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神は勝手なのだと知っている  作者: 神狼 龍王《みたらしだんご》
序章 異世界に慣れる
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第9話 欲望

長くなりました

ショーンたちのいる迷宮 第八階層


新たな同行者と共にショーンたちは歩みを進めていた。最初に気づいたのはベテランのカーミラだった。


「ショーン!何か来るよ!」


その言葉にショーンとレイルは気を引き締める。それから少ししてショーンにも気配が感ぜられた。レイルはまだであろうがしかし、二人の様子につられて僅かに緊張の色がある。


ショーンからするとその気配は邪気とでも言えるものであろう。しかし、カーミラからすればそれは当たらずも遠からずな言葉だ。正確に表すならそれは怨嗟の気配と呼ぶべき代物。邪気がただの悪意ならば、怨嗟とは明確な憎しみであり邪気を持つものよりも厄介である。怨嗟を気配として持つものに相手を逃す気など絶対にありはしないからだ。


「チッ、ショーン、レイル少し下がろう。通路でやり合う相手じゃない!」


カーミラの言葉は最もでありショーンたちはおとなしくその言葉に従いつい先ほど通ったちょっとした小部屋に向かった。


狭い通路での戦いは一見有利であるが相手に逃がす気が全くない場合は少し広さがあったほうが良い。狭い通路では基本的に一対一に持ち込めるがそれはこちらの方が実力が上の場合に有利なのであり、挟み撃ちにされると逃げ場がない。逃がす気のない相手は相応の実力がある場合も多く、多対一の状況を作り出せる小部屋と通路の境が適した場所であると言える。

また、小部屋に複数の通路が繋がっていて、いざという時の退路があれば理想的である。逃がす気がないのと逃げられないのは別物でありそれは当人の実力に左右されるためだ。


しかし、今回ショーンたちの向かう小部屋の繋がっている通路は二つである。仮に怨嗟の気配の主と小部屋と通路の境で戦っている間に、別の通路に魔物がでないとは限らない。しかし、ショーンたちの実力であれば怨嗟の気配の主であればともかく、この迷宮の魔物であれば確実に強行突破して逃げられるため、さして問題ではなかった。


しばらくしてショーンたちは小部屋にたどり着いた。すぐに通路に向き直り、ショーンが正面にカーミラがその左レイルが右に布陣した。各々すでに心象器を具現させている。

レイルのそれは流水という銘の槍であり、能力としては自由自在に長さを変えられるというものであった。色は青で水魔法を使えることを表していた。

カーミラは片手剣である。色は赤で火魔法を使えることを表す。


「カーミラ、それの能力は?」


戦闘に必要なためにショーンが問いかける。しかし、カーミラは少し躊躇いの表情を浮かべていた。その様子にショーンやレイルは訝しむが怨嗟の気配はすでにすぐそこまで来ていた。カーミラが何かを答える前に怨嗟の気配の主が姿を現わす。


「アアアアアー‼︎」


それは絶叫と共にすぐに視界に入ったのであろう正面のショーンに襲いかかった。ショーンは慌てずに体を横にずらすだけでそれを回避する。そこにカーミラの剣が突き入れられ怨嗟の気配の主は傷を負った。


しかし、痛みなどないように今度はカーミラにすぐさま襲いかかる。当然だろう。それには確かに痛みはないのだから。それは屍喰鬼(グール)だったのだから。


カーミラもベテランの冒険者だ。ショーン同様危なげなくそれを回避。


「はあああ!」


そこにレイルの能力も使った突きが放たれ屍喰鬼は倒れた。しかし、屍喰鬼は一体だけではない。通路のほうに目をやれば、あと五体ほど確認できた。

レイルに倒された一体を押しのけるようにもう一体が前に進む。


「レイル!」


しかしショーンの呼びかけに反応したレイルがショーンと場所を入れ替わり、心象器の能力を最大限に発揮した。

すると通路から出ようとした一体どころか後続の屍喰鬼も巻き込んでレイルの流水が突き刺さる。串刺し状態である。レイルが流水の能力を解除すると屍喰鬼たちは流水に引っ張られることなく、その場で倒れた。


一行が安心したその瞬間、通路の奥から新手が突進して来た。間一髪、レイルはショーンに引っ張られてその突進を受けずに済んだ。


小部屋の中央で立ち止まったそれは大柄な屍喰鬼であった。


「なっ!」「えっ…」

「どうした?二人とも」


その屍喰鬼を見てショーンとレイルは驚いた。なんとそれは、ショーンとレイルが出会った時に、レイルを襲っていた盗賊のリーダーであったのだから。


「いや、この前気絶ですませたはずの盗賊の一人に似ているんだ」


「そうなのか」


ショーンの言葉にカーミラは納得するも新たな疑問が生まれる。ショーンの言葉を信じるならばこの屍喰鬼は未だ生きているはずの盗賊であるらしい。しかし、盗賊は死にやすい。ショーンと出会ったあとに死んでいてもおかしくはない。問題は屍喰鬼になっていることだ。しかも迷宮にいる。それは本来ならあり得ない。盗賊は討伐されたなら、しっかりと死体は処理されたであろうし、仮に放置されても魔物のエサとなっているはずだ。迷宮にいることも合わせれば明らかに人為的な出来事であった。


ちなみにショーンたちが盗賊を放置したのは拘束具もなく、町まで連行するのが難しいためである。この世界にも殺しを忌避する人はいるので、気絶ですませて放置することを咎められることはない。それで改心する者も少なからずいるのだ。


「コロス。ソシてウバう。」


元盗賊リーダーの屍喰鬼から言葉が発せられた。それに一行は驚く。本来、屍喰鬼は本能に従うだけの存在であり、言葉を発するということはそれがただの屍喰鬼ではなく上位屍喰鬼(ハイグール)であることを示していた。上位屍喰鬼は生前の記憶が朧げながらあるようで、同じ言葉を何度も繰り返す。そのため意思疎通ができるわけではない。しかし、明らかに通常の屍喰鬼よりも強く、心象器と対をなすと言われる欲望器(グリードウェポン)を使う。欲望器は心象器と違い心の強さなどは関係なく、闇堕ちしたすべての知性を持った存在が扱える代物である。欲望器を使える者はどのような存在であれ魔族と呼ばれることとなる。そのため人間であっても魔族である者がいる。


さて、元盗賊リーダーの屍喰鬼はその手に大きな戦斧を持っていた。そして、屍喰鬼はショーンを見てその憎悪を増大させた。記憶が残っていたのだろう。屍喰鬼は他のなにも眼中にないようにショーンだけを見て、ショーンに襲いかかる。


ズカン!


戦斧が大地を穿つ。ショーンは後方に跳ぶことで戦斧の一撃を避けていた。カーミラが硬直している屍喰鬼に対し魔法を放つ。


「我 求めるは かの敵を屠る 火なり フレイムボール」


燃え盛る火の球が屍喰鬼に命中する。しかし、それは背中を焼くだけにとどまった。痛みを感じないそれは執拗にショーンを襲った。


左斜め上からの戦斧をショーンは新月で受け流した。心象器でなければ刀で戦斧を受けるのはかなりの無謀である。この世界ならではの刀の使い方だった。屍喰鬼は流された戦斧に引っ張られるように体勢を崩した。ショーンは能力の発動を意識しながら屍喰鬼を袈裟斬りにした。屍喰鬼は倒れ、ショーンは新たな力の獲得を感じていた。


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