Act5
銀に輝く髪、筋肉質な身体、そして長身。
そんな[銀色のそれ]の背中を追い続けていれば、私は絶対に死なない。生きていゆけると、いつしかそう思い始めていた。
だが、出口はない。
暗闇を行き交うばかりで、すれ違う人は皆、死人。
このまま私は永遠に、死の世界で生きなければならないのか?
「………ここから出してよ……」
「出口などない」
「……嘘。言ったでしょう?私が落ちる前、あなたは確かにマンホールの外にいた。見たんだから」
「記憶にない。それに、案外強い女だと思っていたが、弱い人間に過ぎなかったな」
「!」
「ここからは俺の後ろを歩くな。邪魔だ」
[銀色のそれ]は、私に銃を構えた。
「いや…っ……!殺さないで!?殺さないでっ………!!死にたくない死にたくない死にたくないっっ!!」
私は[銀色のそれ]の後を追うことを止めた。
止めたところで、私は死人に殺される。
後を追ったところで、私は[銀色のそれ]に殺される。
私の未来には……
「死」しかみえない。
ここまで生き延びようとした自分が馬鹿らしく思えた。
ふと顔を上げた。前方から完全にあの姿が消えた。
私は一人、暗闇に取り残された。
地面に手をつけ、動けなくなった。やみくもに歩いたところで、外に出られるわけでもない。動きたくない。
しばらくして、後方からザッザッという、砂利を擦るような足音が聞こえてきた。
振り返りはしなかったが、死人が来たのだと確信した。
段々と音が近づいてきた。その音と同時に、心臓が跳ね上がるのが自分でもわかった。
殺すなら早く殺してほしい。早く楽になりたい。痛みを感じたくない。早く………
『お嬢さん』
後方から優しい声が聞こえた。私は思わず、振り返った。
そこには、古びた着物を着た男が立っていた。腰には刀のようなものがさげられていた。髪は黒く、背中にかかるほど長い髪をしている。
私はその印象で、昔の侍なのではないかと思った。
『そなた、お一人か?』
「…はい」
この男は、なぜだか死人には見えなかった。
『このような場所にお一人で?さぞや心細い思いをなされたのではないか?』
「あなたも私を殺しにきた死人なんでしょう?さっさと殺せばいいじゃない!?」
私はやけになって叫んだ。
『殺す?そんな殺生なこと、私は致しませんよ』
「あんた、何で死んだの?戦に出て死んだんじゃない?」
『戦か…。お嬢さんの言う通りだ。私は幕末戦下において無様に斬り捨てられた身。刀を抜くのを躊躇い、その一瞬の隙をつかれ、殺されました』
「そんな時代に生まれて不幸ね。今じゃ、戦なんて考えられないほど幸せよ?」
『そなたは……幸せのように見えない』
「!」
『どうです?私と共に出口を探しませんか?』
「出口を探しているの…?」
『私はこのような場所に留まりたくはないのです。さぁ、そなたも一緒に……』
私はその言葉に引かれるように、再び立ち上がった。
しばらく侍と共に暗闇を歩いたが、出口など見つかるわけがなかった。
『上にあると思いませんか?』
突然、侍が口を開いた。
「え……?」
『上界の空気を感じます。出口が下にないのなら、おそらく上にあるのでしょう』
「空気を感じるって……それ本当なの!?」
その一言で目の前が明るくなった。
『私はこの姿では登れない…。すまぬがお嬢さん、上に登れるか?』
私は辺りを見回した。すると、登るには調度いい黒い岩壁が広がっていた。
「これならいける…」
私は侍に背を向けて、岩に近づき、上に登ろうと手を掛けた。
『…………』
侍は美園の背後に近づき、腰にかけた刀を抜いた。
『どうか……そのままで…………』
Act5 …END…