第2話 天才と天災
「お腹空いた…」
行き倒れているそれは、女性であるらしい。全身を覆う黒い衣服はおそらくローブだろう。倒れているので分かりにくいが。
さて、この世界においてもローブは魔術師の着衣であるのが基本だ。そして、この世界で魔法は心象器があれば使えるが、魔法を専門とする者は少ない。魔法を発動させるためにそれなりのイメージがなければならないからだ。つまり、地球の科学知識に近いものが必要なのだ。そんな学を修めることができるのはそれなりに裕福な家庭に生まれた人物だけだ。
しかし、目の前の魔術師らしきそれは行き倒れている。ショーン一行はそのため困惑していた。
「なんなんだこいつ…」
ショーンは無遠慮に指を指す。
「さぁ…」
カーミラにしても行き倒れの正体は掴めない。
「あっあの!とりあえず介抱した方が……」
「まぁそうだな」「そうね」
レイルのまともな言葉により、一行は行き倒れ魔術師らしき者を介抱することとした。
「うっうまい!生き返ります〜〜」
行き倒れは一行の保存食(大してうまくない)を本当に美味しそうに食べていた。
「ふ〜助かりました。ぼくはサクラです。森人族です」
空腹から復活したサクラは一行に挨拶をした。
森人族と言葉の通りサクラの耳は少し尖っていた。髪の色は金髪で瞳の色は黒であった。顔立ちはクリクリとした目や小さめの鼻など可愛らしいものだ。しかしながら年齢はわからない。森人族は寿命が長くおよそ人族の十倍だと言われ見た目の成長スピードも遅い。
「へー森人族か。初めて見たな」
「あたしもー」
「わたしは見たことありますけど…」
一行がサクラの種族に対して感想を述べるがレイルは他のことが気になるのか、言葉の歯切れが悪い。
当然だろう。なんせサクラの髪型が世にも珍しいソフトクリーム型なのだから。サクラの身長は一行のなかで最も小柄なレイルと同じくらい。しかし、髪型のせいでサクラのほうが大きく見える。
「あのその、それは?」
「うん?これ、これはねー
なんと!天才の証なんだよ!えっへん!」
サクラの言葉に一行は呆れの感情で内心を一致させた。
サクラはそんなことには気付かずない胸を張っている。
「で、サクラはなんで行き倒れててたんだ」
ショーンの問いにサクラは姿勢を楽にして答える。
「実はね。家出したんだ……」
“あっこいつダメなやつだ”
一行の心情は一致した。
「それでね。道に迷ってたら食料も尽きちゃってさー。いや、ホント君たちがいて助かったよ」
道のど真ん中にいたのに迷っていたと言うサクラにレイルはドン引きである。ショーンは方向音痴なので人のことは言えない。カーミラは面白そうにしていた。
「えっえと、サクラさんはどこから家出したんですか?」
困惑しながらのレイルの問いにサクラは気楽に答える。
「天災の森だよ」
「「天才?」」
ショーンとレイルが揃って首を傾げるがカーミラは知っていた。それがどんなところかを。
「ショーン、レイル違うよ。天の災いの天災だよ。アリティア王国にある唯一の人身未踏区域。S級指定の魔物が巣食う魔境だ」
ショーンとレイルはその言葉にサクラを凝視する。そんな危険地帯を行くだけの実力がこの少女にあるのかと。