並行世界
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小窓から外を覗くと、見慣れた都内の風景はなく辺り一面に廃墟が広がっていた。
ビルなどの大きな建物は途中でぽきりと折れており、道路はヒビや穴だらけ。低い建物に至ってはほぼ崩れ去ってしまっている。そこらじゅうに雑草が生い茂り、物という物に蔦が巻きついていた。
当然周囲に人影はない。その代わりに、空に何かが飛んでいるのが見えた。まるで夕暮れ時のコウモリのように群れをなして飛んでいる。
目を凝らして何が空を飛んでいるのかを確認しようとしていると、沙織が望遠鏡を差し出した。
例えるならば、羽根の生えた猿。
羽根まで含めて全身真っ黒の毛で覆われており、距離があるので正確には分からないが、大きさは普通の猿と同じ程度だろう。金切り声を上げ、鋭く尖った牙を見せつけながら敵意むき出しでこちらへ向かって飛んでくる。あの赤いのが目玉だとすると目が3つあるのだろうか…。
「何だあれ…?」
「あれが魔物だよ。私達が倒さなくちゃいけない物。てっちゃん、右側任せてもいい?」
「りょーかい。おじさんに任せなさい」
それだけ言うと沙織は俺の隣の、鐵さんは反対側の機銃に手をかけた。
***
そこからは一瞬だった。
近づいてきていたとはいえまだかなりの距離があったのだが、沙織は正確にあの気味の悪い猿を撃ち落とし、5分も経たないうちすべて始末してしまった。
沙織が終わった時には既に鐵さんは椅子に腰掛けてくつろいでいた。
「ふー…。あ、おにいさんどーだった?」
機銃から手を離した沙織が問い掛けてくる。
そこに先ほどの真剣な眼差しはなく、最初に出会った時の穏やかなものに戻っていた。
「どうだったって言われても…。気持ち悪かった」
「あれ?思ったより冷静だね。怖くなかった?」
「まあな」
別に強がったわけではなく、本当に恐怖というものを感じなかった。
当然といえば当然か。ああいう化け物を恐れるのは自分に危害を加えてくる可能性があるからである。死ぬことを望んでいる俺には恐怖を感じる理由がない。
***
「それじゃあさっきの続きを説明するね」
沙織が椅子に腰掛け、どうぞどうぞと俺を招く。俺が隣に腰掛けると、沙織の説明が始まった。
「見てもらった通り、私達はさっきのような魔物と呼ばれる物と戦ってるの。
さっきのは下級の魔物だから全然大丈夫なんだけど、上級の魔物になってくると死傷者も出てしまう。
そこで、こっちの戦力が不足した時におにいさんみたいな自ら命を絶とうとしてる人を連れてきて、一緒に戦ってもらってるんだ。
普通の人を連れて来ることも出来なくはないんだけど、やっぱり申し訳ないからね」
今度は向かい側から鐵さんが話し始めた。
「ちなみに俺と沙織も自殺しようとしてるところをこっち側に連れてこられた。っていうか今こっち側に生きてる人間は全員そうだ。
元は兄ちゃんと同じ世界に生きてた人間」
「同じ世界ってことは、今俺達がいるここは前とは違う世界なんですか?」
「今俺達の列車が走ってるここは、今は完全な廃墟だが昔はもう少し原型を留めてたらしくてな。 その時の様子を知ってる奴らの話によると、ここは東京らしい。つまりここは並行世界だって事になる」
「魔物とやらの正体は?」
その質問には沙織が答えた。
「それは私達にも分からないの。実は、昔はこっち世界にもともと住んでる人達がいたらしくて、その人達の中にはは魔物の正体を知ってる人もいたらしいんだけど…」
「その人達は一体どこに?」
「50年前、魔物の同時進行があったらしいの。その時に全員亡くなったみたい…。
それ以前にも何度か同時進行はあったらしいんだけど、今と同じように私達の世界から人を連れてきて戦って、何とか踏ん張ってたんだって。
50年前の同時進行の時には既に東京しか制圧出来てる地域が無かったから生存者のほとんどが一気にやられちゃったんだよ…。
この時からだね、こっちの世界で生きてる人間が、私達の世界から来た人間だけになっちゃったのは…」
沙織はとても悲しそうに話した。見てるこっちが辛くなるほどに。
「でも人間ってすごいね。僅かに残った人達で地下シェルター逃げ込んで、そこから地下を開発していったの。
東京しか領土が無かったから国中の資源を全部貯蔵してる場所があったんだけど、そこが無事だったから資源には困らなかったんだって。
今はみんなそこで暮らしてるんだ」
「なるほど…。ダメもとで聞くけど外国との連携は…?」
沙織は案の定、首を横に振る。
「まだ東京の地上が無事だった時でさえ、外国のどの国とも連絡が取れなかったんだって。地下からなんて絶望的。
海にも魔物がいるから海を渡って来たっていう人もいなかったみたい。
そもそも今も稼働してる地上での移動手段といえば、地下から持ってくる車かこの並行世界へ行ける列車、黒之助しかないんだよ。
ちなみに黒之助は、こっちの世界の人が作った物だから私達には作れない。最後の同時進行の時に唯一無事だった並行世界への移動手段だよ」
***
それからも色々なことを聞いた。
地下で暮らしている人口は10万人程で、街の様子は昔の東京と変わらず栄えているらしい。
人口太陽やエネルギー源の開発により、地下だけでも十分に生活出来ているらしい。
魔物という脅威に晒されたからなのか、色々な技術レベルが俺の世界とは大きく異なっているようだ。
それから、この世界には2種類の人間がいること。
もともとは全員戦うために連れてこられた者達だが、常に死と直面して戦っているうちに死を恐れ戦いを拒む者も大勢出てきたそうだ。
そういう者達が技術面や資源面などで街を運営しているらしい。
一方、戦い続けることを選んだ者達は魔物の討伐隊を結成し、連携して魔物との戦いを繰り広げているらしい。その数1万人。
10万人いるにも関わらず死を恐れない者がたったそれだけとは…。
本当に元自殺志願者なのかこの世界の人間は…。
***
「あ、そろそろ着くよ!」
説明が一区切りついた所で、沙織が嬉しそうに言った。
あれ?でも確か街って地下にあるんだよな。
これ地下鉄じゃないんだけど、どこの駅に停まるんだ?
「兄ちゃん、どっか掴まっといた方がいいぞー」
「鐵さん、それってどういう…」
そこまで言ったところで椅子が横に大きく傾いた。正確には、列車全体が傾いている。
咄嗟のことでどこも掴むことの出来てなかった俺の体は当然傾き始める。
「ほぶっ!!」
傾いた先に何やら柔らかい物があった。
今俺はそこに頭を埋めている状態だ。
何これあったかい柔らかい気持ちいい…。
特に意識して見てなかったけど、沙織って結構胸あったんだな…。
喜ばしい新発見を噛み締めていると、列車が元の水平な状態に戻った。どうやら地下についたらしい。そのせいで俺の頭も天国から離れてしまった。せめてもう少し埋もれていたかった…。
すると視界にに顔を真っ赤にして目に涙を浮かべた沙織の顔が入ってきた。
あ、怒ってる顔もかわ…
「おにいさんのえっち!!」
バチンという大きな音が響き渡り、その後に鐵さんの笑い声が聞こえ始める。
それと同時に列車が停止した。
「もうっ!!ほら着いたよ!!私先に行くからね!」
そう言って沙織は先に扉から出ていってしまった。
「あーあ、ありゃー機嫌直るまで苦労するぞー?」
そう言って笑っている鐵さんはすごく楽しそうだ。
後でちゃんと謝ろう…。
***
こうして俺は、初めて並行世界の街へ足を踏み入れた。
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