納得いかないけど
少し間が空きました。
「おっそいわよ!」
そんな顔しないでくださいよ。ルルカも悩んだ末にここに来たんだからね?
それにしても観客が多いな……
ご丁寧に戦うスペースまで用意しちゃって。
「私のユコア、前に出なさい!」
甲冑を着たゴーレムらしきものが前に出てくる。白と青の模様が特徴的だ。
「はぁ、やだなぁ」
ルルカ、気持ちは分かるよ。こういう目立つことしたくないよね。
「勝たせてあげないと怒るんだよなあ」
……あ、そういう心配ですか。
「ルルカ! 壊しても文句なしだからね!」
「分かったよ。ミル、前に」
……
身体が決戦の場に向かっている。なんか緊張してきた。ゴーレムなのに。
「……なあ、あの二人のゴーレムどっちが勝つと思う?」
「さあなぁ。それにしてももう一体の方、まるで人間じゃねぇか。なんだありゃ」
「噂ではあのゴーレム技師の婆さんが作ったそうだぞ」
観客が何か気になることを言っていたぞ。
まるで人間? ゴーレムじゃなくて実は人間だったなんてオチだったり……しないね。
「ユコア! 全力で叩き伏せなさい!」
おっ? 来るのか? 来るのか?
痛いのはやめろよ? ケンカなんてほとんどしたことないからな? 常に平和主義を信条に生きてきたんだから少しはその辺鑑みてくれたらうれしいなっと!
ブンッ!
あぶなっ! パンチはそこそこ早いな。空振りした音からして相当の重量だ。気を付けないと。
「ほらほら、逃げてばかりなのかしら!?」
……ちょっとイラついてきた。相手を見下して優越感を得るタイプか。いるいるそういうの。少し痛い目を見せてやりたい。
「ミル、そろそろいいよ」
待ってました!
そら行くぞ、右ストレートだ!
ガコンッ
左肩にクリーンヒットした。
あ、肩から腕の部分が吹き飛んだ。
「ああああああああああああああ」
キキュが絶叫してらあ。
どうよ、このチカラ。
「うううっ……なんで……なんで」
泣きだしちゃったよ……どうしよ……
急に罪悪感が……
「なんだよもう終わりかよ」
「一撃で終わっちまったな」
「うう……いってえ」
観客が冷めている。
……さっき飛ばした腕が観客の一人に当たった気がしたけど、きっと気のせいだろう。
「キキュ。少しは懲りた?」
「うっ、うるさいうるさい! なんでアンタに負けなきゃいけないのよ! 気に入らないわ!」
「そんなこと言われても……」
すごい我儘だ。
なんかある意味新鮮さを感じる。
年取ったかなあ。
「ふん! こんなゴーレムなんて!」
お、おいおい何をする気だ?
キキュがなんか迫ってきたぞ。
「ていっ」
コンッ
「痛い〜〜〜!」
何やってんのこの子。
ゴーレムに蹴りを入れたらそうなるわな。
「くうぅ〜。覚えてなさいルルカ! 次は絶対に絶対に負けないんだから!」
キキュは逃げ出した。
どこの三下の悪役だ。途中から足が痛かったのか、ユコアを呼んで残った右肩にもたれ掛かって歩いてる。
一体何だったのあの子?
……ヒソヒソ
ん? 観客の様子がおかしい?
この空気、嫌な感じだ。
「なぁ、あれってアイツの息子じゃね」
「村の近くに住んでるとは聞いていたが」
「どうやらちょくちょく村に来てるみたいだぜ」
「マジかよ。勘弁して欲しいぜ」
誰のことを言って……
! まさかルルカのことか。
「ミル、行くよ」
……
どういうことなんだよ。
勝ったのはルルカの方だろ。観客の奴等、なんでそんな反応するんだよ。
「ミル、一度お婆の所に戻ろう。大事な話があるんだ」
モヤモヤした気持ちのままその場を後にする。去り際に冷たい視線をいくつも感じて居心地が悪い。けれど前を歩くルルカの背中を見て気持ちを引き締めることにした。
「こんなところにおられましたか」
お婆さんの家に行く道中、妙なお爺さんが前に立ち塞がった。後ろに兵士の様な人が二人、こちらを睨んでいる。護衛か?
「村長さん……」
村長だって?
ま、まぁ確かに紳士っぽい立ち振る舞いで偉い人だってのは分かるけども。おおよそこの村には似つかわしくない格好だ。
「広場で騒ぎがあるとお聞きしましてね。こうして来たわけなのですが。……聞く所によるとどうやらあなたと例のご令嬢が関係しているそうで」
「……はい、その通りです。申し訳ありません」
「困りますねぇ。ご令嬢の方はお戯れが過ぎたということに出来ますが、あなたはそうはいかない。あなたのお父上がこの世界にどれだけの厄災を招いたのかご存知でしょう? これ以上騒ぎの種を広めないで頂きたい」
「……」
「今日の所はこの辺にしておきましょう。ですが次、何か起こすようなら村の出入りを禁止します」
「!!」
「くれぐれもご自分の『立場』というものをお忘れなきように。では」
「……」
村長が横を通り過ぎていく。すれ違う瞬間こちらを見た気がした。くそっ、気分悪い。
「うっ、うっ」
! ルルカ? 泣いているのか?
ルルカは目を擦りながらゆっくりと前を歩いて行く。その足はおぼつかない。
……
怒りが沸いてくる。
身体中に血液が流れ込んでくるみたいだ。
今までこれ程の怒りを感じたことはない。
よくも……よくもルルカを泣かせたな。
あの爺! 絶対に許さん!
パリンッ!
!?
なんだ今の音?
ん? あれ? これってまさか……
手が……動く! 足も! 首も!
やった……やった! 自由だ!
ルルカ! ルルカ! 見てくれ!
動いた! 動いたんだよ! ルルカ!
ザアアアア
突然、雨が降って来た。それも大雨。
喜びが瞬時に消え失せた。
ルルカの悲しみがそのまま降って来たような気がして。
……
どうすればいい?
走って村長を一発殴りに行くか?
いや、顔を見られている。
ルルカのゴーレムだということがすぐに分かる。
そうなったらルルカは……
「ミル? ミル? どこ?」
ルルカの声が聞こえる。
そうだ、ゴーレムは主人を守るために存在するんだ。多分。
それなら離れちゃいけない。
守るんだ。今度は自分の意思で。
「もう勝手にどっか行っちゃダメじゃんか。風邪引いちゃうよ。早く行こ」
大雨の中を二人で走る。
走る感覚にまだ慣れてない。
ルルカに追いつくために三回程すっ転んだのは内緒の話だ。