可憐な恋
一人、あーだこーだと考えながら帰っていた。
いつもなら俺のことをあざとく見つけてくるはずの木村からも見つからずに、のんびりーとした下校となった。
弟からの爆弾を投下された2日前ぐらいからの月日の流れがとても長く感じる。
ゲームとかしてたら『あれ? もうこんな時間?』となるはずなのに、こんな考え事をしてる期間はとても長い。それだけ濃厚な生活を送ってるってことなのか?
だから電車を降りたときに見つけた可憐ちゃんを見て『おっ。可憐ちゃんだ。久しぶりに見たわー』と思ったのかもしれない。人間の体内時計というものは不思議なものである。
「おう」
「あ、お兄さん。待ってたんです」
「昨日も会ったばっかりじゃあないか」
そう。可憐ちゃんと会ったのはつい先日どころか、昨日の話だ。昨日の今日というやつだ。
「幸人くんなんですけど・・・」
「まだなんか変なの?」
「変っていうか・・・」
「ん?」
どこかもったいぶるようにからだをモジモジとさせる可憐ちゃん。
「私聞いちゃったんです」
「聞いた? 何を?」
「・・・幸人くんが、浩一くんに『好きな子いるの?』って聞いてるところを」
「・・・え?」
それだけ?
あの年齢の子ってそういう話するもんじゃないの?
クラスの中で好きな子を消去法で選んじゃったりするんじゃないの?
あの頃って視界が狭いから、自分たちのクラスのことしか見えないんだよな。自分のクラスで誰が一番可愛いかって話になるんだけど、だいたいが消去法で、しかもだいたいが特定の奴に偏るんだよな。そしてもう少し大きくなってから考え直してみると『なんであいつのこと好きとか言っちゃったんだろ?』って思うんだよな。
俺もそうだったもん。席替えの時に黒板に書かれた女子の名前を見て『あの子と離れちゃったな』って考えながら移動するんだけど、結局は隣に座った女子にちょっと惹かれちゃうんだよね。ようなあの頃は、女子ならなんでもいいんだよ。でもくっつけてる机をちょっとだけ離されるとすごいショックなんだよね。もう1ミリでも近くにいたいのに、それすら許されてない感じがして早く席替えをしたくなる。机を離すのだけはやめたほうがいい。女子の情報力はハンパないから、絶対に評価下がってるって。
俺はやられる側だからやったことないけどね! こんちきしょー!
「違うんです。幸人くんが聞いたんですよ?」
「・・・ハッ!」
そういうことか!
あいつは元々他人に興味なさげにしてるくせに、浩一くんにそんなことを尋ねるのはおかしいと思ったわけか!
「いや、でもそれは考えすぎでしょ」
考え直すと、別に成長したんだと考えた俺は、家に向かって歩き始めた。
歩きだした俺に可憐ちゃんが付いてきた。
もし警官に見つかったら、幼女誘拐とかで職務質問されちゃうかもな。
『職業は?』
『高校生です』
『じゃあこの子は?』
『弟の友達です』
『・・・とりあえず署まで来てもらおうか』
ダメだ。イメージトレーニングの段階でアウトだ。
最近の世の中はおかしい!
ナンパで捕まるレベルだもん。でもイケメンがナンパする場合はなんともないんでしょ? なんという顔面格差社会!
高校生と中学生のカップルなんて、捕まってもおかしくないだろ。
まさかロリコン撲滅計画でも極秘裏に進められてるのかね?
「もうちょっと真面目に聞いてください!」
可憐ちゃんが必死そうな表情で訴えかけてくる。
これはこれで可愛い。
・・・いや『小さい子可愛い』って感じと同じな。いやいや。ロリコン的な意味じゃなくて、母性愛的な意味な。勘違いしないでよ。俺は幼馴染み一筋なんだからな。朝に起こしに来てくれるような幼馴染みが良い。たまに俺から起こしに行って、寝ぼけた声で『えっ!? もうそんな時間!? い、今から準備するから待ってて!!』とか言っちゃう子が抜群にタイプだ。
年下はあんまり・・・
「俺はいつでも真面目だってばよ」
「そんな口調の人が真面目なはずありません」
「木ノ葉の忍者に失礼だろ」
「・・・もういいです」
そう言ってぷいっと背中を向けてしまう可憐ちゃん。
俺がこういう真面目な話が苦手なのを知っているのだろうか?
まぁなんにせよ可憐ちゃんの恋路にまで関わっている場合ではない。しかもちょっと見当外れっぽいし。
俺が可憐ちゃんを放置して歩き出そうとしたところ、可憐ちゃんはむこうを向いたままノールックで俺の袖を掴んだ。鷲の鉤爪だと!?
そして可憐ちゃんは俺に向かって言った。
「ここは引き止める所でしょ!?」
「・・・そうですね」
どうしてこうも女子という生き物はめんどくさいのだろうか。
「で、結局可憐ちゃんはどうしたいわけ?」
「わ、私ですか?」
「弟に告白でもしたいの?」
「私は幸人くんが困ってるみたいだったので、力になれればなぁって思って・・・」
「じゃああいつが困ってるのに何もしてないで、俺にこうやって話してるっているこの時間はどうなの?」
「これも幸人くんのためであって・・・」
「じゃあ本人に直接聞けばいいんじゃないの?」
「うぅ・・・」
腕を掴まれたまま可憐ちゃんに思ったことをそのまま言った。
ちょっと言いすぎたかなとも思ったが、可憐ちゃんが成長するためだと思えば、俺は嫌われ役でいいと思った。世の中には嫌われ役という役割が必要なんだ。
俺の言葉に、シュンとしていた可憐ちゃんが、俺の袖をさらに強く引っ張って言った。
「わかりました。お兄さんの言うとおりです。これから幸人くんに会って、直接聞いてみます」
「え? マジで?」
「マジです。本気と書いてマジです」
・・・弟に事情を聞かれたらマズくね?
だってあいつなんでも喋りそうだし、そもそも原因は『俺と木村が付き合ったから』ってことになるわけでしょ?
これもう泥沼決定だよ。俺がいなくなる以外の選択肢が見つからねぇよ。
神様仏様助けて! あ、日食のメガネで見える方の仏はいらないわ。ウザイし。
「じゃあ行きましょう!」
「えっ! ちょっ、まっ!」
俺の腕をグイグイと引っ張りながら歩いていく可憐ちゃん。
もうこの勢いは誰にも止めることはできないだろう。
俺は引っ張られて転びそうになりながらもなんとか歩いて帰っていった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
可憐回が多くなってきちゃいました。
次回もお楽しみに!




