信念の鏡によって顕現し、ショーンの世界の政治知識を教えて諸々を解決した。眷属となった以上、スペルが逆らうことはできず、現実を見据えて生きることになるだろう。
被害は、奇跡的に評判の悪い貴族や商人、または外面は良かったが内面は真っ黒だった証拠のある連中だけであった。
帝都の破壊は思ったよりも少なく、都市は平穏を取り戻していた。ショーンたちは、当初の予定通り天災の森へと向かっていた。
カツコツカツコツ……
スペルの前に一人の女が歩いてきた。
「初めまして、私は憂鬱の侍女という者です」
「茶番はよせ、それでお前らの望む通りの結果なのかこれは?」
幾分か、晴れやかな顔をしながらスペルは問う。それに憂鬱の侍女は笑みを浮かべただけだった。
「それで何の用だ?」
尋問しても無駄だと知っているスペルは話を進める。
「そろそろ暴食が目を覚ます頃合いかと思いまして」
「ああ、そうだったな。そうかそうか、あれが目を覚ますか」
スペルは心ここにあらずという風に空を見る。
次に正面に顔を戻した時、憂鬱の侍女はすでにいなかった。
本棚の前に老人が立っていた。彼は目線の高さの棚の左から三つ目の本を横にして押し込んだ。
ゴゴゴゴ……
鈍い音を立てながら、彼の前の本棚が奥に移動し、横に滑った。そこにあったのは一つの通路。彼は迷いなく、それに足を踏み入れた。
暗い通路だった。明かりは一つもない。だが、老人は夜目でもきくのか、何の用意もなしに通路を進む。
「いらっしゃい」
やがて、ぽっかりと空けた部屋に出た。そこにいた女がひどく淫靡な声で歓迎を表す。
「何の用だ、ルカセリア」
老人は冷淡に声を出す。
「相変わらず、無愛想ね。それでは職員たちに嫌われるのではなくて?」
「お前に対してだけだ。本来ならお前は討伐対象なのだからな」
「あら、ひどい言いようね。私は穏健よ。子どもたちと静かに過ごせればそれでいいの」
女は、笑みを絶やさずに言葉を紡ぐ。それに老人は冷めた目を向けたまま。
沈黙しばらく続き、女のほうが声を出した。
「暴食の子が目を覚ますわ。あなたも気をつけなさい。あれには最早理性がない、目的がない、何より満たされることがない。本当の災厄とは絶望とはあの子のようなものを言うのでしょうね」
「なるほど、情報提供感謝する」
では、と言って老人はその場を去る。
その背中に女は声をかけた。
「あなたはとても優しいわ。けれどね、もう破綻してるのよ、この世界は。どれだけ頑張ろうとも、救えはしない。私が私であるように。当然に」
その言葉に何を思うのか、老人は沈黙のまま歩みを止めず、去っていった。
時間をとっても大した違いはなかった……
カンナ「しっかりと書いてください。字数は増えたじゃないですか、時間とって厚みのある文章をつくるように」
はーい、無駄な文も目立つかもね。自分で言っちゃダメか……




