第3話 夢の中
ショーンとレイルは盗賊を放置してレイルの父のいた場所へと来ていた。しかし、レイルの父の亡骸はなかった。
「お父さん……」
レイルの悲痛な呟きにショーンは何も言えなかった。
レイルは一頻り泣いたあと、ショーンとともに町へと向かった。
「闇は育つだろうか?」
ショーンたちが離れたあとそんな呟きがあった。
ショーンたちが向かった町はスタリアという名だ。周辺にいる魔物は比較的に弱く、冒険者を志す者たちが多く訪れ栄えていた。しかし、人の出入りが激しいため治安は悪かった。そのため、ショーンのような身元不明の者は検問で長く拘束されるが
「おや、レイルちゃんじゃないか。お父さんは?」
検問の兵士はレイルとは顔見知りであるようで気さくに話しかけてくる。事の顛末を聞いた兵士は悲しげな顔をしたあと、ショーンから関税として銀貨一枚を受け取り町へと通した。ショーンはすんなりと町へと入れたのだった。
ショーンたちは、まずレイルの父が所属していた商業組合へと向かった。
「これでレイド様の遺産は貴方のものです。このたびはお悔やみ申し上げます」
レイルの父レイドの死を報告し、遺産を正式にレイルのものとした。
この世界において所有物の管理は基本自己責任であるため、本来レイドの遺産は手続きの必要なくレイルのものである。しかし、商業組合に登録した場合は不利益の発生を防止するために財産の管理を行っていた。また、レイルは商業組合から脱退することになる。商業組合は男尊女卑の風潮があるためだ。
「レイル、これからどうするんだ?」
「冒険者になろうと思います。これでも父から鍛えられているので。心象器も使えることですし」
心象器とは心が一定の強さである者にのみ扱える魔法の根源だ。心の本質が具現化したもので形状・能力は使用者により異なる。共通するのはその色に応じて使える魔法が決まるということだ。また、使用を可能にするには開心屋に赴く必要がある。
「そうか。開心屋に案内してくれないか?」
「えっ!ショーンさん開心してないんですか!」
レイルはショーンの強さからすでに心象器が具現しているものと思っていたためひどく驚いたが、こころよくショーンの頼みをきいた。
そこは粗末な小屋であった。夢を食べるという獏のようなものが描かれた看板がなければ、誰も訪れることはないだろう。ここは開心屋であった。
「開心の料金は銀貨五枚だ」
小屋と同じくらい粗末な男が告げる。ショーンは男に銀貨を渡す。すると男は看板に描かれた獏のような道具を取り出す。男が視線で触れるように訴えるのでショーンはそれに手を置く。
「汝は 心強き者 その身に悪魔を飼いながら
ただただ 正しき 道歩む
さあ 旅立とう 強き心を武器として
スレイヤー・イン・ドリーム」
詠唱が終わるとショーンの意識が暗くなった。