第四話 ウォーリアさんマジ強いです。
フォルトは報道スタッフを装い、マハルダ所有のヘリでティアの姿が見える位置までやってきた。ティアはアウスタリスから離れ、警察の大型飛行艇に乗り、状況を見守っているようだ。
肝を冷やしているだろうと、双眼鏡でその様子を伺ったが、ティアは腕を組んで余裕の笑みを見せていた。怪訝に思い、エスペランサM7に視線を移してみると、船体中央のメインローター直下に二人のウォーリアが見えた。スイレンとスコルクだ。
――思ったよりも、早く見つけたようだな。それはそれで好都合だ。
メインローター直下の鋼鉄で覆われた空間内にはエンジンが格納されていて、そのエンジン部品の一つに小型の強力な爆弾が組み込まれている。マハルダのメンバーの一人が勤務している部品工場に、運よくエスペランサM7のエンジン部品製造発注があったからこそできた芸当である。
爆弾の位置がわかったところで、手を出しようがない。取り除こうとすれば、エスペランサM7は地上へ一直線だ。
ところが。
「な、なんだ? あれは……」
スイレンが天に翳した両手の上に、巨大な水球が生成された。その隣では、スコルクが短剣を構えている。甲板にいる人々は、船首・船尾に別れて避難しているようだ。
――何をするつもりだ……?
考える間もなく、突如始まったカウントダウン。
「五! 四!」
人々は声を揃える。まるで、ロケットが打ち上げられる瞬間を、今か今かと待ち構えるかのように、人々の表情は期待に満ちていた。
「三! 二! 一!」
それは、一瞬の出来事だった。
スコルクが腰を落とし、左旋回して横一文字に短剣を一閃。エンジンを覆う鋼鉄部分が甲板からぱっくりと切り離されると、間髪入れずに巨大水球がエンジン部分を包み込み、メインローターごと上空へ跳ね上げた。
そして――。
「んな!?」
辺りが、昼間かと勘違いしてしまうほどの白光。アウスタリスの口腔から放たれた一直線に伸びるブレスが標的を捉え、跡形もなく消滅させた。
フォルトは頬を抓った。しかし、夢ではない。
メインローターの一つを失ったエスペランサは、徐々に傾き始めた。このまま墜落するかと思われたが――。
「そ、そんな……」
フォルトは腰を抜かした。バランスを持ち直した船体。それどころか、徐々に高度をあげていく。
カラクリは、至極単純であった。アウスタリスの背に乗っているモーコが、バランスを取りながら船底を両手で支えている。
「ば、化物じゃないか!」フォルトは操縦席にしがみついて叫んだ。「おい、あんなの命がいくつあっても足りん! 早く逃げるぞ!」
しかし、ヘリは一向にその場から離れる様子がない。
「おい、どうした!」
「か……囲まれています!」
突如ライトを当てられ、振り向いたフォルトの目がくらんだ。
「そこまでだ! フォルト!」
ブライアン警部だ。ようやく目が慣れて、窓越しに辺りを見回せば、たくさんの小型機に囲まれている。
「これは一体……」
愕然として膝をつくと、澄んだ女性の声が聞こえた。
「いかがだったかしら? アウスタリスのフォトンブレス。滅多に見せない大技よ?」
フォルトは立ち上がってヘリのドアを開き、テイルローターの方を見た。ヘリの後部やや下方。大型飛行艇の上に立ち、左手に拡声器、右手に鞭を握っているその女性は――。
「ティア……シルベストロ!」
上空千五百メートルであることをものともせず、強風に髪をなびかせながら凛然として立っている。ウォーリア達を指揮するコンダクターの実力もまた、尋常ではない。
「よっ」
ティアは鞭を振るい、フォルトの首に絡め、ぐいっと引き寄せた。次いで、みしりと鞭を持つ右拳に力を込め、落下してくるフォルトにボディーブローを見舞う。
「あっ……がっ……!」
のたうち回るフォルト。ティアは涼し気にその様を見下ろした。
「『気高いお顔が苦しみ歪むその時が楽しみだ』……ね。わたしに恨みを持っているあなたは、必ずわたしの側に現れると思っていたわ。案の定、身元不明のヘリが一機。バカなの?」
「ぐっ……ふっ……ふ、ふふふ……」苦痛にあえぐ声が、やがて不敵な笑みへと変わる。「バカは貴様だ! 油断しやがって!」
フォルトは目を血走らせて駆け出し、携帯電話を耳に当てると、「やれ!」と大きく叫んだ。
「無駄よ」冷然とティアが言う。「まだわからないの? セントレイクのウォーリアの恐ろしさが」
悍ましく白い歯を見せていたフォルトの表情が、次第に険しくなっていく。期待していたことが、一向に起こる気配がない。
ティアは拡声器を腰に掛け、ゆっくりとフォルトに歩み寄る。
「人質を救出した場合に爆破という条件。つまり、目視で人質の状況がわかるということ。なら、人質の中にテロリストが紛れ込んでいる可能性を視野に入れるのは当然のことでしょ。計画が失敗したら、銃を乱射させるつもりだったかしら? それとも、自爆でもさせるつもりだったのかしら?」
「な……なっ……」
ティアの凄まじい眼光に気圧され、フォルトは体を震わせる。
「なんにしても、SSランクのスピード数値をはじき出すスコルクには、事が起きる前に捕らえるなんて、造作もないことよ。さ、観念なさい」
フォルトはガックリと首を垂れ、両腕を差し出した。