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「は? 『処女』ぉ?」
美咲が言うと同時にヂョキン、と私の前髪を切る。今までチョキ、チョキ、と少しづつ慎重に切っていたのに、突然大きな音がしたのでドキッとした。美咲は声にはならなかったけど「あっ」と口を動かして「全然大丈夫」と言った。人差し指と中指の二本で私の前髪を伸ばして長さを確認する。
私は学校が終わって美咲と一緒に下校すると、そのまま美咲を家に呼んだ。今は私の伸びた前髪を切ってもらっているところだ。
「『処女』と『長女』を聞き間違えたって事?」
美咲は「ふっ」と小さく笑って「ばっかじゃない」と続けた。
「男子ってほんといっつもくだらない、エロいことばっか考えてんのよ」
前髪をチョキリと切りながら言った。
「で? 結衣はなんて言ったの?」
「『あぁ……そっか……。なんかゴメン。』とか言われて、『聞かなかったことにするよ』って」
「ふーん。今日は?」
「全然普通だった」
上目遣いに美咲の指と短くなってゆく前髪を見ながら言う。
「祐ちゃんの方から『おはよ』って言ってくれた」
美咲は「へー」と相槌を打って「意識しちゃったの?」と少しニヤニヤしながら聞いてきた。
「うん」
私は素直に頷いた。「あー。動かない」とたしなめるように美咲が言う。
「祐ちゃんねぇ……。まぁ性格はそんなに悪くないと思うけどさぁ」
美咲は言い淀んだ。言葉を選んでいるようだった。
「あんまりかっこ良くないし……。エロいことばっか考えてるし」
「そんな事……ないと思うよ?」
ちょっと擁護しきれない。
「好きなの?」
美咲が遠慮無しにストレートに聞いてくる。
「好き……ではないんだけど。嫌いでもないけど」
「はいっ、終わり」
ぽんぽん、と私の前髪を撫でるように叩く。手鏡を渡されて確認する。
「うん、完璧! ありがとう。やっぱり美咲に頼んでよかった」
美咲は得意げに「でしょー」と言った。
「美容師にでもなろうかな」
美咲が美容師。イメージがすんなり出来る。
「まぁ私は相手がどんな人でも応援するよ。結衣を」
「うん……。いや、まぁまだ好きなわけじゃないけど!」
二人であはは、と笑った。
少しだけ、顔が熱くなった。