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プロローグ
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その夜は新月だった。
月のない夜は闇が深く、不安と誘惑が心に生まれる。
いつもより深い闇はどこか深海を想わせ、溺れそうな錯覚を感じ息苦しく思う。
水面に手を伸ばし必死に水を掻き酸素を求めようと抵抗するのだが、抗う事を諦め染まる事でどこか楽になれるような、そんな気持ちも確かにある。
『楽になれる』という感覚があるのは、楽になりたい何かが自身の中にあるという事だ。
だが、そこまでの自己分析は出来ても、それ以上の分析は難しい。
自分は何を求め、何に苦しんでいるのだろう。
新月の闇は、理解し難い自身の心によく似ている。
それゆえ、惹かれてしまうのかもしれない。
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