第∞話
急
金属同士の衝突音が響く。
発生元では火花が散る。
ショーンが振るうのは漆黒の大鎌、アニヤが握るのは鮮紅の槍。
鮮紅の槍は吸血鬼としての能力で生み出されたものだ。
「いいね、いいね!さすがだ!」
アニヤは狂気に濡れた笑みを浮かべる。
鍔迫り合いをする二人の元に影が近寄る。その影はショーンに拳を振りかぶった。ショーンは、鍔迫り合いを強引に押し込み迫る拳は蹴り上げることで回避とする。拳を放ったのはアニヤの欲望器である嫉妬の胎。心以外のすべてを複製する。
アニヤがショーンの喉元に刺突を放つ。ショーンは大鎌で器用に防ぐ。ついで、弾きアニヤの体勢が整う前に追撃を行う。休みない連撃を吸血鬼としての身体能力でギリギリ防ぐ。
拮抗しているかに見えた。しかし、ショーンの大鎌が掠った瞬間、アニヤの動きが目に見えて悪くなる。そこに嫉妬の胎がフォローにはいる。ショーンはもう一人の己に対処するためアニヤを吹き飛ばし、嫉妬の胎を大鎌で叩き斬る。嫉妬の胎はあっけなく切り裂かれ、しかし、再生する。ショーンは一度距離をとった。
「ははは…これは参ったな。ここまでの強さとは」
「話す余裕があるのか。
銀爪に願うは 魔を祓う閃きの雨 銀槍雨」
ショーンの魔法が発動する。天を覆い尽くすほどの銀槍が雨となってアニヤに降り注ぐ。嫉妬の胎がアニヤを守るように動く。土煙が上がりアニヤの姿を隠す。
パラパラと銀槍の衝撃で舞い上がった小石が落ちる。風が吹き、土煙を退ける。アニヤは生きていた。しかし、もう戦えないだろう。満身創痍だ。嫉妬の胎も動かない。
「まだだ。まだ、私は負けるわけには…」
それでも彼女は闘志を失わない。
「裏切り者の人類が滅びるまで私は死ぬわけにはいかないんだ!」
吸血鬼の再生能力が発揮される。しかし、ショーンがそれを上回る一撃を放つ。
「かはっ!」
アニヤが吐血する。
「まだだ。
吸血の魔力に願う 我に仇なす者を縛る鎖 血鎖!」
戦場を染めた血が鎖となってショーンを縛ろうと迫る。しかし、それは大鎌によって切り裂かれた。
「くっ!なぜだ。なぜ殺さない!」
すぐに殺さないことへの苛立ちからアニヤは叫ぶ。
「お前は何を知っている?与えられた力とは何を指している?」
「…複製の副次的能力で相手のことを理解できる。お前は力と本質に差がありすぎる。多少なら心の表裏で説明がつく。だが、お前はそれで説明がつかないほどの差異を持っている。それだけだ」
ショーンの問いにアニヤはおとなしく答える。そこには、もう嫉妬がなかった。圧倒的な存在には嫉妬すらも抱かない。
アニヤ=レヴィアは自らの過去を振り返る。
その記憶にいつまでも残る銀髪の男。それはアニヤの存在意義だった。その男がもつこと叶わなかったものを持つ者にアニヤは嫉妬していた。
千年前だ。それはアニヤが生まれてから三百年ほど経った時代だった。
当時のアリティア王国は亜人の大国と戦争をしていた。戦争は何年も続き、民は疲弊していた。銀髪の男はそんな時代に誕生した人族と亜人のハーフだった。彼は学者肌で天才だった。彼はアリティア王国でなかば監禁される形で研究をさせられた。
アニヤは監禁されている彼のもとに面白がって何度も通った。
幸か不幸か、彼の研究は完成した。
"心象器"
これは彼が開発したのだ。人族と亜人が手を取りあえるように、わざと闇堕ちのリスクを残したまま。
アニヤは憎まれ役を演じることを彼に約束した。吸血鬼ですでに闇堕ちしていたから。
アニヤは人族と亜人の軍から少しずつ闇堕ちしたものを集めた。
始め闇堕ちはただ、強くなる手段と認識されていた。闇堕ちは推奨されていたから人員はすぐに集まった。
アニヤは、彼らを率いてアリティア王国と亜人の大国に侵攻した。
予想通り両国は手を取り合った。しかし、銀髪の男が処刑されていた。
適当なところで引き上げるはずだった。
しかし、男が殺された。人族と亜人のために人間のために生きていた男が人間に殺された。
アニヤは、怒りのままに両国の軍勢を壊滅させた。
その日からアニヤは男が持てなかったものを持つ者に嫉妬を抱いていた。
「フッ…」
自嘲の笑いがアニヤからもれる。
「君がいれば、あの時の結果はかわったのかな?ねぇどう思う?」
「なんの話だ?てか、その口調はなんだ?」
「昔にもどしたの。おかしい?ふふふ」
アニヤは笑う。少女のように純粋に。
「さあ、もう未練はないよ。殺してよ」
アニヤの晴れやかな様子に負けた気になりながら、ショーンは大鎌を使ってその命を刈り取った。
「ああ、愛しい子、今行くわ」
アニヤの瞳から純粋な涙がこぼれたように見えた。
ショーンの意識もそこで途切れた。
これで第1章は完結
アニヤには復活の可能性が?!
次回、幕間か閑話か本編か
期待せずお待ちください




