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洗礼は如何でしょう?  作者: 地獄ルンバ
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急展開、なのに

「おい、あのゴーレムなんかおかしくないか?」


「何がだよ?」


「なんかこうゴーレムらしくないっていうか、なんていうか」


「気のせいだろ。それよりも準備しとけよ? もしかしたら戦闘になるかもしれんからな」


「あ、ああ。こんな安賃金じゃ割に合わない仕事だがな……」


 あぶねっ! バレかけた。

 村長から少し離れた場所にいる兵士二人がこそこそ会話をしている。

 ……我ながらこの離れた距離でよく聞き取れるものだと思う。


 お婆さんと村長は睨みあったまま動かない。

 ルルカはどうしていいか分からず二人の動向を見ているという感じだ。

 あの、もっと平和にいきましょうよ……


「別に争いに来たわけではありませんのでね。そちらのゴーレムを一目見に来ただけです」


「アンタの言うことはいつも信用できないよ。さっさと出ていきな!ここを誰の家だと思っているんだい?」


 ガタガタン!


 !

 天井から白いマネキンゴーレムがいくつも降りてきた。

 目が赤く光っている。戦闘モードか?

 これは本格的に始まっちゃうの?

 やべーよ、マジやべーよ……


「ハァ……仕方ありませんね」


 村長の手が光りだした。

 なんだ何をする気だ?


 ……と思ったら光が消えた。


「気が変わりました。惜しいですが、今日のところは退かせていただきます。けれど覚えておいてください。必ずしもあなたが正しいというわけではないということを」


「ハン! お節介なんだよ! 帰りな!」


 村長はため息をついた後、体を翻して玄関口から去っていく。

 兵士二人もそれに付いて行く。ホッとした顔で。そりゃそうでしょうね。

 けどホント一時はどうなることかと……


「ミル! 大丈夫!? どっかケガしてない!?」


 うおっルルカどうした?

 大丈夫だぞ。ゴーレムはケガなんてしないぞ。多分。


「あのボンクラ、村に帰って来てたのかい。これは厄介なことになったわい」


「うん。そうだね……」


 あの村長そんなにヤバイ奴なのか?

 まあ陰険っぽいし、あの不気味な視線といったら……うん。やっぱりヤバイ奴だ。


「それにしてもミル、もっと自然に出来なかったの? バレるかと思ったよ」


 す、すいません。

 つい反応してしまうんですよ。

 でも最初から最後まで椅子に座ってましたよ?

 あれ?それもおかしかったかな。

 自然の基準がわかんねー。


「ルル坊。そうミルを責めてやるでない」


 お婆さんは白ゴーレム達に壊れたドアを片付けさせている。


「あのボンクラは魔法の扱いだけは一級品だからのう。全く、手間をかけさせてくれわい」


 ドアを壊したのはやはり村長だったか。

 ただの村長ではないとは思ってたけど、厄介だな。

 できる限り会わないようにしないと。


「……ルル坊にミル、後で大事な話をしておこうかの」


「大事な話?」


「とりあえず部屋を片付けてからじゃな」









  ――――――――


 時刻はおそらく真夜中。

 村長達が乱入してから結構時間が経過したようだ。


 特に意味もないが両腕を上にあげて伸びをする。

 人間だったころの名残をまだ忘れていないようだ。

 首を回したり、ストレッチをしたり、ラジオ体操の真似事をしてみる。

 ……うん問題なし。ルルカとお婆さんが怪訝な顔をしてこっちを見てるが気にしない。


 体操をしていると自分の腕が視界に入って、気づいた。

 あれ?こんな腕してたっけ?

 あ、そうだ。ゴーレムだったんだ。

 なんか灰色の腕してるなぁと思ったんだよ……


 !?

 なんじゃこりゃあ!?

 全身を見てみると、灰色の手足がそこにあった。

 色々あって自分のことに頭が回らなかった。


 …………

 服を着ていない。

 前は視線が固定されていたから気が付かなった。

 ゴーレムだから当然なのだろうか?

 あの白ゴーレムと同じような体つきだ。

 灰色のマネキンだわ。


 …………

 こんな体で外を歩いていたのか。

 不審者で露出間だな。

 でも股間はないのでセーフ?

 誰か服を貸してください。


「どうしたの? ミル?」


 ルルカよ。

 よくこんな変態と歩いていたな。

 へこむわ。


「ミルや。そろそろ座って話をせんかの」


 あ、はい。

 声は出せないのでうなずく。


「ミルって本当に人間くさいよね」


 いや……人間だったからね。

 椅子を自分で引いて、座る。

 何もおかしなことはない。


「さて、ここで話をする前にひとつ、質問があるのじゃが」


「ん? 何?」


「冒険者、についてじゃ」


 !?

 なぜいきなりそのワードが。 

 冒険者って……

 あるのか、あの職業が……!


「ルル坊は冒険者についてどこまで知っておる?」


「うーんと、町で人を集めてモンスターを狩るお仕事だよね」


「……ふむ。まあそれだけではないがの」


 なんだ?

 何を話そうとしているんだ?お婆さんは。


「結論から言おうかの。二人には……冒険者になってほしいのじゃよ」


「え?」


 え?

 マジか。ゴーレムでもなれるの?

 って違う違う。

 そういう問題じゃない。 


「ちょ、ちょ、ちょっと待ってよ! 急にそんな話されても困るよ! 第一、僕はまだ十歳だよ? 冒険者になれるのって確か十五歳からじゃなかったっけ?」


 そうだよ! 話が急すぎるんだよお婆さん。

 ……というか年齢制限があるのか。

 そもそもルルカって十歳だったのか。……ちょっと賢すぎるんじゃないですかね。


「知っとるよ。そのあたりは儂から言えばどうにかなるじゃろう」


 お婆さんの権力すげえ。

 もうお婆さんが言えば何でもアリになりそうだ。


「じゃなくって!どうして冒険者にならなきゃいけないの!?理由を聞かせてよ!」


「落ち着きな、ルル坊。これからする話をしっかり聞くんだよ。いいね?」


「う……うん分かったよ」


 お婆さんの真剣な表情にルルカは口ごもる。


 冒険者……ねぇ。

 それよりも今は自分を見つめなおす時間が欲しい。

 ゴーレムについてまだまだ知らなければいけないことが多くあるだろうから。




 ――――――――


 お婆さんの話は長かった。

 ルルカがこれからどういう立場になるのか。

 村長との軋轢。

 ゲトーミア大陸の情勢。

 行方不明の父親のこと。

 諸々の事情を鑑みて冒険者という選択肢を取らざるをえないということ。

 細かい話はよく分からなかったけれど、大体こんなところだろう。


「そんなにいきなり言われても頭が追い付かないよ……」


 ……

 ルルカのことにも気を向けてやりたいが、話の最中どうしても自分のことで頭がいっぱいだった。我ながら白状だと思う。だがいい加減この体について分かることを全て知りたい。自由の身になった今、それができるのではないだろうかとずっともやもやしていた。

 よし、動こう。

 お婆さんが真剣な話をしている最中なのに立ち上がってあるものを探す。空気の読めない男である。


 お婆さんの家のクローゼットっぽいものを開ける。


 ガサゴソッ


 なかった。

 こんなことをしてはいけないと思いつつも家の中を探索する。


「なんだい? ……アンタ何を探しているんだい」


「ミル?」


 時折お前変なことするよなって知り合いに言われたのを思い出してしまった。

 けれど知りたいんだよ。自分の姿くらい確認したっていいだろ?

『鏡』はどこにあるんだ。










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