紗枝と伊織
俺と木村と伊織ちゃんは、恒例となりつつある人気のない場所にやってきた。
廊下の曲がり角で、渡辺と吉川さんとプジョルがのぞき込んでいたので、先に追っ払っておいた。油断も隙もあったもんじゃない。
そして三人きりになり、木村が口を開いた。
「伊織。あんた何言ってんの?」
「隠しちゃってー」
「・・・・・・」
俺が知る中で一番のテンションの高さを保っている伊織ちゃんの視線から逃げた木村が、俺の方を見た。
いやいや。俺のせい? 俺のせいなの?
手を胸の前に出して、『何もしてませんよー』と言わんばかりに、両手を振った。
さらに睨みを利かせてくる木村。こうかはいまひとつのようだ。
「紗枝ー。どうして隠してたのよー」
「だから何をよ」
「紗枝ってオタクなんでしょ?」
「・・・・・・」
また耐え切れなくなって木村が俺を見る。今度は睨みに泣きそうな気持ちが混じっている。
もう見ないでください。そんな目で俺を見ないでください。
「・・・紗枝」
突然、ハイテンション伊織ちゃんの目が鋭くなった。眉間にシワが寄りそうな勢いだ。やだ超怖い。
「どうして隠してたのよ」
さっきと同じセリフのはずなのに、今の方が何倍も怖い。
さっきまでのハイテンションは、怒りをごまかしてたってことなの?
「どうしてって・・・」
「あたしたち親友なんでしょ?」
「うん・・・」
「もしかしてそう思ってたのは私だけだった?」
「そんなことないって。私だって」
「じゃあどうして隠し事してたのよ」
・・・居づらい。怖い。
相手の言葉に対して被せるように言ってくるってことは結構怒ってるってことなのか?
伊織ちゃんの剣幕に押されてしまったのか、黙り込んでしまう木村。
「私には隠しておいて、こいつには言ってたんでしょ? マジでありえないわ・・・」
その言葉にさらにシュンとする木村。
ここまでシュンとした木村を見るのは久しぶりかもしれない。
前に俺の枕を粉砕したときの倍はショボーンとしている。
「・・・・・・」
「・・・ん?」
木村に鋭い視線を向けながら、俺のことをチラチラと見てくる伊織ちゃん。
え? 何? 俺?
もしかして俺のせいって言わないといけないの?
確認したいのは山々なのだが、確認する術がない。
仕方ないので、伊織ちゃんにアイコンタクトを送る。
『俺のせいにしろと申すのか?』
大きく頷く伊織ちゃん。
やった! アイコンタクトが通じたぞ!
ってそういう問題じゃねぇ! この人、俺を犠牲にしてこの状況を収めるつもりか? とんだ暗躍者だぜ・・・
し、しかし、俺にも非があるわけだし、謝るだけ謝っておこう。
「き、木村・・・実は俺が伊織ちゃんにうっかり喋っちゃったんだ。ごめんな」
「・・・別にあんたは悪くない・・・」
今にも泣き出しそうな震えた声で答える木村。
こいつ、意外とネガティブ思考だからな・・・こうなったら手が付けられん。
それは伊織ちゃんもわかっているようで、眉の両端を少し下げて怒りを鎮めた。
「あー・・・紗枝? 私も言いすぎた。ごめんなさい」
「・・・でも隠し事してたのは私だもん・・・うぅ・・・」
まずい! 木村が泣く!
俺としては泣かれるのは非常に気まずい!
しかも今日は学校に来たばかりで、これから約6時間以上は学校に居ないといけない!
うぅ・・・俺も泣きたい・・・
「紗枝っ!」
「は、はいっ!?」
急に伊織ちゃんが大きな声を出した。
めっちゃビックリした。びっくりしすぎて何も悪いことしてないのに謝っちゃうところだった。
「いつまでもメソメソしてるんじゃないの!」
「えっ!? で、でも伊織が怒ってるし・・・」
「そりゃ隠し事されたら誰だって怒るっての!」
伊織ちゃんの声が廊下中に響きわたる。
「やっぱり怒ってるんじゃん・・・」
「だーっ!! 怒ってるけど怒ってないの!」
矛盾論キター!!
「隠し事されてて怒ってるけど、あたしらはそれで嫌いになるような関係じゃないでしょ?」
木村の両肩に手を置いて、諭すように言う伊織ちゃん。お母さんみたい。
「別に紗枝がオタクだからって嫌いにならないし。むしろ紗枝が心を開いてくれたような気がして嬉しいし」
「伊織・・・」
俺はこんな言葉、臭すぎて言えやしないよ。
それをサラッと行ってしまうあたり、伊織ちゃんの姉御としての素質を再認識せざるを得ない。
こんどから姉御って呼んでみよう。怒られたら怖いからやっぱりやめよう。
「なんか今までの紗枝ってさ、どっか心の奥底には手を触れさせないってゆーか、自分からバリア張ってるような感じがしてたからさ、もしかしたら好かれてないのかなーって思ったりしてたんだよね」
「ごめんなさい・・・」
「で、こいつから聞いたら、あーそーゆーことかって思って納得したってわけ。でも隠し事してたのは悪いと思ってよね」
「うん・・・ごめんね」
「じゃあこの話はこれでおしまい! ほら。元気出して! 教室戻らないと欠席にされちゃうよ!」
「うんっ」
そう言って木村の手を引いていく伊織ちゃん。
顔を上げて引っ張られていく木村の顔は、とても自然な笑顔だった。
これで木村と伊織ちゃんの関係は今まで以上に良くなっていくのだろう。
よかったよかった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけるとウルトラハッピーです。
全然関係無いんですけど、モンハンのシェンガオレンって、ガッシュの技名みたいですよね。
次回もお楽しみに!




