お前なんぞに妹はやらん!
――『アイツ』の背中には大小様々なトゲが生えていた。
真っ黒な身体は全体が甲羅に包まれているかのようにゴツゴツしている。
尻尾まで覆い尽くす鋼の鎧。
かなりの硬度と防御力がありそうだ。
ちなみにアイコンタクトはとれそうにない。
視覚器官がどこについているのか分からないからだ。
つまり『アイツ』がどこを見ているかも分からない。
ゴクリ、と唾を飲み込んだフリをする。
緊張と、言葉では表せない恐怖のために唾など出ない。
『アイツ』は
我々地球人とは解りあえない物体だ。
嫌な汗が頬を伝った。
いや……嘘だ。
頬だけじゃない。
汗で制服のシャツが背中に張りついている。
この上なく気持ち悪い。
血の気が引いて寒気がする。
身動ぎ一つ出来ない。
鼓動だけが速いせいで身体は熱い。
ドライアイスを素手で掴むような冷たくて熱い感じ。
逃げろ、と本能が叫んでいる。
正直言って今までの隠れヒーロー生活でもこんなに戦いたことはないと断言できる――
可愛い妹が初めて出来た彼氏を家に連れてきた。
『優しくて頼りがいのある良いお兄ちゃん』である俺は将来義弟となるかもしれない、その『彼氏』を歓迎するはずだった。
『アイツ』が人の形をしていたなら。
『アイツ』は仮○ライダーとか戦隊ヒーロー物とかの悪役として登場してきそうな不気味な『怪人』だった。
妹はいつもの、ふわわ~ん、とした笑顔で言った。
『お兄ちゃん、私の恋人のタナカ君。かっこいいでしょう♪』
俺は震える声で妹に言った。
「妹よ……お前とアイツは種族が違う……」
俺は兄として、地球人として、どんな反応をとったら良いのだろうか……?
宇宙人との付き合い方などわからない。
だが。
叫ぶ。
俺は勇気を振り絞って叫ぶ!
結果として俺が他の惑星に拉致され、何らかの実験材料にされても……いや。
俺一人の問題ではない。
この惑星が征服されたり、消滅させられたりしたとしても……かまわない。
今、仕事のために海外で暮らしている両親に代わって俺が妹を守るんだ。
「お前なんぞに妹はやらん!!」