第0話
「ねぇ。なにしてんの?」
少女が男に問い掛ける。しかし、男は聞こえていないのか、反応がない。
「ねぇってば」
しつこく尋ねる少女にやっと男は気がついた。
「なんだ?」
この場に第三者がいれば、男と少女が高貴な身分だと思うだろう。少女は美しい紅の髪に、金眼。その顔立ちはあどけなさを残しつつも気品に満ちていた。衣服も一目で高価とわかる代物で、しかしシンプルな青を基調としたワンピースだった。男は銀髪に銀眼、渋い印象を受ける痩身、しかし、高価そうな黒のスーツらしき服の下は無駄のない筋肉が見受けられる。
男は少女の問いに迷惑そうだ。
「なにしてんの〜〜」
少女は御構いなしに問いを繰り返す。
男は迷惑そうなまま答える。
「ハァ…アリティア王国に頼まれたアレだよ」
「あぁアレか〜しかし、あなたも物好きだねー。自分の種族が迫害されてんのに〜〜」
「関係ないな」
男は本当に関係がないというように言葉を吐く。
少女はコロコロと笑う。
「まぁ」
男が付け足すように言葉を告げる。
「これが達成されりゃ、俺たちゃ救われる」
「バーカ、まっガンバなさい」
少女は男を慈しむように言葉を告げる。まるで母であるかのように。
男は話は終わったというように作業に戻る。
「フフフ…」
少女は楽しそうにしながらその場を去る。
この会話の後、アリティア王国はある戦争に負けていた。その中心には少女がいた。しかし、それを知る者はいない。
悪魔に呑まれたものたちが共通の敵となり、亜人たちが迫害されなくなっていた。それがその戦争の唯一の報酬だった。