えんびー
放課後、教室で残って勉強をしていくという渡辺が、帰ろうとしていた俺を呼び止めて、恒例の人気のない場所へと連れてきた。
さっき中途半端で終わった話の続きだろう。
弟の想い人が木村だとバレた直後に鳴ったチャイムによって中断された話の続きだろう。
・・・ってゆーかもうこの話はあんまり話したくない、かな。
だって・・・
「兄弟で同じ人間好きになるとかドラマかよ」
そう言うと思ってた。ジョゼフが相手の次の言葉を宣言したときと同じレベルで予測できた。
だって俺も思ったもん。
ホントなんなんだろうか。
俺も弟もやっぱり同じ血が流れてるとしか考えられない。いや、まぁ実際に流れてるんだけどさ。
なんてゆーの? 遺伝子的な意味? そんな感じ。
「俺だってそんなこと考えもしなかったっての」
「ってことはアレか? お前の弟もお前と同じ理由で『あいつの笑顔を守りたいから』的なクサイセリフ言っちゃうわけ?」
「もうそのセリフを口にするな」
俺の中で一番言いたくなかったセリフのかなり上位・・・いや、殿堂入りしている。
だからもう二度と口にしたくない。小っ恥ずかしいわ!!
「いいじゃん。かっこいいじゃん」
「オタクには痛い。痛すぎる」
「まぁいいや。で、弟と同じ人を好きになったわけだけど、どうすんだ?」
「そこなんだけどさ、弟は別に木村と付き合いたいとか思ってるわけじゃなくて、ただ好きなだけなんだってさ。これってどういうことなの?」
俺は弟のここがよくわからなかった。
しかし、そんなちょっと真面目に聞いた俺を『何こいつ。何言ってんの?』的な表情で渡辺が見てきた。これはこれでムカツク。
「・・・それって友達として好きってやつじゃねぇの?」
「でも俺と木村が遊んでたりすると、なんかむかつくって言われるんだぞ?」
「ほら。仲良かった友達が、違う友達とばっかり遊んでたらちょっと寂しくなるだろ?」
「だろ?って言われてもそんな友達いねぇし」
そんなに友達と遊んだことないし、そんなに友達に執着したことないし。
「あ、そっか。そういうもんなんだよ。俗に言う嫉妬ってやつだな」
「嫉妬・・・ですか」
弟のあれは嫉妬であって、恋ではないということか。
さすが渡辺。石狩街道よりも広いリア充街道を走ってるだけあるな。友達関係のことに関してはすごいや。
でも恋愛関係になると歪んでるからあんまり相談したくなかったのは内緒な。
「まぁこれでお前の弟のことも解決したわけだし、俺は勉学に励むとするかな」
「おう。なんかありがとな」
「だからお前のお礼は気持ち悪いからやめろって」
せっかく人がお礼を言ったのに・・・
「じゃあ一つだけ」
俺は渡辺に向かって人差し指を立てた。
「なんだよ」
「勉強は一人でやったほうが効率がいいぞ」
「・・・うるせ」
そう短く言うと、渡辺は背中を向けて教室の方へと歩いていった。
俺は渡辺とは違って効率厨なので、さっさと家に帰って勉学に励むことにした。
今日の夜にでも、『お前のソレは恋じゃなくて、ただの嫉妬だ!』って言ってやろう。うん。
・・・うん?
あれ? 言ってどうするんだ?
嫉妬が原因なら、その問題を解消しないといけないわけで・・・
でも木村と弟って結構遊んでるよね? 『俺よりも遊んでるんじゃね?』ってくらい遊んでるよね?
これはいかにして解決すればいいのだ?
渡辺に肝心なことを聞こうとしたが、教室から漏れてくるリア充な空気が、俺が入ってくることを拒みまくっている。いや、俺の中の何かが危険だと知らせてくれているのかもしれない。
俺は俺の中の何かに従うことにして、渡辺に再度相談することを諦めた。
一体どうすればいいんだ。
まるで全く勝てない状況からの逆転の手を考えて悩み続けるデュエリストのようだった。
俺の人生にもサレンダーがあれば今すぐサレンダーしたい気分だが、今の俺は『グォレンダァ!』の3発目ぐらいを受けた直後のようだ。
俺のところにもケッツァクアトルの赤き竜が来て助けてくれないものだろうか?
「・・・はぁ。来るわけないよな」
最近ため息の数が多くなってきた気がする。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
英語のタイトルって初かもしれない!
次回もお楽しみに!




