12.合流
網膜に投影された地点を目指し、移動していると派手に魔法を使用する者がいた。ローレンツだ、彼は前に出て多数の魔物を殲滅していた。
その後ろには2本の剣を構え数匹の魔物を相手取りながらも、素早い動作で次々に狼型の魔物を殲滅する青年と体術を駆使し目の前の魔物と対峙し、後ろにある建物を守ろうとする男女や村の駐屯兵が目に入る。
やはりこれから師事するであろう人物の力を目の当たりにして不謹慎であったが、自然と口角が上がる。
「ローレンツさん!僕も協力させて下さい!」
「クロセくん?その腕は…大丈夫なのか?」
声を張り彼に俺の存在を示すと、他にいた魔物や人間の視線が一斉に向かって来るのを感じる。
現に数匹のオーガやゴブリン、ウルフがこちらに向かって襲い掛かってきていた。
「うおうおうお、たしけてーーー」
もうほんと格好いいとかそんなことよりも生き残るのが大事だと思うわけで三人が守る避難所の前までダッシュなのよ、そんなわけなのよ。
三人の真ん前に届くかと思われた、その時ニーナから信じられない言葉が黒瀬の下に飛び込んだ。
「クロセさんもう少しひきつけて!!」
「わぁかったよ!走るのは得意なのよ!!俺!」
腕は痛ぇし体中だりぃしピンチだし来なきゃよかった!!ちくしょおぉ!!
ちくしょおぉくそくそくそ!!、あっでもニーナちゃん可愛い
先ほどまで、ローレンツに対峙していた魔物達はすでに炭化した肉の塊になり焦げ、血の臭いを発していた。
「安静にしている様に言っただろう!村に関係の無い君が何故ここまでしてくれるんだ?」
「命を救われた、それだけで命を掛ける価値はありますよっと」
オーガ、ゴブリン、狼の魔獣etcの攻撃を躱しいなしながらも答える。
恰好が付かないなぁ、槍が長くて振り上げて下げる動作や横にいなす動作がまるでできてない
短く持ってチクチクと敵がいやがることくらいしかできない。
「早く、その腕も治療しないと、ね!」
話しながらでも魔法は使えるようだ。普通は詠唱などがあるハズだと思うのだが、俺の思い描くファンタジーの世界と少し違うのだろうか。無詠唱が当たり前なのか、彼のみが可能な技術なのかどうか分からないが、魔法の威力はものすごい勢いで魔物達をBBQよろしくしていた。
「今戦える味方が増えた事は喜ばしい事だ、アレクもニーナも疲弊しているし、村に広がる炎をどうにかしないと村が壊滅的なダメージを受けてしまう。消火活動をしながらだと撃ち漏らした敵が出てしまうのでどうしたものかと思っていたんだが、後ろの2人を君に任せたいんだけど、大丈夫かな?」
「出来なければ、村人やあの二人も危ない。魔物達を倒しても村が燃えれば意味はない建物を消火しても住む人が居なけりゃ本末転倒だ。何とか踏ん張ってみますよ」
くそう、結局目立って囮になれってことかよ、ひでぇ人だぜ全く。
この言葉で、先ほどのまでローレンツが引き受けていた圧力は俺の方のへと流れるようになっていく。ローレンツも敵を倒してはいるが、先ほどまでとは違い、最低限の防衛に徹し、家屋の消火にあたるようにしていた。
ローレンツの動向に注目しながら魔物と交戦していると青年から声が掛かる。
「よ!俺はアレク、どうやら先生と知り合いみたいだけど、助太刀してくれるってことで良いんだよな〜?」
「概ね合ってるっ、よ!助太刀ってほどの腕じゃフン!ないけどな!!黒瀬だ、宜しく!!」
戦いに集中しておかないと、先程の様に手首ごと持って行かれる様な失態はもうごめんだった。
「ヒュ〜、やるなぁ、クロセか宜しくな!」
口笛が吹けないのか口で音を再現するアレクという男は何だかお調子者という感じだ。
もう1人の恩人もこちらに気が付いた様だ。
「クロセさん??ローレンツさんのところで居たんじゃないの?ちゃんと寝てないとダメじゃない」
「ローレンツさんの家にも魔物が来てね、目覚めは最悪だったよ、とりあえず君とローレンツさんに恩を返せそうで何よりだ」
話しながらでも2人はちゃんと魔物と交戦している、自分はうっかり手首を持って行かれる失態を犯してしまうほど慣れていないが、この2人はローレンツさんに何か習っているのだろうか?事が片付いた後聴いてみようと考えていると、アレクが声をかけてくる。
「さっき怪我がどうこうって…その手どうしたんだよ?」
「ちょっと油断したな」
ニーナはこちらを一瞥して何か言おうとしたが黙ってしまう、それに合わせてアレクが話しかける。
「油断したって、あまり無理すんなよ?」
「そりゃお互い様だろ、たったの3人で村一つ守る方が無理だろ?まぁ1人で逃げたって野垂れ死にする未来は目に見えてる、同じ死ぬなら恩人助ける方がよっぽど良いぜ!」
「先生のことか?」
「それもあるけど」
目線をニーナの方に向ける。
「ニーナさんとローレンツさん、命の恩人が2人も身体張ってるんだぜ?俺だけ寝てる訳にも行かねえよ!」
「あ!なるほど〜、残った理由は先生だけじゃないよな?男だもんな?良いとこみせたいよな?カッコいいねぇ〜愛の成す技かな?おーい、ニーナ愛されてるぜー!」
どうやらこの男相当おふざけが好きな様だ、嫌いな性格では無いが少しウザい。
「ば、ば、バッカじゃ無い!そんなコト位で身体の一部を失うなんて、サッサと逃げても良かったのに、怪我がされる方の身にもなってください!」
巻き起こる炎の所為なのかは分からないがニーナの頬が朱に染まっているように視えた。薄暗いので本当のところは分からない、あまりこういう言葉遊びに慣れていないのかもしれないが怒られる俺としてはとばっちりも良いところだ。
「アレク、茶化すなっての、右も左も分からない記憶もチグハグの俺は正直言えば選択肢が限られてたっていうのもあるんだよ?」
「ふーん記憶喪失って確かに様になってねえけどさ、一番陽動出来てんじゃん?」
「そりゃどうも!それより敵の規模は分かってるのか?」
その問いに対しニーナが答える。
「いえ、何処からとも無く出てきたのよ。私も確認しながら戦っているのだけど、これだけの魔物がこの集落を襲ったという記録はないの、それに周辺に生息する魔物や動物にもそれほど危険な生き物は存在しなかったわ、少なくともこの5年ほどはね」