13.出没した魔物
これまでのこの周辺地域での生態系に変化はなかったようだ。
ゴブリンの集落がたまに出没する程度でローレンツやここにいる二人が出張って虱潰しに巣を掃討していたので
多少の生き残りがいたところで脅威にはならなかったのだが、突如として今回オーガやニーアゴブリンのような中型の魔物が現れたという
そしてその他のウルフやゴブリンと言った魔物も相当な数がこの村に攻め入ったという話だ。
いつもはローレンツの[探査]の魔法を用いて村の周辺を汲まなく調べ、群れなどが移動していれば逸れた者だけを仕留め、巣を作れば潰し[定期的な掃除]をこの三人によって行われていたらしいのだが…。
「ローレンツさんの探査の魔法に引っかかることもないだけじゃなく、これだけ大量の魔物が兆候を見せずに現れるなんて前代未聞よ、何かがおかしいの」
タイミングからして俺がこちらの世界に渡ってすぐのことのようで、何だか知らないところでとんでもないような事をしてしまったのか、
よくわからない罪の意識に苛まれることになった。といっても関連性の証明など誰にも出来やしない訳なのだけれど…。
自分がこの世界に転送された影響で魔物が現れたのか他の何かが原因なのか、
発生のメカニズムまで戦いながら考えることは困難だったのでまずは目の前の魔物を掃討することに集中した。
掃討って言っても俺が直接手を下すわけじゃない。俺カスだもん、武術も使えないし、魔法もほぼ使えないし、使っても効果ないし何かしんねえけど頼りにしてた創生魔法とかいうのも全然当てになんねぇし、身体能力は普通だしスタミナだけ上がってんのかなぁ。よく分かんねぇ。
オーガを倒せたのもたまたま目が聞かなくて相打ち覚悟の特攻決め込んで、運よく柔らかい場所に刺さっただけ、それ以外はチクチクやってただけで格好悪ぃったらねぇよな。
「おーい、みんなぁ!とりあえず今のところ動いてる魔物はいないみたいだぞー、村の消火活動に加わってくれー!それと魔物の取りこぼしがないか確認する役もほしい!」
アレクがそう叫ぶと、恐る恐ると言った様子で建物から一人、また一人と村人が出てくる。
全員の確認が行われ非難し損なった住民以外に総勢74名がこの避難所に集まっていたようで、なかなかの人数が生き残っていた。
153名ほどの集落で犠牲者や行方不明者は村に生きる者の半数を超えていた。子供や親しい者を亡くした直後で陰鬱とした雰囲気に包まれていたが、
アレクが一声し、なんとか火を消すために10名ほどの動ける集団と魔物の生き残りを確実に仕留めるために7名ほどを組織し火元に回っていったがその人数は心許ない。
防衛に必要だった自警団の男手は最初の襲撃によって三分の二が先に魔物の討伐へ向かい行方不明中のようだ。
予備戦力として残された者たちは初老を迎えた者や幼さを残した青年の姿をしていた。とても自警団とは思えなかった。
実際に動けそうな者たちは先行してはじめに出て行った20数名のみで、後に残っていたのは経験の浅い青年や動きの鈍い初老たちであった。
その中からでも使えそうな人材を選定し引き連れたアレクはなかなかに聡明だと言えよう。
それから暫くの時間が経ち火事も鎮火しかかるまでになっていた、夕方から朝方に掛けて村から森の木々に燃え移った火は大規模な火災に発展したため村人はどうするかとおろおろするだけだが
そこはローレンツが水魔法を用いて滝のような水流を作り出しながら広範囲にわたり鎮火活動を行ったおかげで事なきを得たのだった。
もっとも明け方近くまでかかってしまったわけだが、ここで鎮火活動の全てをローレンツに任せ村人は次の処理にかかっていた。
村中を埋め尽くす魔物と人間の死体処理である。これは初老組みの人間にひとつの功が上がった。
こちらの世界で彼らが若かったころ大きな戦争があったと言うのだ彼らは大規模な戦争経験者でありその下の時代になると途端戦争が終結したたのだと言う
そのため戦争ではたびたび死体を見てきた彼らに任せてしまおうという考えだった。死体の処理は速やかに行わなくてはならなかった。
起き上がりが出るためだと言うのだ、死んだ生き物が一日から二日ほどそのままで放置されるとある種の魔物として蘇るためだ。
ここまでくるともう分かるだろうこの世界では死んだものはしばらくするとアンデットとして蘇り再び人間に脅威を振るう。
それが動物であろうと魔物であってもこの世界では生きとし生けるものにとって平等に訪れる呪いのようなものだ。
大事な誰かを無くすってどういうことだろうな、きっとお袋や親父弟に妹それにばぁちゃん、爺さんはもう死んでるから分かんねぇや。
親を亡くした子供ってこれからどうやって生活して行きゃいいんだって不安はあるだろうな。
子供を無くした親ってのはどんな気持ちなんだろうな、親じゃねぇから分かんねぇや。
でもやっぱ隣に居る人を無くすっていうのは…つらいんだろうな
…さっきまでちらついてた家族の顔を再び思い…出せねぇ。なんで??どうなってんだこりゃあ?
何も…出てこねぇ、嘘だろ?
俺は…俺は…分からない。