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洗礼は如何でしょう?  作者: 地獄ルンバ
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愚かな戦争のウラガワ

 ーーダングラ峡谷

 ここはいくつもの崖がそびえ立ち、モンスターが跋扈する危険な土地。

 普通、まともな人間がこの場所に立ち入るなど考えられないのだが不自然なほど人間の死骸が多く存在していた。

 原因は戦争。

 ダングラ峡谷を挟むように両隣の国同士が争っていた。ダングラ峡谷には豊富な資源が多くあり、中でもシュバリア鉱石というものが高値で取引されている。両国はこの鉱石に目をつけ、密かに領土の拡大を図っていたのだ。だが必然というべきか互いの国の先遣隊同士がかち合ってしまい、そしていつの間にか戦争という流れになってしまったのである。


「おかしくないか?」

「?何がです」

「この戦争がだ!あんな場所を拠点に構えるなんざ狂っているとしか思えねえ!」

「……戦争自体に文句はないのですか?」

「戦争は別に良いのだ!俺たち兵士は争うために今まで地獄の特訓を続けてきたんだからな!だがな!横からモンスターに食われちゃたまったもんじゃねえ!」

「それも戦争ってことで」

「納得いかねえ!」


 酒場のテーブルの一角に腰掛ける人物が二人。

 隊長のメリートン、そして副隊長のバルヴィである。

 ここは兵士達が集う場所、ブロッケン砦。砦からは大きくそびえ立った崖が一望できる。ダングラ峡谷である。

 彼ら兵士は砦内で生活しており、中には酒場を模したものもある。


「隊長。人間っていうのは争わないと生きていけない人種なんですよ。それがどんな場所であっても、ね。」

「聞く耳もたん!むざむざ部下たちを死地に追いやるなど馬鹿のすることだ!」

「じゃあ私たちは大馬鹿ですね。」

「……」


 国の方針でダングラ峡谷に兵士を送り込むことは決定済み。どうあがいたところで覆らないことをメリートンは充分に理解していた。


「……新型とやらの調子はどうだ?」

「ええっと、ゴーレムのことですか?まだまだ調整が必要な代物です。戦争に持ってったってガラクタ以下の働きしかしませんよ。」

「そうか」


 メリートンは溜息を吐いた後、チップをテーブルに置き店を出る。バルヴィもそれに続く。

「最前線組」と呼ばれる彼らの部隊は魔法戦士のみで形成されていて、ゴーレムの生産にも力を入れていたのだ。だがゴーレムを作るための術式がここ最近なぜか上手く発動しなくなり、途方に暮れていた。ゴーレムを作っていた何人かの者は「新型」と称して全く新しい形のゴーレムを作ろうとしたが失敗。必要経費を無駄にしてしまっていることにメリートンは頭を抱えていた。


「……加えて戦死者多数だ」

「ん?ああこの前の戦闘ですね。……人間にやられたというよりもモンスターと戦った、といった方が正しいですね」

「全く、本当に馬鹿な国だ!両方共な!!」

「隊長がそんなこと言っちゃったらマズいですよ。ただでさえ僕達は目の敵にされてるんですから。戦果を挙げない臆病者だと。」

「好きにいわせておけ。今の俺たちに必要なのは確固たる戦力だ!それ以外は無視していい。」

「隊長。今日も部隊の経費で赤字です。」

「言うな」


 しかめっ面をしながらメリートンはドアを開く。

「ちぃーっす。隊長」

「隊長。ういっす。」

「……」


 ドアを開いた先には兵士達が胡坐をかいて目配せをしてくる。兵士達の演習場に来たつもりであったが、酒場から頂戴してきたであろう酒瓶がいくつも転がっている。


「おまえらっ!いつまでそうやっているつもりだ!」

「おっ、このお酒は結構な年代物ですねぇ。」

「隊長に副隊長もどうしたんすか?酒の差し入れっすか?」

「違うわ!この馬鹿者共!もういいわ!」


 ドアを乱暴に開けてその場を後にするメリートン。


「何怒ってんすか?隊長。」

「……まぁそうなるのは無理もないですかね。」

「副隊長もどうすか?」

「私は遠慮しておきます。」



 立ち入り厳禁の看板がかかった部屋に苦虫を噛み潰した顔のメリートンが入る。ここはゴーレムの制作場。よく分からない部品が散らかっていて足の踏み場がない。なんとか部屋の奥に辿り着いたとき、三人の人影が見えた。


「おい!お前達!何度も呼んだのに返事位しないか!」

「……?誰」

「……さぁ」

「……」

「!なっ」


 メリートンは無礼を働いたことよりも三人の顔色が悪いことに驚いた。青色を通り越して白に近い。


「お、お前ら、いつから寝てない?」

「……覚えてない」

「……知らん」

「……」


 恐らくゴーレムを作っていたのであろう、三人の輪の中には試作段階の「何か」が蠢いている。


(俺はこんなものに経費を投資していたのか……!?)


「お、やってますねぇ。順調ですか?」

「……副隊長」

「……まぁまぁ」

「……」


 バルヴィがいつの間にか部屋に入って何やら物色している。何度もこの部屋に足を運んでいるのだろう、どこに何があるかを分かっているようだ。


「お前、こうなっていることを知っていたのか?」

「ん?ええ、もちろん。それよりも見てください隊長。この魔法の剣、触るとなぜか発光するんですよ。」

「……それ、夜の明かり用」

「一体何を作っているんだ……はぁ、俺は先に部屋に戻っているからな」


 メリートンは溜息を吐きつつ部屋を後にする。


「なぁ、バルヴィ。俺はどこで間違ったのだろうか。若い頃から剣と魔法で成り上がってやっとこの地位に辿り着いたというのにそれがどうだ。最初任務に就かされたときは光栄に思ったものだが……」

「我々の戦争はまだ終わっていません。ここからどのように展開していくかは我々次第です。なので泣き言を言わないでください。」

「ではどうしろと言うのだ」

「……戦力に不安を抱くのは当然です。このままでは次の戦争で負けるやもしれません。なので兵士を雇い入れましょう」

「……用心棒まがいの連中しかこないぞ。」

「大丈夫です。私に考えがあります。」



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