三度目の正直
二人きりの教室。
教室の中は、外からのキャンプファイヤーの明かりだけなのですこし薄暗いが、雰囲気が出ている。
外ではキャッキャと騒いでいるリア充ども。
隣ではそれを赤い顔で見ている木村。
そしてなんか変なことになってしまったと後悔している俺。
って、勢いでこんなことになっちゃったけど、これってマズくね?
いや、マズイなんてもんじゃない。下手すれば死亡フラグだ。
とりあえず状況を整理しよう。いや、これはさっきやったか。
じゃあ木村に説明しよう。うん、そうしよう。説明を聞けば木村も納得してくれるだろう。
そう考えた俺は5秒後にさらに後悔することになった。
「き、木村。話を聞いてくれ」
「・・・うん」
うっとりした顔で俺を見てくる木村。
うわぁ・・・ちょっと前の俺に『やめとけ! ここで口を開くのはマズイ!』と忠告してやりたい。
こんな状況でこんな雰囲気で言う言葉なんて限られてくるだろ。
俺が木村だったら告白かプロポーズだと思うわ。
「えっと・・・」
「・・・フフ」
俺が恥ずかしがってると思ったのか、木村がイタズラに笑った。
いや『勘違いも甚だしいわ!!』って言いたくなるレベル。でもそれをこの状況で言えない俺のチキンハート。これがチキンラーメンだったらどれだけ良かったことか。
「先に言っておくけど、こ、告白とかじゃないからな?」
「わかってるって」
ホントニワカッテルノ?
「じゃあ言うけど・・・」
俺は、覚悟を決めた。
「えーと、木村を引き止めたのは、ドム子から守るためであって、別に二人っきりになりたいとかそーゆーやましい気持ちがあったわけではなくて・・・」
「どうせそんなことだろうと思ったわよ」
クルリと背を向けてそっぽを向く木村。
「あんたがこんな雰囲気作ってまで、その・・・告白とかしてくるわけないもんね」
「なんか・・・ゴメンな」
「でも私のためにしてくれたんでしょ?」
「・・・ん?」
「だから、私を千絵美から守るためにしてくれたんでしょ? それだけでも嬉しいって」
・・・結果的にはそうなるのか。
ってか、今まで気付かなかったけど、ナチュラルに木村のこと守ろうとか考えてたわけ?
ないわー。太平洋と大西洋を間違えるくらいないわー。
そう言った木村は、からだを俺のほうに向けると、ゆっくりと迫ってきた。
「えっ、ちょっ」
そしてそのまま俺の背中に腕を回して胸に顔を埋めた。
ちょっ、と、待って。
そう言いたいのに、ドキドキしすぎて声が出ない。
「・・・ホントに嬉しかったんだからね」
「お、おう」
「なんだかんだ言ってても、学校祭も一緒に回ってくれたし、こうやって私のためにこんな恥ずかしいことまでしてくれたし」
やっぱり恥ずかしいことなのね。
「こんなことされて惚れない女なんていないって」
そう言って顔を上げる木村。
俺の方が身長が高いので、木村からはちょっと下から見上げられる形になる。要するに上目遣いというやつだ。
いつもと違った木村の顔に、俺はとてもドキドキしていた。
こんなことされてドキドキしない男がいるなら教えてほしい。
「ねぇ、ダメ?」
「えっ、と・・・ダメ、とは?」
「私とは付き合ってくれない?」
「えーっと・・・つ、付き合うってよくわかんないって言ったじゃん」
「私が教えてあげるから」
教えるって何!?
俺の背後には机があるから動くに動けない。無理に動けば、木村ごと倒れてしまうかもしれない。
恥ずかしいけど、木村から視線をそらすことができない。
すると、木村の顔がズイっと近づいてきた。
そしてそのまま唇へと・・・
つまりキッスというやつである。
初キスはレモンの味とか言うが、よくわからなかった。しいて言うなら木村の味がした。
木村の唇は柔らかかった。リップクリームでも塗っているのか、ちょっとベタっとしたけど。
俺は硬直のまま、木村とのキッスを10秒はしていたと思う。
「・・・っはぁ。私の気持ちわかった?」
「・・・・・・」
「あれ? 大丈夫?」
木村が俺の目の前で手をブンブンと振る。
「はっ!」
「・・・大丈夫?」
「えっ! あっ、う、うん。だだだ、だいじょ、ぶ、です」
「大丈夫じゃないじゃん」
「お、お前、今のは・・・?」
「キスだけど」
「お、おおおおまっ、ここはアメリカじゃないんだぞ! 日本だぞ!」
「何を今さら・・・」
「あいさつ代わりのキ、キスとか、そんな習慣ないだろ!」
「あいさつじゃないし。真面目にあんたのこと好きだからしたんだもん。誰にでもしてるわけじゃないからね?」
「もちろんだ! こんなこと誰にでもしてたら困るわ!」
「・・・困るの?」
「困るっ・・・らない!!」
「へー・・・困るんだ」
もうこの子やだっ。人のことで遊びすぎ!
と思っていたら、木村が顔を真っ赤にしながらも真剣な顔で俺を見た。
「私と付き合ってください」
・・・はぁ。
こうやって改まって言われると弱いってゆーか、こんなキスとかされて平常心で居られなかったってゆーか、こんなに真剣に告白されて断れないってゆーか、俺ももうまんざらでもないのかなぁなんて思ったりしてるってゆーか、付き合ってみようかなって考えてる俺がいた。
でもこんな曖昧な気持ちで付き合ってもいいのか、と思う俺もいた。
「俺、お前と付き合ってもいいかなって思ってる」
「だよね・・・って、えっ!?」
「でもなんか付き合うとかよくわかんないし、お前のこと好きかもよくわかんないし」
「あっ、そ、それでもいい!」
「・・・いいのか?」
そんなんで付き合ってもいいの?
付き合うってそんなもんなの?
「私頑張るから! あんたが私のこと好きになるまで頑張るから!」
「別に頑張らなくても・・・」
「だから付き合って!!」
俺って押しに弱いのな。今知った。
「・・・じゃあ、その・・・よろしくお願いします」
なんかあんまり釈然としない感じだったけど、OKしてしまった。
俺を見ていた木村の目から涙が流れた。
「おまっ、何泣いてんだよっ」
「嬉しくてつい・・・えーん」
俺に抱きついてくる木村。
こ、こういう時ってどうすればいいんだ!?
いきなり試練とかマジ勘弁!
どうすることもできないから、とりあえず両手を上げて抱きつかせたままにした。痴漢してませんよーのポーズ。
すると木村がスっと離れて、俺が上げた両手を見上げてから俺の顔を見た。
「そういう時は優しく抱きしめるのが普通でしょ!」
そして蹴られた。
「よし。別れよう」
「あー! ごめん! 嘘! 嘘だから!」
「人のこと蹴っておいて嘘ってなんだよ! 嘘なら蹴るな!」
「ついいつもの癖で・・・」
癖で蹴るってなんなの?
ここまで読んでいただきありがとうございます。
感想とか書いていただけると嬉しいです。
これで第3章は終わりとなります。
ドカーン。ボカーン。チュドーン。
次回もお楽しみに!




