かくれんぼの末に
教室を出た俺は、前に逃げた経験のある一階の自販機の横まで逃走してきた。
『逃げることは臆病ではない』
誰かが言っていそうな言葉だ。なんかどっかで聞いたことがある。
だからこれは逃げているのではない。これからを生きていくための作戦なのだ。
あのジョゼフだって足が動くうちは逃げながら作戦を考えたものだ。
だから俺も逃げる。渡辺から逃げる算段を立てるんた。
・・・俺の場合はかっこ悪い方の『逃げる』だけど。
・・・わかってるんだよ。
だってどう考えてもただ逃げてるだけで、渡辺に向き合ってないもん。
こうやって自販機と壁に挟まれてると落ち着いてくるせいか、色々と思うところもある。
渡辺は、俺と友達になりたいと言った。
でも俺はそれを断った。というか跳ね除けた。
友達だって言ってくれたけど、俺ってそこまで何もやってないし、俺も渡辺に何もしてないもん。だから友達だって言われてもいまいちピンとこない。
木村のことは・・・まぁ百歩譲って友達だとしよう。で、木村とは色々あったし、趣味とかも合ってるから友達だとしてもいいんだよ。
でも渡辺って俺に合わないじゃん。
あいつ何気にイケメンだし、リア充っぽいし、オタクじゃないし、超冷めてるし。
俺と全く違うジャンルで、違う世界で生きるような人間じゃん。
もうわけわからん。
どうして木村にしろ渡辺にしろ俺に関わろうとするんだ。もう放っておいてくれれば楽なのに。
って、なんで俺がこんなに他人のことで悩まんとダメなんだ。はぁ・・・めんどくさい。
「みーっけた!」
「ヒィッ!」
小さくため息をついたところで、いきなり視界に渡辺が顔を出してきた。
ビックリして変な声が出たのは内緒な。
表情があんまり動いてないってことは、結構素のほうの渡辺らしい。どうせなら明るい方の渡辺に見つかりたかった。
「何逃げてるんだよ」
「・・・逃げてないし。ちょっと自販機と壁に挟まれたいなーっていう衝動に駆られたからここに来だけだし。トイレに行くような感じだし」
我ながら苦しい言い訳である。
言い訳っていいわけ? ・・・はい。
「なんだそれ。さて、さっきの続き」
「その話はやめよう」
「じゃあ友達ってことでいいな」
「・・・強引すぎるだろ」
「お前がちゃんと話してくれないからだろ」
なんだよ。なんなんだよ。
「もう放っておいてくれよ。なんでそんなに俺にかまってくるかな・・・」
「お前のことが好きだから」
・・・はい?
「えっ、ちょ、え?」
「俺がお前のことを好きだと迷惑か?」
えっ? はい? あれ? あ、いや・・・えっ?
やべっ、頭が全然働かない・・・
こいつなんて言った?
いや、えっ? でも・・・いやーちょっと落ち着きたいなぁー。
そう思っていても落ち着けるはずもない。落ち着きたい時に落ち着く能力が働いてくれないのはとても困る。深呼吸しよう。うんそうしよう。
すーーーーはーーーー。
うん。あんまり変わらない。
「その、す、好きってどういう・・・?」
「だから友達になってくれ」
「それって友達としてってことだよな?」
「ん? 当たり前だろ?」
「ででで、ですよねー」
・・・マジでビビッたじゃねぇか!!
俺のこと男として好きなのかと思ったわ!!
俺の人生が違う方向に進んじまうところだったわ!!
下手したら薄い本が出来ちゃうレベルですよ!!
はぁ・・・ビックリした。
この天然野郎め。そのまま誰かにしっぽり掘られてしまえ。阿部さーん。ここでーす。
「なんでそんなにビックリしてんだよ」
「お前が悪い」
「なんでだよ」
「なんでもだ」
「意味わからん奴だな」
お前に言われたくないわ。
「で、俺はちゃんと言ったんだから、お前が俺と友達になりたくない理由を説明してくれ。内容によっては諦めてやる」
・・・そもそも理由なんてないし。
それにこいつ、俺が何言ったところで絶対に諦めなさそうだもんな。Mだし。
「・・・わかったよ。友達でもなんでもなってやる」
「やっと諦めたか」
静かに笑顔を作る渡辺。
こういうところがモテるんだろうなぁとか考えながら、渡辺を見た。
そして渡辺から手が差し出された。
「じゃあこれからよろしくな」
俺は差し出された手を握った。
渡辺が引っ張って立ち上がらせてくれた。サッカーやってるからこういう立たせ方が常識なのかね?
「・・・こちらこそ」
渡辺の手は少し汗ばんでいて、ちょっとベトベトした。
握手なんてしたの何年ぶりだろ・・・
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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ぼっちくんはぼっち(笑)へと進化した!
次回もお楽しみに!




