☆1
初めて書いた短編小説です。予想に反して長くなってしまいましたが……。友人と始めた、月一回テーマを決めて一本短編を書く『テーマ短編』です。九月期のテーマは『高二の一日』でした。
その日、俺はすっかり慣れてしまった携帯のアラームの騒音では起きず、結局母に起こされてようやく目を覚ました。
起きてまずテレビを付ける。そして画面左上に表示される時間を見た。いつもより少し遅いが、問題ない時間だ。
まだ完全に開ききらない目を窓に向けると隣の家の壁に反射した白い光が眩しかった。天気も問題ない。
気分良く部屋を出て洗面所に向かいながら、その日見ていた夢の事を思い出す。
夢の中で俺は中学の頃の友人達と一緒に、当時通っていた中学校の校庭で穴を掘っていた。
そこに何が埋まっているのか俺にはわからなかったが、周りのみんなは笑顔で楽しそうに掘っていたので、きっといいものが埋まっていたのだと思う。
母に起こされた事で今やもう、それも知る由もないが。しかしせっかく起こしてくれた母にそんな苦情を言うわけもいかず「もう一人で起きれる様になりなさい」というお決まりの説教を素直に受けた。
朝食を食べて、制服に着替える。ネクタイを結びながら、まだ俺は夢について、あの穴に何が埋まっていたのか、あの夢が俺のどんな心理状態の表れなのかについて考えていた。
フロイトの「夢判断」を読んだ訳じゃなかったが、夢が見た人の心理状態を表している、と言う話は聞いた事があった。穴を掘る……想像もつかない。
家を出ていつもの様に、駅に向かう途中にある高橋拓の家に寄った。幼なじみで小中高と一緒の学校に通う彼とはもう今年で十一年目の仲だ。
といっても小学生の時はそんなに仲が良い訳じゃなかった。中二の時、小四の時以来久々に同じクラスになって、そこから少しずつ話したり、家が近いこともあって一緒に学校に行くようになったりして仲良くなった。
しばらく話さないうちに拓は音楽に興味を持つようになっていて、家ではギターを弾いているらしかった。家にいる時はだいたいギターを触っているらしい。
そんなに熱中できる趣味があるなんて羨ましいなと思う。俺は今まで生きてきてそんなに一つの事に夢中になったりしたことはないから。
拓の家の近くに差し掛かって俺は拓に電話をかける。呼び出し音を一回だけ鳴らして切る、いわゆるワン切りをして、家の前に着くと、拓はちょうど玄関から出てきた。
「おはよ」
俺が言うと拓はこっちを見ずに、俯いたまま「おはよう」と言った。俺は挨拶はどんな相手にも欠かさない。“親しき仲にも礼儀あり”だ。でも拓が朝に弱いことを、俺はもちろん良く知っている。だから拓がこっちを見ずに挨拶したって別に気にならない。
二人並んで自転車を漕ぎながら、俺はその日見た夢の話と、その夢がどんな心理状態を表しているのだろうかという話を、世間話がてら拓に話してみる事にした。「うん」とか「あー」とか眠そうに相槌を打ちながら聞いていた拓は聞き終えて、さらりと言った。
「欲求不満なんだよ」
思いもよらなかった事を言われて俺は「なんで?」と語尾の上がった、とぼけた返しをした。
「だってさぁ……。“穴”じゃん」
あっははは、と笑う俺に拓はニヤけた顔を寄越した。
「もう、朝っぱらから勘弁してよ」
欲求不満言い出したのは拓の方だろう。
最寄り駅から電車に乗って、乗り換えの駅で鈴木仁が合流した。仁はいつも通り、五分遅れてきた。
仁は一年の時に俺と同じクラスになって、共通の趣味があって仲良くなった。拓とは違うクラスだったが、俺を介して友達になった訳だ。
仁は真面目で勉強は出来たが、時間にはルーズだ。だから俺と拓は毎朝仁の最寄り駅のホームで彼を待つ。
遊びの時なんかは、彼にだけ待ち合わせの時間を五分早めに教えたりなんかするぐらいだ。例えば八時集合であれば「七時五十五分に待ち合わせね」なんて風に。
まぁ仁はすぐにそのことに気づいて「ほんとは八時なんでしょ」とか言って、結局遅れてくるのだが。
「そりゃ拓の言うとおり、欲求不満だわ」
俺と拓から、今日俺が見た夢の話を聞いた仁は、全て聞き終えて訳知り顔で言った。
「お前が俺の何を知ってるんだよ」
「祐ちゃん、だっていっつもエロい事考えてんじゃん」
俺はとりあえず、仁の脇腹に手刀を突き刺した。仁はオーバーに抵抗して、拓がそれを呆れ顔で見ている。いつものパターンだ。
電車に揺られ三十分、学校のある菖蒲ヶ丘駅に着くと、学校に向かう生徒達で溢れていた。駅から学校までは一本道で、菖蒲ヶ丘商店街というアーケードが出来ていた。
規則正しく並べられ、敷き詰められた地面のレンガの上を、俺は革靴の踵をわざと鳴らすような歩き方で学校へと向かった。
カツッ、カツッ、というその音が好きだった。
男の子(祐一)サイドの一章目です。読んでくださった方、ありがとうございます。こんな感じでだらだら続きますが……。(笑 よかったら続きも読んでくださるとうれしいです。