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12歳の誕生日

 朝日が昇り始めた城下町にいつもの賑わいが訪れ始める。人と人とが交わりあう音は、高くそびえる城の頂上まで響き渡り、町の中で反響する。そして城を囲むように作られた城下町には、それぞれの思うがままに生活を送る人々で満ち溢れていた。

そんな城下町の東地区のとある家の中でのことである。


「ねえ、お母さん。昨日の晩に聞かせてくれた話って何?」

まだ幼さの残る少年が母に聞く。

「ふふふっ、あのお話はねぇ、この国に伝わる神話のようなものよ。この世界の運命を塗り替えてまで救ったといわれている勇者のお話なの。」

テーブルにパンを運びながら母は答えた。

「へぇ~」

少年は、口に朝ご飯のオルズチーズ(牛乳と小麦粉のようなものを混ぜ合わせて作るチーズ)を口に運ぶので必死のようだ。

「まあ、お前も今日で12歳だ。これまでは、魔法と勉強を頑張ってきたが、ついにその成果が試される日が来たな。」

少年の父は、ニヤニヤしながらパンにチーズを挟んで食べる。

「でもさ、なんで魔法に勉強なんか必要あるのさ?絶対に関係ないよ。」

父の食べ方を見た少年が、真似をしてチーズをパンに挟む。

「そうでもないんだぞ。案外、勉強してきたことが大切になることもある。」

まあ、あんまり関係ないけどな、アッハッハッハ....と父が残ったチーズとパンを口に放り込んで、牛乳で流し込んだ。

平凡な日常の朝の風景である。


このオルティード王国には、12歳に魔法の潜在能力を調べる「見極め」と呼ばれる行事があり、

毎日12歳の誕生日を迎えるものが、城に赴き、試験を受ける。そして、どのような魔法が使いこなせそうかにより、今後受ける訓練も変わってくる。実際には魔法だけではなく、打撃術、空間操作術などの、身体的能力なども調査され、一生に一度の将来を決める重要な行事となっている。


「まあ、とりあえず行ってくるよ。」

少年は、カバンの中に授業用の模擬短剣と小さな万能魔法石の埋め込まれた腕輪を入れて玄関を飛び出した。

「緊張するんじゃないぞ~エミット~」

彼の父が扉から大声で手を振って見送った。

「やだ、やめなさいよ。恥ずかしい。」

そういって母は周りの住民からの視線の的となっている父を、家の中に引きずり込んだ。


タッタッタッ、と坂道をかけていく。自分を追いかけるかのように吹いてくる風が心地いい。

「お、エミット~」ふと、エミットに話しかける人がいた。

「お、ルー!」ちょっと小柄な青年は、エミットに向かって手を振った。

「あれ?学校は?」

「今日は見極めだよ~」のほほんとエミットは答えた。

「ああ、お前誕生日か。頑張るんだぞ!」

じゃあな~、と言ってルーはエミットの家のある方向に走っていった。

「あいつまた学校サボってるのか...全く...」

心の声がつい声に出てしまう。しかしそんな一方で、

(時間は...まだまだあるけど、急ごうっ)

少年の心は、ひそかに踊っているのであった。


オルティード城につくと、門の前にいる兵士がツカツカと近づいてきた。

「君は...えっと...どれだ...??」

そういって、兵士はポケットからくしゃくしゃになった紙束を取り出し、パラパラとめくり出した。

「おい、3だ3っ。通り過ぎてるだろ。」

隣にいた、少し大柄な兵長さんが後ろから覗きながら言う。

「お、あったあった。エミット君かな?」

優しく話しかけられてホッとしたエミットは、元気に返事をした。

「はい!」

「うん、いい返事だ。こっちだ。ついてきな。」兵士は、城の中へと入っていった。

エミットも後ろからコソコソとついていく。


城の中は、広々とした空間が広がり、所々に魔法石らしきものが装飾に埋め込まれているのが分かる。また、いたるところに見たこともないような装置があったり、よくわからない生き物が飾られていたりと、いつ来ても不思議な感じのする場所だ。

「さてと、こっちかな?いや、えっと...」

兵士は、二つの扉の前に来ると首を傾げた。

「ん...と、1,2,3,4、....あこっちだな」

奥の扉から順に数を数えたかと思うと、大きくうなずいて青っぽい扉に向かう。

「さてとね、この部屋の中でしばらく待っておいておくれ。」

そういって、兵士が扉を開く。兵士の後ろに隠れてこそこそしていたエミットは、兵士の後ろから顔を出して部屋の中をのぞいた。

部屋の中には、継ぎ目のないガラスで作られた窓が壁一面に貼られ、城下町を見渡すことができた。そして、ふかふかのソファーと焼杢石(透明な杢軟石という石を1000度以上の熱で焼いてできる、黒光りする高級な石)でできたテーブル、その上にはかごが乗っており、国内外のよく見る有名な高級菓子が置いてあった。

「そこにあるの食べていいからな。順番に呼ばれるだろうし、しばらく待っておいてくれ。」

そう兵士はいうと、エミットに部屋の中に入るよう手招きした。エミットはあたりをキョロキョロ見渡しながら部屋の中に入っていく。

「じゃ、俺は失礼するぞ~」

兵士はそう言い、部屋を出て扉を閉めた。

エミットは何をしたらいいかわからずその場に突っ立っていると、ガチャッと扉が開き、

「あそうそう、そんなに緊張しなくていいからな!気楽に受けるんだぞ!」

と、兵士が言いに戻ってきてくれた。

エミットは兵士を見つめると、緊張が解けたかのように笑顔で「はいっ」と答えた。

「よし、じゃあ待っといてくれよ。」

そういって今度こそ兵士は部屋から立ち去った。

エミットはとりあえずソファーに座り、テーブルに置かれたお菓子をチビチビと食べだした。


その部屋の外でのことである。

「まったく、お前はほんとにバカだな。今日来る人の顔くらい覚えとけよ...」

「まあ仕方ない仕方ない、忘れることはあるもんさっ」

エミットを案内した兵士と、門番をしていた兵長が話していた。

「しっかしあいつ、エミットだったっけな。緊張してたから、ちょっと元気にしてやろうと精神系の魔術を使ったんだがな」

「ん?どうかしたのか?また変な魔術を編み出したとかじゃないだろうな?」

「魔力抵抗がすごかった気がするよ。」

「どのくらいだ?」

「んーとな、直感ではあるけどBくらいはあったかもしれないな。」

「はぁ?12歳だろ?Cあったらましなレベルじゃねえか。ありえねえよ。」

「んーどうだろうね」

「お前の魔法のかけ方が悪いだけだよ。まちがいねえ」

「ちょっと、おれ精神系の魔法は上手いほうですよ?」

「そりゃどうかな?」

ハッハッハッ.....

二人の兵士の笑い声が、反響する。もちろんエミットの部屋に届くことはなかった。

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