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ロストアース戦記  作者: 秋島ミツ
異世界
10/15

10.逃げる男

外へ飛び出した俺は先ず周りを見渡した。


普通に窓を開けて静かに出れば良いものをわざわざ音を立てて逃げたモーリスにひどい苛立ちを感じていたがその気持ちも直ぐに消える


苛立ちよりも感情に抑制が掛かっているような気がして、そちらの方が疑問に感じて、気になっていた。


焦りを感じたり怒りを感じたりするがここまで立ち直りが早いのも今までの人生であまり体験がしたことのない事象だった。


ケイオスリングの恩恵は人間にとっての感情をじわじわと奪い去っているのではないだろうか…。自分の腕にある刺青にも似た紋章を見てそう考えていた。


近くで声がする、この声は先ほど俺をおいて逃げたモーリスの声だろう。



「うわーーー!!来るな!!来るなぁ!!あっちいけ!!」



せっかく真っ先に逃げたのにもう見つかったのか、しょうがない奴だ。


<マキナ、この近くで魔物の反応はさっきのやつら以外にあるか?>


≪三体以外の反応はありません、まさかあの者を助ける気ですか?≫


このまま、奴らに見つからずに逃走することは簡単な話だし、幸運と言えるシチュエーションなのかもしれないが、


あいつを囮にしてと言っても自分から墓穴を掘っているのだが、逃げたことが万一バレた時、


ローレンツからの師事を受けることに都合が悪いかもしれないと考えていた。


<俺の利益になりそうだからな、無理そうなら逃げるが…>


≪不完全な同期の状態ですが、あのくらいの数の魔物であれば勝てるでしょう。今お持ちの武器に合った人物の記憶を検索します。剣聖サーぺリオン、起動開始します。

達人並みの動きが出来るのは10分間のみです。同じ達人を連続で使用するには一時間待つ必要があります≫


もっと時間がかかると思っていたがもう記憶を使用中だそうだ。


時間は有限だからな、なるべく速やかに行動に移ろう。


自然と腕に力が入るが動きが鈍らない程度に柔らかく剣を握り、身体を強化魔法で覆い、モーリスに襲い掛かろうとしたニーアゴブリンに向かい駆けていく。


無駄な動きは全くと言って良いほど無い。使える魔法も強化魔法の一種類のみだったが、時間にしてコンマ数秒のタイムラグの後、達人の動きはニーアゴブリンの息の根を簡単に止めてしまった。


この場に居る生き物は俺を含め人間が二人、魔物が二体


二体のオーガと一人の青年にとっては一瞬の出来事で時間が止まったような感覚に襲われるが、俺に気付いたのか目の前の一体が斧を振りかぶり襲い掛かってくる。


数センチ前で斧を避け、避けた斧は地面に突き刺さる。剣を振った瞬間ニーアゴブリンの胴は真っ二つに離れた。


≪強化魔法と一部達人の動きをトレースしてますから≫とマキナから返答があった。


アホみたいに使える能力だな、本格的な魔法は使えないが、かなり強力だ。素人なのに達人って…なんだかとってもチート。うれぴー!!


≪もうすぐ一分が経過します≫


時間制限はあるけど、慌てない慌てない!こんな時は、幼少のころに避難訓練で教わった『おはじき』を思い出すのだ。


怖じ気ず!離れず!喋る暇もなく!KILL YOUよ!!


その場の緊張と興奮でわけのわからない標語を脳裏で刻む、中々のテンパり具合だ。

ニーアゴブリン??オーガの返り血を浴び、こぼれ出る臓物に生理的な嫌悪感が露わになる。


どっかのファンタジーみたいに光になるとか、宝石になるとか、そういったことは無いらしい。魔物は生き物のカテゴリーに入っているようだ。


最後の一体を倒し、剣を見てみるとボロボロに刃こぼれしていた。


≪剣の耐久力を上回った攻撃を繰り返すと少しずつですが壊れていくようです≫


そうマキナに言われ、注意しなければならないことに気付いた時、剣は崩れて消え、疲労感が重くのしかかってくる。これが魔力を消耗する感覚なのか…。


<まだまだ改善の余地はありそうだな>


≪初めての戦闘にしては良い兆候かと…創生魔法はイメージする力が大事ですから、それによっては、より強固な武器の生成も可能です≫


なるほど、俺が武器マニアとかならよかったのだけれど、生憎とそんな趣味は持ち合わせてはいない。


触ったことのあるものは、包丁やバット、鉄パイプなんかの日常でも武器になりそうなものといった類のもので、本当の精巧に作られた刀や銃などの武器に触ったり使用したことはないのだから


耐久性に欠けていても不思議ではなかった。この能力を自由に使えるようになるには現物を触り感触を確かめより強くイメージすることが必要ということか。


<マキナ、村の方角は分かるか?>


≪申し訳ございません、私が起動されるまでずいぶんと時間が経てしまっているようで国などの大まかな場所は分かるのですがこの地域の細かい集落の地図までは存在しません≫


<ではこの近くで人の反応が多くある場所は検索できるか?>


≪少しお時間を…検索にヒットしました。生命反応の消失が連続で起こっている場所と生命反応が多く残る場所が存在します≫


<どっちの方角だ?>


問うと目に光の筋が浮かび導き出された。


≪この地域一帯をスキャンしました。同一の方向に生命反応が多く存在し、その先で戦闘が行われていると思われます≫


なるほど、俺だけで加勢に行ってもさして問題はないが、このヘタレ野郎を置いていくと、もしかしたら俺が村へ行っている間に魔物に襲われ死んでしまうかもしれない。


後から問題になってもあまり芳しくないし、俺のような部外者がいきなり村に入るよりもいた方がいいのは明確だ。それに土地勘のない俺が短時間で村に行くと不自然さが際立つ。


「おい、さっきはよく置いて行ってくれたな」


「え?い、いや、その」


コイツは最低な奴だが、俺をおいて自分だけが逃げたことに少しは罪悪感があるのか、戸惑いを見せる。


「まぁ良い、村まで案内は出来るか?」


「出来るけど…」


「出来るけど、なんだ?さっきまであんなに威勢が良かったじゃないか。戦えなくても行くんだろ?」


モーリスの表情は拒否を示している。


ローレンツと早く合流して助けないとどれだけ達人で魔法が使えるといっても一人だけでは危険に変わりはないだろう。


彼に死なれては困るのだ、まだこの世界の魔法や知識について教わっていない。それに女の子を助けるというシチュエーションもあるのだ。


我ながら打算的だとは思うが、目覚めたばかりのマキナの情報だけではこの先、行動の指針が立たないのだから


「病みあがりの人間を置いて一人で逃げようとするお前のことなどどうでも良いが、あの人とニーナという女性は助けたいんだ、村へはどう行けばいい??」


ここが何処か知らないはずの俺が一人で村にたどり着くことが不自然でもあるので、やはりこいつは連れて行きたい、少し挑発するように問う。


「情けないよ、ここぞという時に決まって逃げ出したくなるんだ、戦いはだめだけど道案内くらいならできると思う」


正直、無理矢理にでも連れて行こうかと考えていたが、あっけ無く事態は収拾する。


「戦えとは言わんが、一つ提案がある、俺におぶされ、移動は俺に任せてさっき言ったみたいに道案内をしろ。その方が村へも早くつける」


「わかったよ」と一言モーリスは言い、背中に体重が掛かる、少し重い、強化魔法の効果は消えているようだ。


<マキナ、強化魔法は意識的に使えるか?>


≪強化したい場所を念じながら魔力を使用してください。こちらもなるべく援護します≫


身体全体に魔力を覆うイメージをすると抱えていた男の重さが気にならなくなった。


更に足に向かって意識を集中するとぼんやりと光りだす。


先ほどと同じように走ってみるとものすごいスピードで景色が流れ出した。


「おわぁぁ、何て速さだ!!これなら先生に追い付けそうだ!」


魔法によって強化された脚力により、街道に沿って移動していると辺りは暗くなり始めていたことに気が付いた。


起きてすぐ夕方とかホント間が悪い。


「クロセさん、暗くなってきた!急がないと道が分からなくなる!」


こんな田舎じゃあ明かりなんて期待は出来ないと考えていたがマキナが視覚サポートするので暗闇でも行動は可能だそうだ。


暗視スコープ常備とかすごくアサシン的だ。そう思いながら走っていると家屋などが燃えているのか暗くなった空が赤く光り村の方向を示していた。


「そんな…村が燃えてる」


村の方角を見ながら男は呆けている。


<人間の生命反応はまだあるか?>


≪はいここに来るまでと違い少し減ってはいますがまだ多くが健在のようです≫

減っているというマキナの表現に少し眉をひそめるもそのままローレンツ氏の向かいそうな場所をモーリスに問う。


「落ち着けよ?ローレンツさんが行きそうな場所はわかるか?」


「なんでそんなに落ち着いてられるの!?」


「いいから、深呼吸だ」


「うるさい!村は終わりだ僕たちも、もうじきあいつらに殺されるんだ」


黙ったまま俺は男を殴りつける、傍から見れば頭のおかしなものだがそうも言ってられない。


「いきなりなにするんだよぅ!!」


「さっさと言えよ、お前がもたもたしている間にローレンツさん達が危険にさらされているかもしれないだろ、あの人が信じられないのか??」


と言っても出会ったばかりの俺にとって彼は利用価値がありそうというだけで別段信じてもいないのだが…。


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