全ての始まり
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まだまだ小説について勉強ですので、読みづらい点も多いかと思いますが楽しんで頂けたら幸いです。
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列車内は鉄の匂いで満ちており、分厚い装甲のせいか、圧迫感がすごかった。外見と同じく辺り一面真っ黒。小さな小窓がいくつか空いている以外は外と完全に隔離されているようだ。きっと刑務所の中とかこんな感じなのだろう。いや、俺は良い子だったから刑務所とか入った事ないけどね?研究所の実験室の圧迫感にも似ている。
っていうか、そんな事どうでも良いんですけどこの人いつになったら手離してくれるんですかね。もともと人見知りという訳ではなかったのだがここ最近まともに人と出会う事すらなかった俺にとっては、見知らぬ美少女と手を繋ぐというのはハードルが高すぎた。もう手汗びっしょりだ。だが彼女はそんなのお構いなしにどんどん俺の手を引いて列車の中を進んでゆく。
「あの…。これどこまで行くの?」
「ん…?ああ、もうちょっとで着くからねー」
彼女のその言葉通り、次の車両に移った所でぱっと手を離された。
「着いたよ!!ここが黒之助の先端、操縦室です!」
目の前の彼女は腰に手を当て、しかし今度は怒っているわけではなく少し体をそらしてふふん、と得意気なポーズをしている。なんかいちいち感情表現豊かだなこの子…。可愛いからいいけど。これブスがやったらバッシングの嵐だよ絶対。
周囲を見渡すと前方に操縦席には人が座っており、左右には見慣れた長椅子と小さな小窓がいくつかついていた。こんな見た目してるくせに椅子は普通の電車と同じなのかよ…。
そこまで考えてから、ふとさっきの彼女の発言の中に1つだけ意味の理解出来ない単語があったことに気づいた。
「えっと、黒之助って何のこと?」
「それはねー、この列車の名前です!」
「だっせえだろー。やっぱ変えた方がいいよな、名前」
またもや得意気に答えた彼女の背後から1人の男性が顔を出していた。代わりに操縦席が空になっている。あ、オート操縦なのね。
歳は30後半程度だろうか。短めの黒髪をオールバック。目は細めで、鼻はふっくらしており、若干のあごひげが生えている。かっこいい中年おじさん、という感じだ。服装は彼女とは違い長袖のシャツにジーパンを履いている。唯一の共通点はあの深緑色のマントを着けていることだろう。何そのコスプレ流行ってんの?
「もうてっちゃん、まだ文句言ってるの?多数決でちゃんと決めたじゃん!」
「多数決って言ってもなぁ…。隊長はお子様脳だし、もう1人はその隊長の信者じゃねえか。隊長が決めた方に4票中2票入るっておかしいだろ!俺は平等な審査を所望する!」
「うーん、そんな事言ってもねぇ…。つかさくんは姫ちゃんの事大好きだからしょーがないよ」
さっきから俺の目の前で全く内容の分からない会話が繰り広げられているんだが…。場違い感がすごいし、俺もう帰っていいですかね??
その嫌そうな感じが顔に出ていたのだろうか。
「おい沙織、そこのにーちゃんが不服そうな顔で見てんぞ。ちゃんと一から教えてやれよ」
「あ、ごめんね?そーだよね。ちゃんと一から説明しないと」
やっとこちらに注意が向いた所で、取り敢えず一番気になっている事を訪ねた。
「この列車って一体どこに向かってるんだ?」
「まずはみんなをしょーかいするね!」
あれ?この子もしかしてわざとやってんの?それとも聞き取れない程俺の声が小さかったのかな…。
そんなことはなく、隣のおじさんにはちゃんと俺の声が聞こえていたようで、
「悪いな、沙織はマイペースなんだ。こいつの好きなように説明させてやってくれ」
そっか、確かにマイペースなら仕方ないよね!個人的にはマイペースという言葉で覆える範囲超えてると思うけど今は気にしないことにしよう。
「この私の隣にいるおじさんが杉浦 鐵。てっちゃんね。あとこの列車には姫ちゃんとつかさくんが居るんだけど…。それはまたおにいさんが会った時にしょーかいするね」
「おい沙織、お前自己紹介はもうしてんのか?」
「あ、忘れてた!こほん、それじゃあ自己紹介します!」
わざとらしい咳払いの後に、一番気になっていた彼女の情報がやっと公開された。
「槍本 沙織 19歳です!好きな食べ物は甘い物です!よろしくね!」
今どき小学生でももう少しまともな自己紹介出来るんじゃないだろうか。名前年齢以外の唯一の情報が好きな食べ物、その上それが甘い物って具体的なこと何もわからねえよ…。可愛いからいいけど。
「おにいさんの名前も教えてほしいな」
そういえば、俺もまだ何も話していなかったか。お母さんに、知らない人には自分のこと話しちゃいけませんって育てられたんだけどな。まあ今はもうどーでもいいか。
「磯貝 仁 21歳…です」
隣におじさんがいるので一応敬語にしておいた。
年功序列制度には忠実な俺なのだ。
「よろしくね!そっか…。じゃあこれからおにいさんの事は'イソジン'って呼ぶね!」
「いや、うがいしたくなっちゃうような名前は止めてくれよ…」
沙織はきょとんとした顔で不思議そうに首をかしげている。隣でおじさん、鐵さんが腹を抱えて笑っている。
「ハハ…。あー腹痛え…。沙織はな、メンバー全員に勝手にあだ名をつけるんだよ。俺も正直てっちゃんなんて呼ばれる柄じゃないんだけどな。司とかお前のを聞いてたら自分のがめちゃくちゃ心地よく感じるぜ。フフ…」
言い終えてからまた笑い始めた。
名前が2文字で呼びやすいこともあってか、今まであだ名というものを付けられたことがなかった。つまり人生で始めてつけてもらったあだ名なのだが、まったくもって嬉しくない。むしろちょっと悪口入ってるよねこれ。
「ええー、ダメなの?つかさくんの時も嫌だって言われたし…。最近感が鈍ってるのかなー?」
「その司って人にはなんてあだ名つけたんだ?」
「'つかっさー'だよ!」
いやドヤ顔でそんな事言われても…。もはやあだ名ですらないよねそれ。トリッピーみたいな響きにしただけじゃん。しまじろう懐かしいなぁ。
鐵さんは相変わらず沙織の隣で笑っている。
ひとしきり笑い終えた後に、彼が助言をくれた。
「でも司は今もつかさくんって呼ばれてるだろ?つまりあだ名で呼ばれないようにする裏技があるんだよ」
「ぜひ教えて下さい。必要なら土下座までならします」
「そんなに嫌なの!?」
沙織が驚いて目に涙を浮かべて訴えているが、今はそんなことに構っていられない。これから死ぬ俺にはプライドも糞もないが、死ぬ直前にイソジンと呼ばれているのはさすがに嫌だ。なんかあのカバにも申し訳ない。
「それはな…、沙織の事もあだ名で呼ぶんだよ。'ヤリサー'って呼んでみ?」
ああ、槍本沙織だからヤリサーね…。確かにイソジン以上に嫌だな。あれイソジンも意外と悪くないんじゃね?
鐵さんは耳打ちしてくれたのだがどうやら沙織にも聞こえていたらしく、
「それだけはやめてー!ごめんなさい、もうイソジンって二度と呼びませんー!」
と、顔を真っ赤にして謝っていた。
イソジンは知らないのにヤリサーの意味は知ってるのか…。とか考えてると鐵さんがまた耳元で笑いながら教えてくれた。
「つかさにそう呼ばれた時に意味も一緒に教えられたんだよ」
***
「それじゃあ、遅くなっちゃったけどおにいさんに手伝ってもらう内容を発表します!」
沙織が落ち着いた後にやっと本題が始まった。
ここで「手伝うつもりないんだけど…」とか言ったところでどーせ彼女は気にせず説明を続けるだろう。なので説明は大人しく聞くことにした。聞き終わったら断ろう。
「おにいさんには、私達と一緒に魔物と戦ってもらいます!」
そこまで言った後、沙織は急に真剣な顔つきになり列車の左側の壁を見つめ始めた。
え、それで話終わり?説明とかないの?っていうか何で顔逸らすんだよ、そんなに臭かったかな俺…。確かに風呂入ったの数日前だけどさ。
すると鐵さんが苦笑いしながら口を開く。
「あー、来ちゃったか…。隊長と司は何してんだ?しくじったか?」
「精霊級以上の出現情報は無かったし、2人がやられちゃったってことはないと思う。多分いつもより数が多くて撃ち漏らしちゃったんだよ」
2人とも声色が低くなっていた。鐵さんにはまださっきの面影が感じられるが、沙織に至ってはもはや別人だ。真剣な顔も可愛いなこいつ…。
「説明はここで一旦終わり。おにいさんは見てて。それで色々と理解してもらえると思うから」
そういって彼女は列車の左側にある、顔一つ分の大きさの小窓を指差した。
最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
次回から、仁が巻き込まれていく世界についての詳しい説明が始まります。時間がある時にまとめて投稿させて頂きます。
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