第10話 明らかなのはたったそれだけ
振るう、振るう、払う、払う、斬る、斬る、突く、突く
ショーンはひたすらに魔物の軍勢を倒していく。しかし、その数が減ることはない。
交戦を開始してから既に数十分は経っていた。
ー足りない
ショーンの脳裏にそんな思いが浮かぶ。そして、思考が自分の覚悟のなさへの自責の念に囚われる。その動きは徐々に精彩を欠き、ショーンの傷が増えていく。
「がっ!」
足にくらった爪の一撃に怯み、致命的なスキが出来上がる。それを見逃すほど魔物たちは甘くない。スキを見せたショーンに一斉に襲いかかる。
「ショーン!」
ガンドルフの叫びが聞こえる。しかし、ガンドルフも己の身で手一杯だ。ショーンは魔物の群れに飲まれ意識を閉じた。
「くそっ!」
ガンドルフは悪態をつきながら魔物を処理する。
呆気なく死んだと思われるショーンと自分の不甲斐なさに苛立った。
明らかなのはたったそれだけ、人が対抗できない事実だけ。
アニヤは呆気なく死んだショーンを見て悲しくなっていた。
「あ〜、死んでしまいましたか。残念です。後はサクラを手に入れるだけですね」
その目は嫉妬の昏さを宿していた。
『神性候補の死亡を確認しました』
『緊急蘇生措置を実行します』
『禁忌形態の使用許可を申請』
『申請の受理を確認』
『禁忌形態:半魔を発動』
『神性候補の蘇生、変化を確認』
『干渉を終了します』
ーアツイ
ーなんだ?
「ぐ、グルああああぁぁぁああ!」
ショーンは抑えきれない衝動のままに叫んだ。それは獣のような叫びだった。
しかし、それとは反対に思考はクリアになり、己の状態を把握する。朦朧とした意識の中聞こえた機械的音声に困惑しつつも、今は魔物の殲滅が最優先だと考え、意識すべてを戦闘に切り替えた。
「なんだ!?」
突如、戦場に響いたショーンの叫びにガンドルフが反応した。
ガンドルフが声のほうへ視線を向ければ
「ショーン?」
死んだと思われたショーンがいた。しかし、その姿は人と魔物の中間のようであった。
人の姿を維持しつつも、額から角が生え、皮膚は黒くなり、爪は銀に光っていた。まるでショーンの心象器の擬人化。
そして、異形の青年は圧倒的な力でもって魔物の軍勢を駆逐してゆく。左手に握られた大鎌が振るわれるたび魔物の命が呆気なく終わっていく。
ガンドルフはその姿に闇堕ちを考えるが、魔物を倒しているのを見て似て非なるものであると考えを改めた。
その姿への疑問は脇に置き、今は戦闘に集中することにした。
「若造ばかりに手柄はやれんは!」
大剣聖は吼えた。
刈る、刈る、刈る
すべての命を刈り取る死神のように。
魔物を倒したその先にショーンはアニヤを見つけた。
「アニヤ…」
「君は死んでいなかったかい?」
アニヤは困惑の表情を浮かべている。
「まぁいいや。その姿は闇堕ちではないな。闇堕ちなら魔物を殺す必要はないはずたから。仕方ない、私が相手をしよう」
ため息とともにアニヤが素手を構える。そして、となりにショーンがいる。
しかし、ショーンは依然アニヤと対峙したまま。
アニヤのとなりのショーンこそがアニヤの欲望器。
"嫉妬の胎"
それから明らかなのはひとつだけ。
アニヤはショーンを嫉妬した。
たったそれだけ。しかし、それで舞台は整った。
さあ最強の道歩め!
えっショーンはダークかって?
違うはずさ、確証はないが……




