表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

湊。

作者: 七草せり

加野湊(かのみなと)との出会いは、友達が開いた飲み会。


平野香苗(ひらのかなえ)ハタチの大学生の私の為に、友達のミナが開いてくれた。



『ハタチで彼氏無しは辛いでしょ? 誰か紹介してあげるよ』


そこで湊と出会った。同じ学校の人。


暑い夏のとある日に……。



湊は 軽い感じはしない。一人黙々とお酒を飲んでいる……。


黒目がちの大きな瞳に端正な顔立ち。

私はその瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えた。



「湊くんだよね? アドレス教えてよ」


「別にいいけど」


私はあっさり湊のアドレスをゲットした。


最初は簡単なメールのやり取りから始まって、いつしか二人で遊びに行く様になった。

でも湊とは友達。彼女にはなれない。



「元カノが忘れられないんだって。 ありがちだよね」


ミナの言葉に胸が詰まる……。

でも仕方ない。私は友達でいい。側にいられたらそれでいい。


自分に言い聞かせた。



けれど私達は仲良く遊んだ。湊には他にも仲の良い女の子達がいたのだが、取り分け私が一番の友達だと思う。

複雑だけど……。



そんなある日の放課後。ミナから思わね事を聞いた。


「湊の元カノがより戻したいらしいよ? 友達が言ってた」


「え? よりを?」


ミナは蒸し暑い教室で下敷きをパタパタさせそう言った。


「他校の人らしいんだけどね。 何か湊がやっぱりいいって」


「湊も忘れられないんでしょ? ならより戻すんじゃない?」


グッと唇を噛み締める。


私はただの友達だ。何も言えない。


「それでいいの? 好きなんでしょ?」


「いいも何も仕方ないじゃない」


「告白しちゃえば?」


「やだよ……」


同じ学校だし、気まずくなりたくはない……。友達のままでいい。


「本当にやだ? 告白。 もうすぐ花火大会じゃない? 誘えば?」



花火大会……。そこで告白するの?

いやいや無理だよ。



「取り敢えず花火大会誘いなよ」



ミナに後押しされ、湊に花火大会の事を話した。


「花火大会? いいよ、 行っても」


「本当? 嬉しい」


「じゃあこんどの土曜ね」


あっさり約束をした。



喜んだ私だけど少し不安にもなる。

もし彼女が湊を誘ったら?後になって断ってきたら?


そんな事を考えても仕方ない。

私は家に帰りクロゼットのタンスから藤色の浴衣を取り出した。




花火大会の日。浴衣を着て髪の毛を可愛くアレンジした私は、待ち合わせの場所に早めに着いた。


皆花火大会に行くのか、浴衣姿の人が目につく。


『駅で待ってます』


一応湊にメールを入れた。



待ち合わせの時間になった。だけど湊はまだ来ない。メールもない……。


念の為メールをしたが返信もなかった。



そのうちに花火大会が始まった。


色とりどりの花火が空に花を咲かせ、呆気なく消える。

露天には水飴やらリンゴ飴やらが並び、皆楽しそうに買い求めていた。


どーんと言う花火の音と共に歓声が上がるが、湊が来ない私はまるで音のない世界にいるみたいだ。


「どうしたのかな? 何かあった?」


ケータイを握る手が汗ばむ。


「一言のメールもできないの?」


涙が頬を濡らし始めた頃、ポツポツと雨が降りはじめた。


みんな一斉に駆け足で雨宿りをしたが、私はその場に立ち尽くした。


浴衣が雨に濡れて重たい。いや、それ以上に心が重たい……。


空を見上げ雨に打たれる。



「香苗!」


突然名前を呼ばれて振り返った。


「湊……」


傘をさした湊がこちらへ向かって来る。


「ごめん……」


「遅いよ……」


傘を差し出し手を握られた。


「元カノとケジメつけてきた」


「え?」


「遅くなって悪かった。 どうしてもケジメつけたくて」


「メールくれればいいじゃん」


「ごめん……」


ぐっと抱き寄せられ、そう言われた。



「花火見れないじゃん」


「明日二人で花火しよう」


「て言うか付き合おう」


「え?」


「告白してくれる予定だったんでしょ?」


「それは……」




花火大会は雨で中止になったけど、私はガッカリはしない。


だって湊と二人、相合傘できたし。



でも来年は花火大会行こうね。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ