祭りと未成年
「ねぇ、ミル!次はあっちに行ってみようよ!」
僕は幼い少年に手を取られて街の中を彷徨う。街の中はなぜかお祭り騒ぎ。あちらこちらに売店が並んでいてまるで日本に居たときの縁日のようだ。
「このグラドボアの肉おいしー」
あれから何日経っただろう。この幼い少年、「ルルカ」の祖母の家に行ったものの妙な連中に襲われて大変な目に遭った。なんとかその場を凌ぐことは出来たものの、これからの課題は増える一方である。
ルルカは魔法の才能が突出しており、その辺のモンスターならお得意の風魔法で粉微塵にできる天才少年である。
あ、因みに僕はゴーレムです。
「なんだか楽しいね!ミル!」
グラドボア?とやらの肉を齧りつつ笑顔を向けてくる。大きな街に来ること自体、ルルカにとっては初めての経験に等しいのだろう。加えて、祭りのような騒ぎで好奇心が抑えられないようだ。
なぜ街に来たのかというと、冒険者ギルドにギルドカードを作ってもらうためなのである。この先何かと物入りになるので稼ぎが必要なのと、身分を証明するものがどうしても欲しかったのだ。異世界では街の入り口に門番が立っているところも多く、冒険者という肩書きを証明できれば面倒な手続きをしなくて済むのだ。
そもそもゴーレムがギルドカードを作れるのか甚だ疑問だったのだがルルカの祖母曰く、「大丈夫じゃと思うよ?」だそうだ。ホントかよ。
「そこの坊ちゃん!このアグニの串焼きは絶品だぜ!?連れの兄ちゃんも一本どうだい?」
「二本ちょうだい!」
「あいよ!」
ルルカにアグニ?の串焼きを渡されたがゴーレムなので食べられない。多分一本だけだと店の親父さんが不審がると思って二本買ったのだろうけど、別にそこまでしなくてもいいんだぜ?
「あ、そっか。ミルは食べられないんだった。」
「……」
……純粋だったかー。
ゴーレムを連れていることを基本秘密にしておきたいというのがルルカの心情だ。
他人から見て自分はかなり人間に近い姿をしているようで、もしゴーレムだとバレてしまうと色々面倒なのだ。今、普通の服を着て歩いているのに誰も気にかけている様子がないのが良い証拠である。ルルカの親父さんの若い頃にそっくりだとも言われた。
それと発声器官がないので喋ることはできないし、空腹になることもないので食事は必要ない。何を動力にして動いているのか分からない。とにかくこの体には謎が多い。
実はこの街に来る途中何度かモンスターに遭遇したのだが、ルルカの足手まといが嫌で勝手に特攻を仕掛けてモンスターをズタズタに引き裂いてしまった事例がある。
その後のルルカとの距離感がなんとなくおかしくなったのは気のせいではないと思う。こんなはずじゃなかったんだ……
このゴーレムの体はどうやらルルカの命令だけに依存するわけではないらしい。主人によって作られたはずなのに全く、おかしな話だと思う。
「あっ!あの店入ってみようよ!」
「……」
人通りの少ない細い道に抜けたようだ。辺りは先ほどと違って随分と落ち着いている。ルルカが指をさす先には大人っぽい雰囲気が漂っている店があった。
……ちょっとあのお店に入るのには抵抗がある。緊張するから。
「お邪魔します!」
何のためらいもなくルルカがドアを開けた。
カランカラン。
独特な音を奏でながら勢いよくドアを開けた先には成人したオジサン達がお酒を酌み交わしている最中だったようだ。こちらを見て硬直している姿が印象的である。
すいません。本当にお邪魔します……
僕は慣れない雰囲気に戸惑いながら、未成年に手を引かれて店の中に招き入れられた。