試験前のひととき
エミットはお菓子を食べながら、部屋の中を見渡した。
何か結界が張られているのであろう、外からの音は全く聞こえず、よくよく注意して観察すると、太陽からの日が差し込むはずのガラスの壁からは、太陽の光は差し込んできていない。
部屋自体が明るいから気付かなかったけどど不思議だな...目の前に太陽があるのに影がないや。みたいなことを考えているうちについうとうとしてしまい、気がつけば30分ほどが経っていた。
トントン...
不意に、扉をたたく音がしたかと思うと、ガチャリと扉が開かれ全身に甲冑をまとった兵が中に部屋に入ってきた。
「よぉ、エミット君だよね?」
口調から察するに、先ほど案内してくれた兵だろう。しかし、案内してくれた時とは違い、背中に剣を背負い防具も固めている。完全武装しているといっていいだろう。
「は...はい。」
僕は戸惑いつつも返事を返した。
「いや、案内の時といいよく会うね~。さて、これから見極めを行うわけだけど、いくつか注意してほしいことがあるんだ。一つ目は、この試験の内容は口外禁止。っていっても、12歳を越している人同士ならいいんだけど、まだ試験を受けてない人には絶対に教えてはいけないよ。」
言われてみれば、お父さんやお母さん、先に誕生日を迎えた友人からも試験の内容を教えてもらったことがないな...エミットはそう思った。
「それから、もう一つ。今のお前は、実体じゃないってことだけを理解してくれ。」
「へ?」
エミットは全く訳が分かっていないようだ。
「んーとな、お前ちょっと後ろ見てみな。」
そういわれて後ろに振り向いてみた。すると、今まで座っていたソファーにエミッタがもう一人すやすやと寝ていた。当然その状況を見たエミッタは理解できずに混乱している。
「まあ、そんな焦らなくていいよ~。幽体離脱してるようなもんだよ。正確に言うと、君の体をコピーして実体化させてるんだけどね。」
「あの...もしかしてマルチブラインド...何とかってやつですか?」
エミットはボソッと聞いた。
「え?あ...あぁ、マルチブラインドっていう魔法だけど...よく知ってたね。」
兵士は、感心しているようだった。
「え...えぇ。父から少し聞いたことがあって...」
エミットは褒められてまんざらでもない様子だ。
「さてと、まあ時間だし行こうか。」
そういって兵士は扉のノブに手をかけた。
「あ、そうだ。俺の名前はサブ、今日一日の護衛と案内を担当させてもらうよ~。よろしくっ!」
「よろしくおねがいしま...す...護衛?」
「あぁ、試験を受ければわかるよ。」
ガチャッと、サブがドアを開いた。
「...あれ?」
その先にあったのは、入ってきた時に見た城の内部ではなく、どこかもわからないような広間だった。
「この部屋はな、ワープ装置の亜種みたいなもんだ。お前がお菓子を食べている間にちょいと試験室まで飛ばさせてもらったよ。」
「は...はぁ。」
「さて、模擬剣は持ってきたかい?」
サブは聞いた。
「はい。」
エミットはそういって、模擬短剣を取り出した。
「ほう、短剣か。魔法石はあるか?」
「ここに。」
エミットは袖をまくって、腕につけている腕輪を見せた。
「ふむ、万能型か。最低等級とはいえ、子供なら十分かな。」
そういうと、サブはエミットから離れて言った。
「それでは、12歳の誕生日を迎えるもの、エミット。今から、見極めを始める。試験内容は簡単だ。今から俺の指示道理に魔法などを実行する。その後、召喚されたモンスターを何体か倒す。それだけだ。準備はいいな?」
エミットは、てっきりペーパーテストのようなもので実技だとは思っていなかったので少し焦ったが、深呼吸を一回すると
「わかりました。お願いします!」
と大声で返した。
(ふむ、マインド系の魔法で落ち着いたのか。よく応用できてるな)
サブは、少し感心した。
エミットは、落ち着いて頭の中で先生から授業で習ったことを思い返していた...。