湊。
加野湊との出会いは、友達が開いた飲み会。
平野香苗ハタチの大学生の私の為に、友達のミナが開いてくれた。
『ハタチで彼氏無しは辛いでしょ? 誰か紹介してあげるよ』
そこで湊と出会った。同じ学校の人。
暑い夏のとある日に……。
湊は 軽い感じはしない。一人黙々とお酒を飲んでいる……。
黒目がちの大きな瞳に端正な顔立ち。
私はその瞳に吸い込まれそうな感覚を覚えた。
「湊くんだよね? アドレス教えてよ」
「別にいいけど」
私はあっさり湊のアドレスをゲットした。
最初は簡単なメールのやり取りから始まって、いつしか二人で遊びに行く様になった。
でも湊とは友達。彼女にはなれない。
「元カノが忘れられないんだって。 ありがちだよね」
ミナの言葉に胸が詰まる……。
でも仕方ない。私は友達でいい。側にいられたらそれでいい。
自分に言い聞かせた。
けれど私達は仲良く遊んだ。湊には他にも仲の良い女の子達がいたのだが、取り分け私が一番の友達だと思う。
複雑だけど……。
そんなある日の放課後。ミナから思わね事を聞いた。
「湊の元カノがより戻したいらしいよ? 友達が言ってた」
「え? よりを?」
ミナは蒸し暑い教室で下敷きをパタパタさせそう言った。
「他校の人らしいんだけどね。 何か湊がやっぱりいいって」
「湊も忘れられないんでしょ? ならより戻すんじゃない?」
グッと唇を噛み締める。
私はただの友達だ。何も言えない。
「それでいいの? 好きなんでしょ?」
「いいも何も仕方ないじゃない」
「告白しちゃえば?」
「やだよ……」
同じ学校だし、気まずくなりたくはない……。友達のままでいい。
「本当にやだ? 告白。 もうすぐ花火大会じゃない? 誘えば?」
花火大会……。そこで告白するの?
いやいや無理だよ。
「取り敢えず花火大会誘いなよ」
ミナに後押しされ、湊に花火大会の事を話した。
「花火大会? いいよ、 行っても」
「本当? 嬉しい」
「じゃあこんどの土曜ね」
あっさり約束をした。
喜んだ私だけど少し不安にもなる。
もし彼女が湊を誘ったら?後になって断ってきたら?
そんな事を考えても仕方ない。
私は家に帰りクロゼットのタンスから藤色の浴衣を取り出した。
花火大会の日。浴衣を着て髪の毛を可愛くアレンジした私は、待ち合わせの場所に早めに着いた。
皆花火大会に行くのか、浴衣姿の人が目につく。
『駅で待ってます』
一応湊にメールを入れた。
待ち合わせの時間になった。だけど湊はまだ来ない。メールもない……。
念の為メールをしたが返信もなかった。
そのうちに花火大会が始まった。
色とりどりの花火が空に花を咲かせ、呆気なく消える。
露天には水飴やらリンゴ飴やらが並び、皆楽しそうに買い求めていた。
どーんと言う花火の音と共に歓声が上がるが、湊が来ない私はまるで音のない世界にいるみたいだ。
「どうしたのかな? 何かあった?」
ケータイを握る手が汗ばむ。
「一言のメールもできないの?」
涙が頬を濡らし始めた頃、ポツポツと雨が降りはじめた。
みんな一斉に駆け足で雨宿りをしたが、私はその場に立ち尽くした。
浴衣が雨に濡れて重たい。いや、それ以上に心が重たい……。
空を見上げ雨に打たれる。
「香苗!」
突然名前を呼ばれて振り返った。
「湊……」
傘をさした湊がこちらへ向かって来る。
「ごめん……」
「遅いよ……」
傘を差し出し手を握られた。
「元カノとケジメつけてきた」
「え?」
「遅くなって悪かった。 どうしてもケジメつけたくて」
「メールくれればいいじゃん」
「ごめん……」
ぐっと抱き寄せられ、そう言われた。
「花火見れないじゃん」
「明日二人で花火しよう」
「て言うか付き合おう」
「え?」
「告白してくれる予定だったんでしょ?」
「それは……」
花火大会は雨で中止になったけど、私はガッカリはしない。
だって湊と二人、相合傘できたし。
でも来年は花火大会行こうね。