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第五話 ポヨッペちゃんマジ弱いです。

「はい、チュートリアルおしまい。何か質問はあるかしら?」


 ティアが執務室のデスクに寄りかかってそう言うと、恭也はげっそりとした顔で、恨めしそうにティアを見た。


「質問があるかって? 質問したいことだらけだよ。でもねみいよ」

「わたし明日は忙しいから、今のうちに聞いてくれると助かるんだけど」


 恭也はビシッと窓の外を指さした。東の空がうっすらと白んでいる。


「初日からなんなん? 結局徹夜じゃねえか! ブラック企業も真っ青だろうがよ!」

「うん、がんばったね! 偉いぞ!」


――殴りたい、その笑顔。


 作戦会議を終えた後、恭也はアウスタリスの背中に乗せられたまま、ティアに放置されていた。


 アウスタリスは、恭也が背中に乗っていることなど、まるで意に介していないようだった。むしろ、振り落としてやろうという意図さえ感じられた。一緒に乗っていたモーコが助けてくれなかったら、恭也は落下し、その生涯を終えていたことだろう。


「あのクソドラゴン! 俺になんか恨みでもあんのか!?」


 ティアは苦笑いを浮かべた。


「うーん、それは直接訊いてよ。育て親のハルナに訊いてもいいし」

「ハルナさんって、確かあの、白衣を着たメガネの人だよな?」

「うん。ハルナは一級ブリーダーなんだけど――」

「いや、まずブリーダーって?」

「ウォーリアを育成する職のこと。一級は、その最上位。ランクSSのウォーリアを一名、ランクSのウォーリアを三名育成しないとなれない、とても栄誉ある地位なの。見たでしょ? アウスの力。あれが、SSランクのウォーリアよ。」

「あんなのを育てなきゃいけねえってのか……つってもドラゴンだし、元々強いんじゃないのか?」

「そうね。フレイムドラゴンはそりゃ元々強いけれど……本来フレイムドラゴンが扱えないスキル『フォトンブレス』、そして大型飛空艇を支えるほどの膂力。どちらも類い稀な育成力がなせる業よ」

「お、おお……」


 恭也は強烈なブレスばかりに意識が向いていたせいで、今さらながらアウスタリスのパワーに気付かされた。船体のバランスをうまくとっていたのはモーコだが、モーコを支えていたのはその下にいたアウスタリスなのだ。


 コンコン、とドアがなって、「入ります」とハルナが入ってきた。その手に持つ鳥籠の中で、ポヨッペがうとうととしている。


「ポヨッペ~……」


 恭也は泣きながら鳥籠にしがみついた。クレイラに来てからというもの、振り回されてばかりの恭也にとって、ポヨッペはかけがえのない癒しだ。


「とてもいい子にしていましたよ」


 ハルナは鳥籠を恭也に預け、ティアに一枚の紙を差し出した。


「検査結果です」

「さっすがハルナ!」


 ティアは嬉々として紙を受け取り、かじりつくように読み始めた。その後ろから、恭也が覗きこむ。


「なんだこれ?」

「あ、読めないよね。数値とランクは地球の一般的な表記と同じだからわかると思うけど、上から順に生命力、パワー、敏捷性、器用さ、耐久力、精神力を指すの。この辺りが基本性能。32って数値の項目は愛情値。その下のは、総合判定と適正判定――適性はやっぱりエンハンサーね! 最後のはレアリティ判定――あら?」


――こんな感じか。


 生命力:2

 パワー:2 (F)

 敏捷性:3 (F)

 器用さ:3 (F)

 耐久力:1 (F)

 精神力:4 (F)


 愛情:32


 総合判定:F

 適正判定:エンハンサー ヒーラー

 レアリティ判定:-

 

「レアリティ判定が不明?」


 ティアが言って、ハルナは顎に人差し指を添えた。


「そうなんです。再検査もしたのですが、結果は変わりませんでした」

「この数字に判定エラーになる要因あるかしら」

「愛情値が、初期値にしては非常に高いぐらいですかね。といっても、前例がないわけではないですが」

「エラーの原因としては、足りないわね」


 腕を組んで考え込んだティアに、恭也が尋ねる。


「他のやつは大体想像つくけどさ、愛情ってなんか役に立つのか?」

「な、なんだか嫌な聞かれ方だけど……まあいいわ。愛情値が高いと、新スキルの習得率が上がるの。それに、ステータスの上昇率にも影響するわ」

「おお! じゃあこれが高い方がすっげえいいじゃん!」

「それが、そうとも言い切れないのよ」


 ハルナが説明を引き取る。


「愛情値は、ウォーリアが最も好意を寄せる人物に対する数値が表示されます。あまり高すぎると、その人が病気になって一緒に居られなくなったときや、他のブリーダーに引き継がれた時に大きな影響を及ぼすのです。悪いときには、ステータスの低下……もっとひどいと、命を失うウォーリアもいます」

「なるほどな。しっかし……」恭也は憐れむようにポヨッペを見た。「お前、めっちゃ弱そうだな」


 ずらりと並んだ低い数値。特に、生命力2という数値が恭也を著しく不安にさせた。某RPGゲームの最弱モンスターよりも低いその生命力数値は、グーパン一発で息絶えてしまいそうである。実際に息絶えそうではあるが。


「初期値なんだから、そんなもんよ。アウスみたいな大型じゃないんだから。それに、ウォーリアに覚醒してヒューマンの姿になれば、一気に数値が上がるわよ」


 ティアがそうフォローすると、恭也は思い出したように言う。


「それ! 元々は人間じゃないんだろ? モーコちゃんも、スイレンも、スコルクも。アウスタリスみたいに変身してるのか?」

「えっと……多分、あなたの認識とは逆かしら」

「逆?」

「適合種がウォーリアの施術を受けると、十日くらいかけて少しずつヒューマンの姿に変わるのよ。元の姿に変形できるようになるのは、共有スキル『ビーストモード』を習得した場合だけね」

「共有スキルって?」

「ウォーリアの適性に拠らず、誰もが習得できるスキルのことよ。仕事上便利だから、『ビーストモード』は大抵のウォーリアが習得しているわ」


 ティアの説明に、ハルナが続いた。


「それに対して、専有スキルは適性ごとに習得できるスキルですね。アタッカーは回復系のスキルを習得できない、というのがわかりやすい例でしょうか。一人のウォーリアにしか使用できない固有スキルというのもあります」

「へえ」


 恭也は聞いているうちに、胸が高鳴ってきた。ポヨッペは一体、どんなスキルを習得し、どんな姿に変わるのか――。


「ごめんなさい、そろそろいいかしら。あと一時間で仕上げなきゃいけない書類があるの」


 ティアが言って、恭也は驚き呆れた。


「まだ仕事やるのか!?」

「コンダクターが徹夜するなんてザラよ。大丈夫、その分どこかで休むから」

「あ、ティア」ハルナは、デスクの椅子に座ろうとしたティアを呼び止めた。「確認ですが、ポヨッペちゃんの育成方針はエンハンサーでいいですか?」

「もちろん! 施術のほうもお願いね」

「そちらは適性検査のあとに終わらせてありますよ」

「頼りになるわぁ」


 ハルナがクスッと笑って、恭也を見た。


「そういうわけですので、これからポヨッペちゃんはヒューマンの姿に変わっていきます。気を付けてあげて下さいね」

「気を付けるって、何を?」

「あ……説明していませんでしたね。過去のデータ上、適合種が最も影響を受けた人物に容姿が似る傾向があります。ポヨッペちゃんは女の子ですが、例えば、恭也君の姿ばかり見ていると、女の子なのに恭也君の顔、なんてことにも――まあ、それでも大丈夫そうですけど」


 恭也は愕然としてポヨッペを見た。


「……気をつける」

「え、ええ。では、恭也君に用意した部屋へ案内しますね」


 すでに書類作成作業に入ったティアの邪魔をしないよう、ハルナと恭也は静かにティアの執務室を後にした。


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