1.始まりの出会い
清々しい朝、俺は服装と髪型チェックを終え玄関に向かい外に出る。
肌寒くなってきた季節、シンとした空気の静けさは、この世界が自分のものだと錯覚させてくれた。
特別感を演出する冬の到来に少し嬉しさを覚えながら、駅へのいつもの道を歩く、二年目の冬にはもうこの町にも慣れ地理も少しは覚えてきていた頃だった。
駅が近付き自分だけが支配していた空間は、高校生やサラリーマン、OLによって侵され霧散していく。
静かな喧噪に嫌気が刺すもこの時間に登校しなければならないのも学生にとっては当たり前だった。
小さな音楽プレイヤーをポケットにしまい徐々に大きくなっていく喧噪に身を寄せ今日も改札口を通る。
改札では駅特有の機械音に紛れ、次々と停車する電車に人が吸い込まれていた。
自分もその一人だった。寒さに浸透された空域も、暖かな温度に包まれる。
カタンカタンと一定のリズムを踏む金属の音は良くも悪くも眠気を誘っていた。
「・・・・と・・・こよ」
何だ?白い…部屋?何処だここ?
「・・ひ・・・よ」
ひよ…?何ていってるんだよ?わかんねーっての?
目の前には人間大の何かが自分に向けて話している様子が映し出された。
そして目の前のぼやけた画面がだんだんとクリアになっていく。
とその時目の前の人物が何やら拡声器に似た何かを持ち出し構える。
「人の!!子よ!!ようこそ!!天界へきた!!」
突然の大きな音に耳を塞ぐ。視界は揺れ、キンキンとした感触がじわじわと現れるのには一瞬の間があれば事足りた。
「うっせーんだよ!!いきなり何なんだ!!?静かに話しやがれ、この騒音野郎!!!」
そして切れてしまった。こちとら切れる若者であった。
「そ、そうおん?」
「何だよ?文句あっか?人が気持ち良く寝てるってのに邪魔だ邪魔、このボケ!」
そうさ、どうせ夢の中とかだ。
睡眠を妨げる奴は容赦無く切り捨てるのだ。
「もし、俺の右手がマシンガンならお前なんぞ、今この瞬間に蜂の巣だぜ?」
「用件を済ませたらもう眠ってしまって良いから、その前にこちらに向けている物騒なモノをしまってくれないかい?というか僕にあまりおざなりな態度を取ると後で後悔するコトになるよ?」
何が後悔すると言うのだ。突然、夢の中に出てきて、名も名乗らずに睡眠妨害、まったく常識がなってないのはどちらだろう?
そう考え、間も無く右手がマシンガンになっていた。
…。
そう、右手にマシンガンを?
ちゃうやん、可笑しいやん?
右手がマシンガンに、詳しくは前腕部からそのまま銃が生えていた。
右手を少年に向けたまま、そっと目を瞑る。
タタタタタッ
小刻みに自身の身体が揺れる。ふう。
「ふぐぁ!」
心地よい振動と共に目の前の少年は倒れた。
「殺す気かっ!!?」
何と少年は立ち上がり血を垂らしながら奇声を発した!
「何と少年は立ち上がり奇声を発した!じゃないよ!まったく、思念体と言えど神の間で僕に銃を向けるなんて、挙句ぶっ放すなんて、完全にネジ一本飛んでるね」
「さっきから1人で倒れたり、ご丁寧に血糊まで用意して、どこの役者さんなんだ?ていうかお前どこの誰なんだよ?」
そう言うと少年は得意気に答える。
「ワタシは神だ☆」
俺は前腕部から生えたマシンガンを小銃に変更し構えた。
ほーら、やっぱり夢じゃん。腕がコロコロ変わるワケねー。
パーンパーンボンバー☆
「ホゲっ!」
構えた瞬間なぜか弾が出る。
「撃ってるじゃないか!!」
プンスカと怒りを現わにする自称神の少年はなんだか滑稽に映った。
「だからさぁ、滑稽だとか何とかは、君がさせてるんだろう?」
「なんだ?思考が読まれてる?」
なんだ?思考が読まれてる?
「そんなの分かるよ。下等な人間の分際で神に矢を引くなんて、まったく!」
パーンパーン☆
再び自称神の少年は倒れる。
「痛いじゃないか!」
痛いから何だと言うのだ。
ここは俺の夢の中、俺が何をしようと俺の勝手である。
「である。じゃないよ、ホント。もー怒った、コレを観てもそう言えるかな?」
目の前の空間に電車が映し出された。
コレっていつも通学に使ってる電車?
「さらにズームする」
あ、俺だ。
「さあ、今から何をすると思う?」
いやー、夢だけどなんてイヤな予感が…。
「淡い恋心」
「え!?」
「毎日同じ時間帯に通勤するOLのお姉さん、水野優里香さん(23)」
「そのゆりゆりは更にお隣のお姉さんで?」
「更に更に?仲良くなったはイイが下着まで盗むなんてねぇ~」
「オー、凄いね、今日は、まさにその下着を試着したまま通学かぁ。俗に言う、ど変態とはこのコトだね☆」
「寒くなって来て厚着なモノだから誰にも気付かれないと思っていたんだよねぇ、中々の趣味をお持ちで?」
ま、ま、ま、ま、ま、さか??
映像内の俺が立ち上がり上着のコートを脱ぎ出す。
や、やめやめやめやめろめろ!!
な?話せば分かるから話せば分かるから!!
「話をしようとした僕に君は何をしたんだい?」
「え?いや、ハイ」
「ハイ、じゃ分からないよね」
「銃を向けました」
「撃ったよね」
「その通りでございます」
「何もしてないこの僕を撃って、少し確認とばかりに自動小銃からマガジン式の銃に変えて一回一回丁寧に!」
「申し訳ございませんでした!」
こういうとき接客業で磨いた処世術は役に立つモノである。
こんなガキなんぞオチャノコサイサイである。
「馬鹿だねぇ君は。考えがさっきから筒抜けなんだよ~」
そう言うと
浮かび上がった映像が俺にズームされ、1枚ずつ服を脱ぎ始めた。
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「う、うぅぐぅぅ」
泣いた。とても泣いた。彼女に見られてしまった。警察にも連れて行かれてしまった。
毎回同じゴミ出しの時間帯に合わせ、何かあったなら顔を出し、覚えてもらって、ご飯に行くまでの仲になるまで用意周到に準備して。
付かず離れず、ちょうど良い距離感を保って居たにも関わらず。
同じ電車に乗るのも、忍び足で後ろをツケるのも、全ての苦労が水の泡
「もう、死にだい。殺せ今すぐ殺せ~って言っても今のただの合成映像よね?っね?っね?」
「いやぁあれ、現実だからね、ここに居る君も本体だけどあれも君の本体だからね」
そう言いつつも先程の彼女の侮蔑の表情を観て興奮し下のムスカがバルスしそうになっていた。
「本当に君はど変態だな、僕たち神が創り出した人間だとは思えない。それにねぇ、君が適合者だなんて、なんだかなぁ」
うなだれながら、こちらに視線を送る。
本当に神様だったとは…。
神様だと思うと何故だか神聖な気持ちが浮かび上がってくる。
よくよく見ると少年と言うよりも少女に近く顔立ちは中々に整っている。
なかなかのロリ顏であった。
ロリ顏男の娘キャラきたー!!
「もっと俺に酷いことをしてくれ!
俺を興奮させろー!さぁ!さぁ!さぁ!」
「い、イヤだよ、めんどくさいよ!気持ち悪いよ!」
「ああ、神様、その視線が俺をエレクチオンさせるのでございます。さぁ、もっと!もっともっと~」
「こないでよ!あっちいってよ!ヤダヤダヤダヤダヤダー!」
2020年冬 黒瀨 凛太郎(20)は神に出会ったのであった。
そして彼は稀にみぬ特性を持つど変態中のど変態であった。
主人公は、初めからまともキャラというわけではないのです。