自分、不器用ですから
木村を抱きしめてからどれだけの時間がたったのだろう。
最初は『俺何してんだ!?』とか思っていたものの、全然動かない木村を抱きしめているうちに『あー木村あったかいなー』とかって思い始めてきた。
なんか最初の頃のドキドキはどこぞの彼方へ行かれてしまわれたのやらと思うぐらいの落ち着きぶりだった。知らないうちに素数を4桁ぐらいまで数えたのかもしれない。覚えてないけど。
そんな時、腕の中の木村がピクッと動いた。
俺はその『ピクッ』に過剰反応してしまって、思わず木村から手を離して両手を上げて『何もしてません』のポーズをとった。
何か言われるのかと思ってドキドキドキンちゃんだったが、木村は何も言わずに俺の胸に額を当ててグリグリと頭を押し付けてきた。
「木村さん。痛いです」
「・・・バカ」
そう言いながら小さく笑う木村。
なんなのこの子。よくわかんない。
すると木村が頭を離して顔を上げた。
赤くなった顔で俺を見て満面の笑みだった。
ちょっとキュンとした。
そんな気持ちがバレないように俺は木村から視線をそらした。
「なんか今、愛されてるなーって思った」
「はぁ? 意味わかんねーし」
「いいの! ヘヘヘ」
とても満足したように笑う木村。
それにつられるように俺も思わず笑みが溢れる。
「そんなことよりさっきのはなんだったのよ」
「さっきの?」
「さっきまでめっちゃ拗ねてたじゃん」
「あ」
すっかり忘れてた。
衝撃的な現実があると、ちょっと前の出来事って忘れちゃうよねー。あるある。
でもこれを木村に言うということは、弟のことを木村に話さないといけないってことになるわけで・・・
・・・だめだ。俺、こんなに難しい人間関係は苦手だ。
もっとシンプルにいこう。うん。そうしよう。
「ちょっとついてこい」
俺は立ち上がって木村を連れて弟の部屋へと突撃した。
するとなんということでしょう。
扉を開けると、ベッドに並んで座っていた弟と可憐ちゃんがキッスをしているではありませんか。
俺はよくわからなくてドアを閉めた。
・・・あれ? どういうこと?
「ちょっとなんで閉めたのよ」
「いや、ちょっと待って。頭の整理をさせてもらえます?」
「何言ってんのよ」
俺はドアを開けようとする木村をなんとか押しとどめて、頭の中を整理しようと試みた。
まず、俺と可憐ちゃんが弟の部屋に突撃しました。
そして弟と木村が一緒に居たのを確認して、俺撤退。
俺と木村が抱き合いました。
再度、弟の部屋に行くと可憐ちゃんとチューチューラブリームニムニムラムラプリンプリンボロンヌルルレロレロしてました。いや、そこまでしてないか。チューチューまでだな。それ以上は中学生だからしないでしょ。・・・まだ早いよね。うん。
「って全然整理できねぇ!」
「もういいからどけなさいよ」
一瞬の隙をつかれて、弟の部屋のドアを開けてしまう木村。
木村さん、マジ特攻兵。船に突っ込む役とか似合いそう。
木村のリアクションを後ろから伺っていたのだが、特になんのリアクションも示さずにズカズカと入っていく。
あ、あれ? おかしいな。
俺も木村のあとに続いて部屋に入ったのだが、弟と可憐ちゃんはただ座ってこちらを見ているだけだった。
俺、夢見てたのか?
さっきも木村のこと抱きしめてたわけだし、どう考えても頭が混乱してたんだと思う。そうに違いない。解決!
「終わったの?」
「・・・お、終わったとは?」
弟が開口一番よくわかんないことを聞いてきた。
俺はどこのことかわからず、曖昧に聞き返した。
「紗枝ちゃんとはもう大丈夫なの?」
「ん?」
「・・・ケンカしてたみたいだから」
まるで『自分のせいでケンカした』とでも言っているような言い方だった。
まぁだいたいあってるんだけど。
でも別に弟のせいでケンカしたわけではない。俺が勝手に勘違いして、拗ねて、木村を困らせただけだ。
だから弟が悪いわけではない。
「別にケンカなんてしてないよ?」
横にいた木村が言った。
「そっか。良かった」
「なんかゴメンね?」
「ううん。僕は紗枝ちゃんとお兄ちゃんが仲良しならいいんだ」
そう言って微笑む弟。
ふと弟の隣に座っている可憐ちゃんを見て見ると、恥ずかしそうに顔を赤くして俯いていた。
・・・なぁにこれぇ。状況がまったくわからない。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
なにやら不思議な展開になってきました。
相変わらず、キャラ達が暴走しています。
次回もお楽しみに!




