渡辺の憂鬱
俺は渡辺の誘惑にホイホイと誘われて、一緒に行った近くのジョイフルで買い物を終えた。おしまい。
「って、これだけならお前一人でもよかったんじゃねぇの?」
買ったのは、白い布1mだけ。
なんでも白い着物の採寸を間違えて作ってしまったため、急遽布というか生地が無くなってしまったのだとか。それで頭につける『うらめしやー』的な三角のやつを作る分が無くなったんだとか。
「お前を誘ったのはちょっと話を聞いてもらいたかったんだ」
まさかの相談相手かよ・・・
木村といい、渡辺といい、悩み多すぎだろ。もう少し悩まなくてもいいような生活しろよな。
「ってわけで、昼飯食べながらでもいいか?」
「俺は奢ってもらう身だから、食べられればどのタイミングでも問題ない」
「じゃあ行くか」
並んで歩く渡辺をチラリと見ると、やっぱりここ最近の元気さが無いように見えた。でも前まではずっとクールキャラだったんだから、これが元の渡辺だと思えばなんら不思議はない気もした。
そして渡辺に連れてこられたのは、イトーヨーカドーのフードコートだった。
「さぁ好きなもん食べていいぞ」
「・・・・・・」
「どうした?」
「もっとおいしいところ連れていってくれるのかと思ってた俺がいました」
「バカ言うな。高校生の財力なめんなよ」
フードコートには、ケンタッキー、うどん、ラーメン、たこ焼き、クレープがあった。
選択肢が偏りすぎてる気もした。
しかし渡辺が奢ってくれるということなので、仕方なしにラーメンで手を打った。もちろん味噌ラーメン。
札幌は一番味噌が美味しいらしい。醤油は旭川で、塩は函館。他にもいろいろあるらしいけど、大きいのはこの3箇所だ。
でも札幌駅の上の方に『ラーメン共和国』という北海道各地の選び抜かれたラーメン屋が集まっているところがある。一回だけ家族で行ったことがあるんだけど、母さんと父さんが行きたいラーメン屋争いでケンカしてた。あの時、弟が居なかったらと思うとゾッとする。
持っていた番号札がピピピピと鳴ったので、ラーメンを受け取って席に着いた。
そして一口すすったところで、渡辺が口を開いた。渡辺はきつねうどん。人の食べてる物ってうまそうに見えるよね。
「あのさ、俺告られたんだ」
「誰に?」
「同じクラスの中島」
「へぇー」
誰?
磯野と野球してる中島くんしか知らないんだけど。
「でさ、その返事を学祭までにほしいって言われてんだ」
「付き合っちゃえばいいじゃん」
「人事みたいに・・・」
「だって人事だもん」
渡辺が誰と付き合おうが俺には関係無いもんね。
ラーメンずるずる。意外とイケルな。
「まぁお前ならそう言うと思ってたよ」
「じゃあお前は付き合いたくないってことなの?」
「まぁ・・・」
「じゃあフれば?」
「そういうわけにもいかないだろ」
「じゃあどうしたいんだよ。めんどくさいやつだな」
なんなの?
はっきり言えばいいじゃん。
ハッ!・・・もしかして俺に相談したのって・・・
「お前・・・まさか俺のことが・・・?」
「んなわけねぇだろ。昼飯代返してもらうぞ」
「胃袋にある分でいいなら返してやるよ」
「はぁ・・・一応友達だったわけよ。で、最近明るくなったよねーとか言われて、そのまま話してたら『実は渡辺のこと好きなんだ』とか言われちゃったってわけ」
「確かに明るくなったな」
「木村につまんねーとか言われたから、頑張ってたんだよ」
うわなにこの子。ピュア過ぎ! 眩しくて直視出来ない!
ラーメンずるずる。味噌ラーメンうまー。
「そういえば木村のこと好きだったんだっけ」
「忘れてたのかよ。俺とお前はライバルなんだからな」
割り箸で俺のほうを指しながら言う渡辺。
箸を人に向けるんじゃない。
ってゆーか俺は木村のことそんなふうに思ってないし。
・・・思ってないからな。
「ライバルに相談するってどうなんだよ」
「だってお前ぐらいしかこんなこと相談できないし」
「友達いっぱいいるじゃん」
「もし俺が木村のこと好きなの漏れたら恥ずかしいだろ」
「よし。バラせばいいんだな。任せろー」
バリバリー。
「もしバラしたら、お前の家に行くからな」
「なんでそうなるんだよ」
「マンガとか全部燃やしてやる」
「おまわりさーん! こいつですー!」
あっさりと放火宣告しおった。こいつやりおる。
「とにかく、お前ならバラす友達も居ないだろうから安心ってわけ」
「俺、一応木村と仲いいんだぞ?」
「お前が木村に俺のこと言うとは思えない。だから安心だ」
どこに俺を信用する要素があったと言うのかね?
確かに言いはしないけどさ・・・木村と一緒に居る時に恋愛絡みの話はタブーだからな。あいつすぐ調子乗るし、俺も迫られて困るし。
「んで、お前は何がしたいわけ?」
「ちょっと俺と付き合って欲しいんだ」
「断固断るっ!!」
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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渡辺編となります。
なにげに感想とかで一番人気を誇ってます。
次回もお楽しみに!




