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銀舞う世界  作者: KoKoRo
4/6

Act4

どれくらいの時が流れたのだろう……?



私が[銀色のそれ]の背中を追い続けた時間は、雪のように積もっていった。

今、何時なのか。朝なのか夜なのかもわからない。

でも不思議と眠くならない。お腹も減らない。





「私は死んでるんじゃないの?」




私は[銀色のそれ]に向かって言った。




「お前は生きている。死人の言葉を忘れたか?死人は皆、お前の肉を喰らおうとしている」




「私が生きているのなら、お腹が空くはずじゃない。ここに来てから何も口にしていないのにお腹が減らない。眠くならない……」




「ここでの時間は現世とは違う。いや、時間など存在しない。太陽も月もない。あるのは無限に広がる闇と死人だけだ」





私はその言葉を聞き、ゾッとした。そして、今ここに存在している自分が信じられなかった。





『え――ん……』





遠くの方で子供の泣く声がした。





『え―ん…えーん…』



[銀色のそれ]は、泣く声とは逆の方向に歩き出した。




「どうして反対に行くの?こっちで子供が泣いてるじゃない!」



「現世への未練を感じない。子供が泣いていようが知ったことか」




「あなたって最低」




私は[銀色のそれ]とは逆に、子供の泣く声の方へと走り出した。







闇の中を走り続けた。徐々に、泣く声へと近づいているのがわかった。段々と声が大きく聞こえる。





『え――ん……』





私は泣いている少年を見つけた。座りながら目を手で隠していた。




「どうしたの?大丈夫?」




私は少年に声を掛けた。人と接することを避けて生きてきた私が、なぜ声を掛けたのかよくわからない。私の行動は矛盾している。




『パパとママがいないよぉ……。何処にもいないよぉ………』





私はこの時、[銀色のそれ]の言葉を思い出した。




《ここにさ迷う者は皆、不慮の事故に遭った者、もしくは殺された者が集う》





この子供は事故で死んだのだろうか?それとも……




「大丈夫だよ。私が君のパパとママを探してあげる。だからもう泣かないで?」




『ありがとう。絶対、見つけてね……』




私は少年の顔を見た。まだ幼い顔立ちをしている。3〜4歳ぐらいであろうか。




「何をしている?」




私の後方から、聞き覚えのある声が聞こえた。振り返ると、そこには[銀色のそれ]が銃を片手に持ち、鋭い目をこちらに向けて立っていた。




「なんで銃を持ってるの?」




「その子供を殺す。どけ」




『僕を……殺すの………?』




隣にいる小さな少年は、私の服を力強く掴んだ。微かに震えているのが伝わった。




「殺させない」




私は少年を背に隠し、[銀色のそれ]の前に立ちはだかった。




「どけ」




「嫌よ。約束したんだから!この子のパパとママを探すって!未練が無ければ殺す必要がないじゃない!」





「その子供の両親は、この世界に存在しない」




「!」





私は[銀色のそれ]の言葉を理解した。




この世界に存在していない者は皆、現世で生きているということだ。






[銀色のそれ]は、手に持っていた銃を少年に構えた。




「お前は大事なことを忘れているようだな」



『僕は……』





…………ポタ





背に冷たいものを感じた。




少年を見ると、全身が水を浴びたように濡れている。髪や服の端からは水滴がポタポタとこぼれ落ちていた。





そして……




頭の中に、あるイメージが映像となって現れた。




海の中でもがく少年。



その先に父親らしき人が泳いでやって来るのが見えた。




しかし………







間に合わなかった…。





深い海に沈む少年のイメージが頭から離れない。





あまりにも残酷な現実だった。







やがて映像が消え、気が付くと私は涙を流していた。




『僕は……死んでるの……?パパとママは……何処にいるの……?』




「お前だけが死んだんだ」



『違う。違うよ…。僕は死んでなんかない……。パパとママに会わせてよ!!ねぇ!お願いだよ!!』




私は背に隠していた少年を[銀色のそれ]の前に出した。




『お姉ちゃん?』




「……殺して」





私は[銀色のそれ]に言った。




これ以上、少年を見ているのが辛かった。

死んだことにも気付かずにこの闇の中を一人、両親を探しさ迷っている。




もう、楽にしてあげたい。






「殺したいならその手を離せ。お前にも銃弾が当たるぞ?」





少年を楽にしてあげたいのに、私の手は少年の肩にへばり付いたかの如く離れない。




「大丈夫だから。その手を離せ。美園」





――――――――――私の手が離れた瞬間、銃弾が少年に突き刺さった。



少年は地面に倒れ、黒い血が辺りに散らばった。





私は……



足の力が抜け、その場に崩れ落ちた。

声を上げることも出来ずに、その情景をただ見つめていた。




「これでよかったのか、わからないよ……」




「これでよかったんだ。ここにいても不幸なだけだ」




[銀色のそれ]は再び歩き出した。




私も立ち上がり、また歩き出した。






[銀色のそれ]の背を追って……







Act4 …END…



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