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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

続・勘違いは突然に(笑)

作者: 涼風


あてんしょん!


1. タイトル通り、以前投稿した短編の続きです。前作を読んでいなければ、さっぱり話が分からない不親切仕様となっております。読み進められる方は、前作の内容、設定をご理解の上、お進みください。


2. キーワードは嘘をつきません。男同士の恋愛要素が出てきます。そういうものが苦手な方は、全力で逃げてください。


上記をしっかりお読みになった上で、「それでも良いよ!」な方は、どうぞごゆっくり、お楽しみくださいませ。





――さて、繰り返すようだが真司はモテる。


百八十センチ超えの背丈に端正な顔立ち、それだけでも周囲が放っておかないだろうに、成績は小中高通じて常に上位、運動神経も人並み以上、それでいて傲ることなく常に謙虚と来れば、モテない方がおかしい。どこの完璧超人だと、これは幼馴染みの台詞だが。

真司にしてみれば、自分の人生がそこそこに順調なのは、前世の記録という『教科書』のお陰なわけだから、「俺スゲー」なんて思いようがなかったと、それだけの話である。


――しかし。


(いやいやいやいや、ちょっと待て! これはおかしい、どう考えてもおかしい、何かないのかこういう危機的状況におけるマニュアルは……っ)


怪しげな笑みを浮かべ、玄関に佇む青年――どうやら自分と同い年で同じ大学の学生らしい、名前は拓哉、現在分かっている個人情報はたったこれだけ――を撃退する方法など、そもそも載っているはずがなかった。……ちなみに今、玄関からカコン、と無情な金属音がした気がするが、敢えてその現実を頭から追い出しておく。不法侵入されて鍵かけられて、ついでに貞操の危機とか、考えたくもない。


(ああぁ、そうだった、貞操、危機、男の躱し方……!)


……ちなみに、前世の記録はあくまで『記録』であって、ぐーぐる先生のような検索機能は備わっていない。

もう開き慣れた記録をひっくり返し、真司は危機的状況における対策まとめ的なものを探した。


男に迫られたとき――ダメだそもそも『彼女』に迫るような物好きな男はいなかった!

危険人物からの逃げ方――とにかくダッシュで離れる、って入り口抑えられてる!

同性からの求愛を断る――うわあぁそもそもこの人オンナノコ大好きで、どんだけくっつかれようが「だいすきー」と言われようが、「わたしもー」で済ませてやがる!!


結論――使えない。

なんでもっとモテモテ人生歩んどかなかったんだよと、真司が前世に見当違いの文句をつけようとしたところで、いつの間にか靴を脱いで部屋の中まで上がり込んでいた拓哉が口を開いた。


「……なぁ、腹減ったんだけど」


――意味が分かりません。

コイツ、さっきまで俺に迫ってたよな? いや、男に迫られるとかマジでないけど、現実から目を背けても虚しいだけだし、この変わり身は何だ? つうか、ほぼ初対面の相手に飯をねだるのは、コイツ的にアリなのか、アリなんだろうな、という思考が真司の脳裏を電光石火で過る。そういえば、彼の前世も割と最初の頃から、結構ずけずけ遠慮がなかった。そんなトコロを踏襲しなくても良かったのに。


「インスタントは無い。冷蔵庫に材料はあるけど、簡単なものしかつくれないぞ。それに、今から作ったら時間も掛かる」


お前の腹具合なんぞ知るか出てけ、と言ってやっても良かったのだが、よく考えたら腹が減っているのは真司とて同じだった。こいつを追い出したところで結局何か作って食べるなら、一人分だろうが二人分だろうが手間としては大して変わらない。

考えた末にそう結論付けた真司は、冷蔵庫の中を思い出しながらキッチンに立とうとする。するとそこで、慌てたように拓哉が言ってきた。


「それは全然構わないけど、真司が台所触られるの嫌じゃないなら俺、自分で作るよ?」


どうやら、ほぼ初対面の相手に食事を要求するのは図々しい、くらいの常識はあるらしい。別にコイツに飯をご馳走してやる筋合いもないな、と思い直した真司は、「ならどうぞ」と台所を譲った。拓哉が自分用の食事を作ったところで真司の腹は膨れないが、自分のことは自分でしようとする、その姿勢は好感が持てる。


(……見た目チャラいけど、中身は結構真面目なのかもな)


真っ先に炊飯器を覗いて「米はあるか」と聞いてくる辺り、料理は一通りできるのだろう。冷凍保存していることを伝えると、何故か感心された。むしろ、一人暮らしの基本だろう。


「真司も食う?」


唐突に尋ねられ、少し面食らったが頷いた。空腹なのは真司とて同じ、作ってくれるならそれに越したことはない。

軽い色にカラーリングされた髪をおしゃれに遊ばせ、一般的なリクルートスーツを自分に似合うように着崩した拓哉は、ちょっと見ただけではなりたてほやほやの大学生とは思えない。……それをいうなら真司とて、「とてもこの前まで学生服を着ていたようには見えない」と店先で絶賛された口だが、自分は単に老けているだけで、拓哉のような人間が「服を着こなしている」と評価されるのだろうと思う。


(前世とは、えらい違いだな)


ふと、記録が紐解かれた。真司の前世――『彼女』の親友、相方(パートナー)と言っても過言ではなかった女性が、拓哉の前世だ。

拓哉の前世は、着飾ることに全くもって興味がなかった。センスが悪いわけではないし、買い物も嫌いではなかったが、自分が綺麗になることに情熱を傾けるタイプではなかったのだ。見た目大人しげな美人だっただけに、『彼女』はいつも残念がっていた。

拓哉の中にあるものも、自分と同じような『記録』だという。ならば自分と同じで、前世が彼のベースになっている、なんてことはなく、あくまでも別人、なのだろうか。


(いや……。似てるところも、あるな)


初対面からずけずけ遠慮がないところもそうだが、何より。

遊んでそうな見た目なのに、料理の手順や台所での振る舞いを見るに、意外と真面目。

外見と中身のギャップが激しいところは、前世とそっくりだと真司は思った。





軽食(驚いたことにリゾットが出てきた。普通に美味かった)を一緒に食べたあとも、履修登録の相談だなんだで、拓哉はずるずる居座った。よく見た目から誤解されるが、別に真司は孤独を愛する孤高の士ではない。騒がしいのは得意ではないけれど、誰かと同じ空間を共有することは好きな方で、そういう意味では拓哉との時間は心地よかった。迫られたことを忘れたわけではないけれど、拓哉がそういう雰囲気(玄関を強行突破したときのような!)を醸し出さない限り、気にしないようにしようと真司は決めた。


「なー、泊まってっていい?」


……前言撤回、やっぱり気になる。

うっかり固まった真司に、拓哉はけろっと言い放った。


「俺さ、実家通いなんだよね。今から帰ったら十時回っちまう。そんで遅くなるって連絡してなかったから、賭けても良いけど俺の分のメシ、無い」


……そもそも、通学に三時間も掛かるなら、実家通いをするなと言いたい。

こんな話を聞かされて、「だが帰れ」と追い出せるほど、真司は非道な性格をしていなかった。


「でも、明日の服はどうするんだ。まさかスーツでは行けないだろ」


遠回しに承諾の意を伝えると、拓哉はあからさまにほっとした顔になった。案外、本当に帰るのが面倒だっただけなのかもしれない。

宿を借りることを申し訳なく思ったらしく、拓哉は夕食を作ると申し出た。そこまで気を遣ってもらう必要もないのだが、何もしないのも気が引けるだろうと、食事に関しては任せることにする。拓哉の料理は美味しいから、作ってもらうことに否やはない。


客を泊めるなら、と真司が風呂を洗っている間に、拓哉はあるものでぱぱっと炒めものを作ってくれた。少し濃いめの味付けは、白いご飯がよく進む。

リズムよく完食し、食器をキッチンに運んだところで、拓哉がぼそりと尋ねてきた。


「……なぁ、ひょっとして食事、あんまり美味くなかったか?」

「は? 美味しかったぞ?」


突然どうした。不味かったら、そもそもあんなに箸が進まないと思うのだが。拓哉は違うのだろうか。

……あぁ、そういえば『彼女』は典型的なモッタイナイ精神の持ち主で、出されたものはとりあえず食べる、食べられないと判断しない限りは食べる、がモットーだった。拓哉も『彼女』のことは知っているだろうし、その『彼女』は真司の前世なわけだから、同じように舌が安いと思われたのかもしれない。


「美味しかったよ、ありがとうな」


改めて、きちんと感想を言葉にした。ほっとした風で笑う拓哉は、初対面の印象と違って可愛らしくさえある。


(考えてみれば、仮にコイツに押し倒されたところで、体格差で俺が負けるはずないもんな。貞操の危機とか、アホらしいにもほどがある)


そんな、当たり前の事実にようやく気がつき、最後まで残っていた拓哉への警戒心は淡雪のように溶けて消えた。風呂を勧めると先に入れと返されたので、遠慮なく先に汗を流して、拓哉ために新しいタオルを棚から取り出す。

洗い物を終え、何をするでもなく座っていた拓哉に声をかけた。


「上がったよ。君が入っている間に着替え用意するから、取り敢えずスーツ脱いで。はい、ハンガー」

「あ、うん」

「タオルはこれ使って。使い終わったらこの籠に。――あぁそれから、下着も新しいの用意するから、心配しなくていいよ」

「……ありがとうございます」


警戒しなくてよいと思った途端、驚くほどにするすると、言葉が出てくるようになった。何だかんだで同じ前世の記録持ち、しかも拓哉の前世は『彼女』の相方。そして拓哉自身もいい奴だということは、たった数時間を共にしただけだが何となく感じ取れるのだ。構える方が不自然だと、すんなり思えた。


拓哉が浴室へ消えていき、買い置きの下着と予備の部屋着を浴室の前に置いて、暇潰しにテレビをつける。国会がどうの、景気がどうの、外国の政情がどうの――前世も今世も変わらない世の中を、ぼんやり眺めた。


(ひょっとして……俺、浮かれてるのかもな)


前世の記録は、真司にとって最高の参考書であると同時に、他人に決して知られてはならない最大の禁域だった。家族すら、真司がそんなものを抱えていることは知らない。幼い頃から身近な幼馴染みにも、詳しいことは話していなかった。……もっとも、彼は何となく、察している風でもあったが。

他人に見せられない秘密を抱えている真司は自然、人付き合いも当たり障りのないものにならざるを得なかった。そんな人生に、不満はないつもりだったけれど、もしかしたら心のどこかで思っていたのかもしれない。――寂しい、と。


ふと、背後に気配を感じる。いつの間にか、拓哉が風呂から上がっていたらしい。

ニュース番組が終わったところで、真司はくるりと、拓哉を振り仰いだ。……真司の部屋着は拓哉には少し大きかったらしく、裾がぶかぶかしている。

不便だろうか? まぁ、もう寝るだけだし、問題はないだろう。


「待たせてごめん。もう寝るだろ?」

「そうだな。特にすることも無いし」


いつもの流れでベッドに入ろうとして――ふと、気付く。


(そういや、拓哉の分の布団がないな)


まさか入学式当日に客を泊める羽目になるとは思わなかったから、寝具は一組しかない。一瞬どうしようか迷ったが、別にそこまで悩むことでもないか、と割り切った。

ベッドに入り、体ごと拓哉を向く。


「悪いけど、布団の予備はないんだ。――だからちょっと狭いけど、一緒に寝よう。拓哉けっこう細いし、なんとかいけるだろ」

「え?」


拓哉の目が、大きく見開かれた。「正気か、コイツ」と顔に書いてある。

……何か間違っただろうか。ちなみに真司のベッドは、百八十センチ超えという彼の身長を考慮して、少し大きめのものをセレクトしてある。男二人、多少窮屈だが眠れないことはない。


「どうした、拓哉?」

「……俺が、お前に好きだって言ったこと、覚えてるか?」


心なしか、恨めしげな目で睨まれ、さすがに少し無神経だったかと反省した。

だからといってまさか、お前に押し倒されたところで危機感を覚えないなんて馬鹿正直に返そうものなら、この青年は本気で凹んで浮上してこない気がする。

少し考えて、真司は起き上がった。


「じゃあ、ベッドは拓哉が使ってくれ。俺は床で寝るから。コートでも羽織ってれば大丈夫だろ」

「なっ、バカっ、風邪引くだろ! それなら俺が床で寝る! 俺はこれで体けっこう丈夫だし、客でもなんでもないんだからっ」

「……いやでも拓哉、顔真っ赤だぞ」


そんな状態で体が丈夫だなんて力説されても、説得力はゼロである。

むしろ湯冷めして既に風邪を引き始めているのではとすら危惧したが、拓哉は顔をふいと背けた。


「……誰のせいだ、誰の」


流れ的に、どうやら拓哉の赤面の理由は真司のようだ。……今の会話のどこに顔を赤くする要因があったのか、それはさっぱり分からない、が。


(『コイツ』に同衾断られるとか……『彼女』が聞いたら何て言うかな)


「あの恥じらいゼロだったYの来世がそれ!?」と目を剥くかもしれない。なにしろ拓哉の前世は、暖を求めて男の布団に平気で潜り込むような、女としてそこは躊躇えと言いたくなるようなところがあったから。

その『記録』は拓哉にもあるはずなのに、この恥じらいよう。……どうしよう。少し、楽しくなってきてしまった。


「――やっぱり一緒に寝よう」


逃げようとしたのか、立ち上がりかけた拓哉の腕を引き、ベッドの中に引きずり込む。不満そうな目と視線が合い、作り物でない笑みが浮かんだ。――その瞬間、拓哉があからさまに硬直する。


(ヤバい、コイツ、面白い)


他人をからかって遊ぶ趣味が自分にあるとは思わなかったが、拓哉は何となくいじめたくなる。クスリと笑って、手を伸ばした。


「拓哉って、案外初心なんだな」


――昼間は、あんなに強気に迫ってきたくせに、いざ誘われると尻込みするなんて。

きょとんとした顔の拓哉の頭を、よしよしと撫でた。


「思ったより可愛いところ、あるじゃないか」


予想通り、真っ赤を通り越して頭から湯気を立てた拓哉は、そのまま布団に突っ伏した。……打てば響くような反応に、一瞬このまま抱き締めたらどうなるだろうかなんて良からぬ考えが過り、いやいやいやと自分に突っ込む。


(さすがに、男を弄ぶ趣味は、俺にはないぞ)


オーバーダウンしたらしい拓哉を放置して、真司は笑いを堪えつつ、ベッドから降りた。


「ベッドはやっぱり、拓哉が使いなよ。じゃ、お休み」


クローゼットから適当なコートを引っ張り出し、毛布代わりに被って横になる。


――面白く、なりそうだな。


『参考書』と共に歩んできた真司は、未来に期待するということがあまりない。

そんな彼が、明日からの大学生活を楽しみにしているということに、彼自身は気付いていなかった――。




つ、づく?







何がどうしてこうなった……。

続ける気なんて、私にも、相方にも、さっぱりなかったハズなのですが。


日頃から、私の執筆に付き合ってくれる相方が、ある日「もういっそ勘違いの続き書こうかな」とか言い出して、「書けば~?」とかへらへら笑ってたら、本当に書いちゃったんですよね。お前、自分からは続けないって宣言してたじゃねーか。


彼女が書いちゃった以上、私も書かないわけにはいきません。本連載の合間に落とす話がコレってどうなんだ。

――そんなわけで、もう一人の登場人物、拓哉くん視点は、相方のページにあります。私のただ一人のお気に入りユーザさん=相方なので、気になる方はそちらもどうぞ。



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― 新着の感想 ―
[一言]  真司くん、染まり始めてるっ!? キケーン!w 女の子の彼女、はやく作った方がいいよ(ホロリ)  いや、その娘が拓哉くんの前世、K.Y.サマ並の腐女で後援されてしまう恐れも無きにしもではある…
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