恋する乙女
家に帰ると、弟からの爆弾発言があった。
弟はあっけにとられている俺を見て、『眠いから寝る』とだけ言って、部屋へと行ってしまった。
俺は、どうしたらいいもんかと思いながらも、今度のテストに向けて勉強をするほか思いつかなかった。
弟が何を考えているのかよくわからないのは今に始まったものではないが、ここまでの発言をしてきたのは初めてだ。そしてここまで弟が何を考えているのかを知りたいと思ったのは初めてだった。
そんなこんなで学校に着いた俺は、テスト前のまとめに入りつつある授業を聞きながら、事務的に板書をノートに写していった。
授業が終わってからノートを見直すと、今までの『見ればわかるノート』に達することが出来なかった。
そしてそのノートを狙うセコイやつがやってきた。
「ノートかーして」
木村が弾んだ声でやってきた。
「貸さん」
「なんでよ。貸してくれたっていいじゃん。どうせテスト勉強とかしないんでしょ?」
「しますー。前はお前に取られたからできなかっただけで、一応やってるんですー」
「じゃあコピー取らせて」
「・・・もう自分で勉強しろよ」
「だって黒板の文字見てたら訳わかんなくなってくるんだもん」
「もう学生やめて働けば?」
「うわっ。ひどっ! 伊織ー、助けてー」
そう言って、黙ってみていた伊織姉さんに抱きつく木村。
「おーよしよし。紗枝はバカだから勉強できないんだもんねー」
「出来るわい!!」
頭を撫でながらも木村をバカにする姉さん。マジパネェ。
「伊織まで・・・酷い・・・」
「木村さん。私のノートで良ければ貸そうか?」
と、前の席から一連の流れを見ていた吉川さんが手を差し伸べた。
パッと明るさを取り戻す木村。こいつは人に物を借りないと勉強もできないのか。
「吉川さんありがとー! マジで助かる!」
「いえいえ」
仲良さげに笑顔を向けあっている2人を見て、姉さんが不思議そうに俺に訪ねてきた。
「何あの2人。あんなに仲良かったの?」
「・・・嫉妬スか?」
「うん」
うおっ! この人認めた! 簡単に認めおった!
どんだけ木村のこと好きなんだよ。俺より姉さんと付き合ったほうが木村も幸せになれるだろうに。
「なんかリア充になるための修行で仲良くなったんだってさ」
「はぁ? 修行? なにそれ?」
「いや、俺に聞かれても・・・」
姉さんや木村でも意味わかんないのに、俺にわかるはずもない。
「ふーん・・・」
姉さんは、どこか意味ありげに2人を見ながら小さく笑った。
・・・ちょっと怖いんですけど。
吉川さん。達者でな。
そんな一日の学校生活も終わり、俺は一人で家路についた。
木村は姉さんと遊ぶということで、今日は一人での下校であった。
一人で帰るのは結構好きだ。
一緒に歩く人間のペースに合わせることもないし、『今日は違う道から帰っちゃおうかなー』とかもできるし、遠慮なく立ち読みして帰ることもできる。
ヤンジャンの源君物語も気兼ねなく読める。
これで木村と一緒に帰っていたら、ハチワンとキングダムとガンツだけ読んで帰っているところだ。
そんな感じのひとりぼっちの帰り道を楽しみながら帰り、電車を降りて改札を抜けると、そこに見知ったちびっ子がいた。
「あ、お兄さん!」
可憐ちゃんだ。あいかわらずのブチャラティヘアーは忘れることはない。将来はジッパーをどうにかする仕事に就くことだろう。
「何か用?」
「ちょっと聞きたいことがるんですが、カレンの話を聞いてもらってもいいですか?」
「黒の騎士団への勧誘ならお断りだよ。俺はナイトオブラウンズへの昇格が決定してるんだから」
「何言ってんのかわかりません」
なん・・・だと・・・?
こいつ、散々オタクだオタクだと言っておきながら、ギアスを知らないだと?
これがジェネレーションギャップというやつか。
「んで? 何用かね?」
「はい。なんか幸人くんの様子がおかしかったんです」
「幸人が?」
「はい。どこかぼーっとしてるっていうか、何か考え込んでるような感じで何回もため息をついてるんです。それで本人に聞いてみても『なんでもないよ』しか言ってくれないんです。お兄さん、何か知りませんか?」
心当たり有りまくりなんですけど。
でもあいつから言わないってことは、言いたくないってことなんだろ。だったら俺が言うのは筋違いってもんだよな。
「さぁ? 俺は何も知らないけど」
「そうですか・・・」
しょぼんと肩を落とす可憐ちゃん。
ここでブチャラティなら『ペロッ。これは嘘をついてる味だ』とか言うんだろうけど、この子にはまだそんな汗ソムリエとしての素質は芽生えていないようだ。
ちなみに『ペロッ。これは青酸カリ!!』は小さい探偵さんな。同じ『ペロッ』でもここまで違いが出てくるとは。
「それにしてもよく見てるな。あいつ、何考えてるかよくわからんのに」
「そうですか? 結構わかりやすいですよ。今日楽しそうとか、ピーマン嫌いなんだなーとか、眠そうとか」
「あいつそんなにわかりやすいやつだっけ?」
ってゆか、あいつピーマン嫌いなの? 初耳なんですけど。
「カレン、お兄さんと同じぐらい幸人くん好きですもん。あ、これは幸人くんには内緒ですよ?」
エヘヘと笑いながら言う可憐ちゃん。
うわー。完全に恋する乙女の顔だよ。
この子、まだ中学生だよね?
可憐ちゃんが俺が中二病にかかっていたころと同じ年齢だとは思えないほど、乙女な顔をしていた。
もう木村じゃなくて可憐ちゃんと付き合っちゃえよ。と言えたらどんだけ楽なことか。はぁ。
「じゃあカレンはカレンで調べてみますので、お兄さんもわかったら教えてくださいね!」
そう言って手を振りながら去っていく可憐ちゃん。
俺はその恋する乙女が想いをはぜている人のために頑張っている姿を見て思った。
「・・・どうやって連絡するんだよ」
これだから中学生は。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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はい、5章がはじまりました。
弟くん回になる予定です。
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次回もお楽しみに!




